弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

国内最大規模の臨床研究「J-ADNI」,データ改ざんのため研究成果出せず(報道)

NHK「アルツハイマー病研究問題 データ取り扱いスタッフ任せ」(2014年1月10日)は,次のとおり報じました.

「アルツハイマー病の早期発見と根本的な治療法の開発を目指す国の大規模な臨床研究で、条件に合わない患者が多数登録され研究成果が出せなくなっている問題で、患者の重要なデータの取り扱いが専門性のない一部のスタッフに任されるなど、ずさんな管理が行われていたことが研究者の証言で分かりました。

この問題は、アルツハイマー病の早期発見と根本的な治療法の開発を目指し、東京大学など全国38の医療機関が参加して進めてきた国の大規模臨床研究で、研究の条件に合わない患者らが多数登録され、5年にわたる研究の成果が出せない状態になっているものです。
データの解析を担当する脳血管研究所の杉下守弘教授によりますと、例えば記憶力を調べる検査では、ある物語を聞いてから30分後から40分後にどの程度、正確に思い出せるのかを調べますが、これが80分後などに誤って行われ、その結果がそのまま入力されて数年間、放置されたままになっていました。
杉下教授によりますと、こうしたケースはおよそ40件あったということです。
こうした誤ったデータは研究の結果をゆがめるおそれがあるため、どのように扱うのかについて高度な専門知識が必要ですが、データの管理は専門性のないスタッフに任され、杉下教授など実際にデータを分析する研究者には長い間知らされていなかったということです。
これについて杉下教授は、「今回の検査は、新たに導入されたものもあり、非常に複雑なため、問題があった場合には必ず専門家が判断する必要がある。データ管理がずさんな実態を知ったあと、主任研究者の岩坪威東京大学教授に再三、問題を指摘してきたが改善されなかった」と話しています。
これに対し、臨床研究の主任研究者を務める東京大学の岩坪威教授は、「データを管理する部門には臨床心理士の資格を持つスタッフが1人はいた。現場でどのような運用がなされていたかについては詳細には把握していないが、適切に運用されていたと考えている」と話しています。

国家プロジェクト=「J-ADNI」

厚生労働省の研究班によりますと、国内の認知症の高齢者は推計462万人。
この認知症の原因の7割を占めるのがアルツハイマー病です。
アルツハイマー病の患者は高齢化に伴い、今後、さらに増えると予想されており、早期発見と根本的な治療法の開発が待ち望まれています。
こうした期待を背負い国が20億円以上の資金を投入し、国家プロジェクトとして5年前に始まったのが国内最大規模の臨床研究「J-ADNI」です。
軽度認知障害の人と初期のアルツハイマー病の患者500人以上を長期間追跡し、病気の脳にどのような変化が起きるのか詳しく調べるもので、早期発見の手がかりを見つけ出し根本的な治療法の開発につながる研究として期待されていました。
こうしたアルツハイマー病の発症過程を詳しく調べる同じような大規模臨床研究は、アメリカやヨーロッパでも進められていて、日本の研究成果も国際的に発表されることになっていました。

「失望が大きい」

アルツハイマー病の患者や家族などで作る「認知症の人と家族の会」の高見国生代表理事は、「患者や家族は早く治療法が見つかってくれることを願い、純粋な気持ちで協力しているだけに失望が大きい。自分たちに都合のよい結果を出すのではなく、正しく研究してほしいというのが願いです」と話していました。

データ分析担当の教授「深刻に受け止め」

臨床研究のデータ分析を担当する筑波大学の朝田隆教授はNHKのインタビューに応じ、「検査の方法や病気の診断の基準が研究グループの中で統一されないまま研究が進んでしまったことで、結果を出すのが大幅に遅れてしまっている。世界的にも注目されている日本の認知症の研究分野で、このような問題が起きてしまったことを深刻に受け止めている。研究に協力していただいた患者さんのためにも、きちんとしたデータを出す必要があり、外部の専門家を入れた第三者機関を設けるなどして、データに誤りがないか、患者一人一人について詳細に確認をしていくべきだ」と話しました。

「チェックし直すことが必要」

「J-ADNI」の研究の意義について、京都大学医学研究科脳機能総合研究センターの福山秀直教授は、「PETなどの画像診断や血液検査などで診断が簡単にできる指標を作ろうというのが研究目的で、アメリカで始まり、日本やヨーロッパなどで進められている。指標ができれば、アルツハイマーなのか物忘れなのかの診断が外来の診療でもきっちりできるようになる」と説明しました。
そのうえで、「1人や2人であれば何らかのミスとも考えられるが、1割以上もミスがあると残りの9割が正しいのか疑問に感じられ、大きな問題だ。日本での臨床研究が世界的にも信用されなくなってしまう。これだけの費用をかけているものをやり直すのは難しいので、使えるデータだけでどこまでのことが言えるのか、はっきりさせることが重要だ。特定の人間だけでなく、外部にデータを全部出してチェックしなおすことが必要ではないか」と話しています。」


以前から,J-ADNIの問題は指摘されていましたが,ここまでひどいとは...
岩坪教授は,このごに及んでも,改竄ではない,と述べていますが,10分後の記憶検査を30分後の記憶検査として報告するのは許されないことです.アルツハイマー型認知症以外の患者を多数とりこんでしまっては,データとして使えません.
国から24億円,製薬会社11社から9億円の資金と多数の患者の協力を得て行われた大規模研究J-ADNIが,データ改竄のため使えないということになると,問題は大きいです.

データは研究の根幹であり,研究者にとってデータ改竄は見過ごすことのできないもののはずです.
研究成果を出すことを急いだなどの見方がありますが,本件の事実経過と背景を調査解明する必要があると思います.


谷直樹

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by medical-law | 2014-01-11 07:01 | コンプライアンス