米国の判事は、大型案件の供述書の分析等を外部の特別マスターに委託
「米国各地の数千人の患者が、米ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)(JNJ)の子会社が製造した人工股関節には欠陥があるとして同社を提訴した。キンケード判事には、数百万ページに及ぶ証言をまとめ、世界各地からの数十件の供述書の指針を定めた上で、弁護士の顧問料金をめぐる争いを解決する責任がある。
キンケード判事はすぐにこの案件を専門家に委託した。ダラス地裁では訴訟事件一覧表がびっしり詰まり、職員が大量の作業を抱え込んでいることを挙げ、「当方にはこのような大型案件を扱うだけの資源がない」と述べた。
キンケード判事は本件の特別マスターに弁護士で元州裁判事のジェームズ・スタントン氏(36)を指名した。スタントン氏は基本的にキンケード判事の代役として供述書の分析や公判前の事務処理を行う。」
「裁判所命令が特別マスターの任務を設定するが、広範な責任を担う場合もある。ただし訴訟の最終的な権限は判事にあり、判事は特別マスターの判断に従う必要はない。特別マスターは訴訟当事者から収入を得る。訴訟の当事者は通常、迅速な処理によって訴訟費用を節約したいと考えている。
特別マスターの数についての包括的なデータはほとんどないが、今や原告が複数の管轄区域にまたがる案件や知的所有権をめぐる大型案件では、特別マスターが重要な役割を果たしている。
弁護士や仲裁役、退職した裁判官にとっては、大きな事業機会となる。顧問料は1時間当たり約300〜1000ドル。当事者や裁判所との交渉によって決まる。特別マスター自身の経験や個人で請け負った場合の顧問料、案件の性質などによっても変わってくる。」
日本の最高裁で調査官が行っているような作業を,米国では,外部の「特別マスター」に委託しているようです.
もちろん最終的な権限が判事にあるのですが,実際に記録を丹念に読んでいない判事は、事実上特別マスターが示した方向で判決を下さざるをえないでしょう.
とは言え,事件に追われている判事にとっては,特別マスターはなくてはならないものでしょうし,米国では,大型集団事件、専門事件に迅速に対応するためには、特別マスターが必須なのでしょう.
日本でも,「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」(日本版クラスアクション)が成立すると,米国の状況に近似することになるのはないでしょうか.
日本でも,いずれ,TPP(環太平洋戦略的経済連携協定,Trans-Pacific Partnership)によって,「特別マスター」を導入することになるかもしれませんね.日本の裁判遅延によってアメリカの企業の権利が侵害されている,迅速な裁判のために裁判の一部外注化をはかるべきだと言われそうです.
専門訴訟の専門委員に特別マスターの萌芽がある,とも言えるでしょう.
特別マスター制度が導入されれば,当事者が特別マスターの費用を負担することになりますが,すでに医事訴訟では,当事者が鑑定費用を負担しています.
日本の専門委員,鑑定人と,米国の特別マスターは,五十歩百歩と思います,
谷直樹
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