弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

子宮外妊娠破裂による出血性ショックの事案で,遺族が救急診療所,医師と東京都を提訴(報道)

msn産経「妊婦死亡は医療ミスと遺族が提訴」(2013年12月3日)は,次のとおり報じました.
 

「腹痛を訴えた都内の女性(28)が緊急搬送先の診療所で誤診され、約8時間後に子宮外妊娠破裂で死亡したとして、遺族が診療所と医師、東京都を相手取り、約9000万円の損害賠償を求める訴えを3日、東京地裁に起こした。訴えによると、診療所には救急医療用の十分な設備がなく、救急指定した都にも過失があるとしている。

 遺族側の弁護士が会見して明かした。訴えによると、女性は今年8月、激しい腹痛で都内の診療所に搬送された。医師には救急隊員を通じ、妊娠初期で早期流産の可能性があることを伝えたが「急性胃炎」などと診断され、ベッドに寝かされたまま約8時間後に死亡した。死因は「子宮外妊娠破裂による出血性ショック」だった。

 遺族側は適切な救命措置が行われなかったとして、刑事告訴を視野に警視庁北沢署に相談しているという。

 医師側の代理人弁護士は「訴えの内容を見ていないのでコメントできない」としている。」


読売新聞「救急搬送先の誤診で妻死亡、夫が9千万賠償提訴」(2013年12月3日)は,次のとおり報じました.

「救急搬送された東京都内の診療所(11床)で女性(当時28歳)が死亡したのは、適切な治療を怠ったためだなどとして、女性の夫(31)らが3日、治療に当たった男性院長や、診療所を救急医療機関に指定した東京都などを相手取り、計約9000万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。

 訴状によると、女性は8月、激しい腹痛を訴え、世田谷区内の診療所に救急搬送されたが、翌朝に死亡した。行政解剖の結果、死因は「子宮外妊娠破裂による腹腔ふくくう内出血」とされた。

 遺族側は、院長が子宮外妊娠破裂を疑わず、「急性胃炎・過呼吸症候群」と誤った診断をし、適切な処置を怠ったと主張。診療所の当直看護師は1人のみで、午前6時~9時は誰もいない状況が常態化していたのに、診療所を救急医療機関に指定した都にも重大な過失があると訴えている。」



東京都は,医療機関の申し出に基づき,救急病院のほかに,診療所も救急医療機関としています.救急医療機関のリストをみると,大病院に混じって小さな診療所も救急医療機関に認定されています.東京都は,どのような審査,どのような基準で,認定しているのでしょうか.
 少なくとも,本件については,妊娠初期で早期流産の可能性がある急性腹症の患者ですから,大規模な病院の医師の診療を必要としたのではないでしょうか.


【追記】

12月5日発売の週刊文春に「子宮外妊娠で出血多量死「妻は無責任救急医に殺された!」」が載ってます.


【再追記】

FNN「救急搬送先での28歳女性死亡めぐる裁判の口頭弁論 夫が胸中語る」(2014年1月22日)は,つぎのとおり報じました.

「2013年8月、28歳の妊娠中の女性が、救急搬送先の病院で死亡した。医療態勢などに不備はなかったのか。訴えを起こした夫に話を聞いた。
妻を亡くした平野雄一さんは「自分の選択で、妻を亡くしてしまったという思いは、やはり消えないと思います」と話した。
妻を失った夫の後悔の涙。
2013年8月、救急搬送先の診療所で亡くなった平野夏子さん(28)。
その死は、あまりにも突然だった。
2013年8月4日午前1時ごろ、亡くなった平野夏子さんは、夫に付き添われ、世田谷区の病院に救急搬送された。
夏子さんが、自宅で激しい腹痛を訴えたため、救急車を呼んだ夫の雄一さん。
1週間前に、別の病院で、初期流産の可能性があるとの診断を受けたことを伝えると、救急隊員は、婦人科の受け入れ先を探し始めた。
しかし、雄一さんは「『婦人科はゼロから、もう1回、探すことになります』と言われたので、まず痛みだけでも」と話した。
雄一さんの選択で搬送されたのは、世田谷区内の診療所。
雄一さんは「簡単な、たぶん聴診器と触診か何かやったくらいで、(処置は)点滴と痛み止めの注射だけですね」と話した。
診療所の看護記録には、自然流産や婦人科への通院との記載があったが、医師の診断は急性胃炎。
診療所内で経過を見ることになった。
その後、医師は、隣接する自宅に引き上げて、夜勤の看護師も不在となった午前8時ごろ、夏子さんの容体が急変した。
雄一さんは「妻が呼吸をしていなくて、医師を呼んで、心臓マッサージをしてもらいました」と話した。
そのまま、息を引き取った夏子さん。
行政解剖により、死因は、子宮外妊娠が原因となった、卵管破裂による出血死と判明した。
雄一さんは「現実を、まだ受け止め切れていない。妻の(指輪)は、ネックレスにして、持ち歩いている」と話した。
突然の死から、およそ半年。
雄一さんや遺族は、夏子さんの死は、医師が適切な処置を怠ったためだとして、診察した医師や、診療所を救急病院に指定した東京都を相手取り、およそ9,000万円の損害賠償を求める訴えを起こし、22日、1回目の口頭弁論が行われた。
22日午前、雄一さんは「どういうつもりで、注射・痛み止めだけ打って、朝まで様子を見させていたのか」と話した。
診療所側は22日、夏子さんの遺族らの訴えの一部について、争う姿勢を示す書面を提出し、訴えを棄却するように求めた。
また、救急医療体制に不備があるとされた東京都も、法的に問題がなかったことを主張したいと、争う姿勢を示した。」


【再々追記】


読売新聞「遺族と診療所が和解…救急搬送先での女性死亡」(2014年11月28日)は,次のとおり報じました.

「救急搬送された東京都世田谷区の診療所で死亡した女性(当時28歳)の遺族が、誤診があったなどとして診療所と、この診療所を救急医療機関に指定した都に計約9000万円の損害賠償を求めた訴訟は、東京地裁で和解が成立した。

 和解は25日付。遺族の代理人弁護士によると、診療所が遺族に6700万円を支払い、都への請求は放棄する。

 女性は昨年8月、腹痛のため診療所に救急搬送され、翌朝に死亡した。診療所は「急性胃炎」と診断したが、解剖の結果、「子宮外妊娠破裂による腹腔(ふくくう)内出血」と判明した。

 診療所の院長は取材に対し、「今後、再発防止に努めて診療にあたっていく」と話した。」



谷直樹

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by medical-law | 2013-12-03 21:19 | 医療事故・医療裁判