弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

独エアフルト区裁判所、タバコの煙を相手の顔にふきかけたら傷害罪

マイナビウーマン「ご注意!タバコの煙を相手の顔にふきかけたら「傷害罪」―ドイツ」(2013年11月19日) は、次のとおり報じました.

「非喫煙者がタバコの煙を吸ってがんになる「タバコの二次被害」については、すでにご存じでしょう。タバコの煙を相手の顔にふきかける行為を、独裁判所が「傷害罪」とみなしたケースを紹介しましょう。

『南ドイツ新聞』によると、独エアフルト区裁判所は、「タバコの煙を故意に相手の顔にふきかける者は傷害罪にあたる」という判定を下しました。

実はこの裁判で「傷害罪」の疑いで訴えられていたのは、タバコの煙を顔にかけられた女子学生Aさんのほうでした。禁煙のナイトクラブで喫煙する男性Bさんに、「ここは禁煙ですよ」と注意したAさん。注意されたBさんは腹の虫が収まらず、ダンスフロアで踊っていたAさんのところに行き、タバコの煙をAさんの顔におもいっきりふきかけました。

Aさんは自分の身を守ろうと反射的にガラスのコップをBさんに投げ、Bさんの頭にこぶができ、BさんはAさんを「傷害罪」で訴えました。それに対し、Aさんは「正当防衛」を主張。

同区裁判所は、Bさんはタバコの煙だけではなく、ウイルスやバクテリアも含まれるつばの粒子もふきかけたため、Aさんが防衛手段としてグラスを投げたのは正当であると判断。さらにBさんの行為は「傷害罪」にあたるとの判定を下しました。

タバコの二次被害者にとって、予想外の勝利判決となり、「傷害罪」という裁判所のお墨付きをもらったAさんは、Bさんを起訴するつもりはないと言います。これからタバコの煙をはくときは、十分に気をつけたほうがよさそうです。

参考:
Rauch ins Gesicht blasen ist Korperverletzung.
http://www.sueddeutsche.de/panorama/gerichtsurteil-rauch-ins-gesicht-blasen-ist-koerperverletzung-1.1774446」


ドイツでは傷害と暴行の区別がありませんが、日本刑法は、「傷害罪」と「暴行罪」を区別しています.

日本の刑法第204条は「人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」と定めています.
「傷害」については、(1)身体の生理機能の障害・健康状態の不良な変更、(2)身体の完全性の傷害、(3)身体の外観の重大な変更の3説があります.髪の毛を切る行為が傷害にあたるかが議論されています.
「傷害」を「身体の生理機能の障害・健康状態の不良な変更」と解釈する説に立っても、実際に一回のタバコの煙で直ちに生理機能の障害・健康状態の不良な変更があったことを立証するのは困難ですから、日本刑法では、多くの場合、傷害罪は成立しないでしょう.

日本の刑法第208条は、「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。」と定めています.
「暴行」とは、人の身体に対する不法な有形力の行使をいいます.
タバコの煙が人顔に接触していますので、「有形力の行使」にあたります.
「不法な」の要件が問題になりますが、少なくとも人の顔にタバコの煙をふきつける行為は「不法」と言ってよいでしょう.

したがって、日本刑法では、タバコの煙を故意に人の顔にふきかける行為は、多くの場合、「傷害罪」ではなく、「暴行罪」にあたると解すべきでしょう.

谷直樹

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by medical-law | 2013-11-21 01:14 | タバコ