弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

日弁連「震災関連死の審査に関する意見書」、とくに因果関係の認定について

日本弁護士連合会(日弁連)は、2013年9月18日、「震災関連死の審査に関する意見書」を復興大臣、内閣府特命担当大臣(防災)、厚生労働大臣宛てに提出しました.

同意見書は、以下のとおり指摘しています.

「平成25年5月10日に復興庁が公表した資料によれば,平成25年3月31日現在における東日本大震災における震災関連死の死者数(災害弔慰金の支給対象となった人数)は,全国で2,688人である。これは,平成25年7月10日に警察庁が公表した東日本大震災における全国の死者・行方不明者数18,550人(死者数15,883人及び行方不明者数2,667人の合計)の約14.4パーセントに過ぎない。これまでの災害と比較して,東日本大震災の被害状況の規模や深刻さを考慮すると,震災関連死の死者数は,明らかに少ないと言わざるをえない。」

「因果関係について,既往症があった場合など,震災により明らかに死期を早めたと医学的に判断できない場合には認められないとしている自治体もある。しかし,因果関係については,大阪高裁平成10年4月28日判決において,病気によりいつ死亡してもおかしくない状況にあった者につき,「震災がなければ死亡という結果が生じていなかったことが必要であるが,これが認められる以上は,死期が迫っていたか否かは右相当因果関係の存否の認定を左右するものではない」とし,「少なくともその時期には未だ死亡という結果が生じていなかったと認められる以上は,右相当因果関係の存在を肯定するのが相当」として,災害弔慰金不支給決定を取り消した例がある。この判例や当連合会の意見を踏まえて,因果関係についても緩やかに判断し,できる限り広く支給を認めるべきと言えよう。」

「震災関連死の認定において問題となり,審査会の審査の対象となる因果関係は,法律上の相当因果関係の有無であって,医学上の因果関係の有無ではない。」

「審査委員として医師が複数選任されている審査会が多くみられるところ,審査対象が法律上の因果関係の有無であるにもかかわらず,医師の意見により,医学的・科学的知見に偏り過ぎた医学上の因果関係の有無の判断に近い審査が行われ,災害弔慰金の趣旨に沿った認定が十分に行われていない傾向にあるとも言われており,この点が認定率にも影響を与えている恐れがあるとの声もある。」



災害がなければその時期に死亡することはなかった場合や,一定の事情により体調を崩したり病状が悪化したりしてから災害前と同程度まで体調回復せず死亡した場合には,災害弔慰金の趣旨を踏まえて,因果関係を厳密に捉えることなく,広く支給されるべきでしょう.


同意見書の趣旨は、以下のとおりです.

「1 災害弔慰金の支給に関する審査会においては、震災からの時間の経過により一律に判断するのではなく、災害により死亡した者の遺族に対する見舞い及び生活再建の支援という災害弔慰金の趣旨を十分に踏まえて、震災による避難等により体調を崩したり、病状が悪化したりしてから震災前と同程度まで体調を回復させることなく亡くなった場合などを含め、できる限り広く支給される方向で認定されるべきである。

2 被災地の市町村は、災害弔慰金の支給に関する審査会を自ら設置すべきであり、県への審査の委託はできる限り避けるべきである。

3 災害弔慰金の支給に関する審査会の構成員は、審査の対象が法律上の相当因果関係の有無であることから、医師の他、法律実務に精通した専門家を、少なくとも複数置くべきである。また、審査会の構成員の人数は、申請件数に応じて柔軟に増やすべきである。

4 審査の方法に関しては、必要な資料を収集した上で、十分に議論を尽くして行われるべきである。特に支給しない方向で決定する場合は、審査会の結論が遺族に与える影響の大きさを考慮し、慎重に、時間をかけて行われるべきである。

5 国は、今後災害が発生した場合、災害弔慰金の趣旨を踏まえできる限り広く支給されるために、審査基準につき、被災地の市町村に一任することなく、災害発生後速やかに一定の基準を示すべきである。その際、被災地により被災の状況が異なることから、一義的な基準の明示が困難な場合でも、少なくとも過去の判例を類型的に整理し、過去における支給例等の参考事例を具体的に示すべきである。

6 国は、今後災害が発生した場合、災害直後から、災害弔慰金の存在及び審査会への申立方法を含めて、広く周知すべきである。」



谷直樹

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by medical-law | 2013-09-25 01:13 | 弁護士会