弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

最判平成26年7月14日,不開示決定時に行政機関が行政文書を保有していたことの立証責任は取消請求者にある

NHK「沖縄返還密約文書公開訴訟 原告の敗訴確定」(2014年7月14日)は,次のとおり報じました.

「昭和47年の沖縄返還の際に、日本とアメリカが密約を交わしたとして元新聞記者などが外交文書の公開などを求めていた裁判で、最高裁判所は原告側の上告を退け、文書の公開を認めなかった2審の判決が確定しました。

昭和47年の沖縄返還の際にかかる費用をアメリカの代わりに日本が支払うという「密約」が交わされたとして、元新聞記者などが行った当時の外交文書の情報公開請求に対し、国が6年前「文書は存在しない」として公開を認めない決定をしたため、裁判になっていました。
1審は国に公開を命じましたが、2審は3年前「すでに廃棄された可能性が高い」として訴えを退けたため、原告の元記者側が上告していました。
14日の判決で最高裁判所第2小法廷の千葉勝美裁判長は、「行政機関側が存在しないとした文書の公開を求める裁判では、請求者側に文書の存在を立証する責任がある」という初めての判断を示しました。
そのうえで「文書は外交交渉の過程で作成されていたとしても、国の調査の結果などを踏まえると、情報公開請求があったあとも存在していたとは認められない」と述べ、原告側の立証が不十分だとして上告を退けました。
これにより、文書の公開を認めなかった原告敗訴の判決が確定しました。

原告の元記者「情報公開の精神をないがしろ」

訴えを起こした元新聞記者の西山太吉さんは、「最高裁の判決は『密約』の文書がないことを正当化しているだけで、情報公開の精神をないがしろにして、特定秘密保護法を推し進める現在の政治の姿勢が表れている」と話しました。
また、「『密約』の文書はアメリカと日本が共同で作ったもので、日本側にないというだけでは済まされない。歴史的にも重要で、本来は永久に保存されなければならないのに、文書を保存し国民に伝えるという情報公開の精神がまったく考慮されていない。民主主義の崩壊だ」と述べました。

情報公開専門家「足かせになる判決」

最高裁判所が文書があることを証明する責任は請求者側にあると判断したことについて、情報公開の制度に詳しいNPO法人「情報公開クリアリングハウス」の三木由希子理事長は、「最高裁の判断によって情報公開を請求する側が文書の存在を証明する責任を負うという状況が固定化することになり、情報公開をする一般市民にとって足かせになる判決だ。請求する側はどんな文書があるかわからずに請求することが多く、文書の存在を証明することは事実上不可能に近い」と批判しています。
そのうえで「本来であれば、どんな文書が存在するかは、それを管理する行政機関が責任を負うべきなのに、きょうの判決によって文書は存在しないと言いやすい状況にも陥りかねない。行政機関は、情報公開を求める市民に対して、参考となる情報をこれまで以上に提供することが求められる」と指摘しています。

官房長官「国の主張認められた」

菅官房長官は午後の記者会見で、「最高裁判所において被告側勝訴の判決が言い渡された。国の主張を認めた高裁判決が是認されたと考えている」と述べました。
また、菅官房長官は、高裁判決で「すでに破棄された可能性が高い」と指摘されている文書の再調査について「考えていない」としたうえで、「平成23年4月から公文書管理法が施行されていることを踏まえ、重要な歴史的な事実を検証することができるよう適切な行政文書ファイルの保存管理に努めていきたい」と述べました。」


最高裁平成24年7月14日判決は,つぎのとおり判示しています.

「2 情報公開法において,行政文書とは,行政機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書,図画及び電磁的記録であって,当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして,当該行政機関が保有しているものをいうところ(2条2項本文),行政文書の開示を請求する権利の内容は同法によって具体的に定められたものであり,行政機関の長に対する開示請求は当該行政機関が保有する行政文書をその対象とするものとされ(3条),当該行政機関が当該行政文書を保有していることがその開示請求権の成立要件とされていることからすれば,開示請求の対象とされた行政文書を行政機関が保有していないことを理由とする不開示決定の取消訴訟においては,その取消しを求める者が,当該不開示決定時に当該行政機関が当該行政文書を保有していたことについて主張立証責任を負うものと解するのが相当である。
そして,ある時点において当該行政機関の職員が当該行政文書を作成し,又は取得したことが立証された場合において,不開示決定時においても当該行政機関が当該行政文書を保有していたことを直接立証することができないときに,これを推認することができるか否かについては,当該行政文書の内容や性質,その作成又は取することができるか否かについては,当該行政文書の内容や性質,その作成又は取得の経緯や上記決定時までの期間,その保管の体制や状況等に応じて,その可否を個別具体的に検討すべきものであり,特に,他国との外交交渉の過程で作成される行政文書に関しては,公にすることにより他国との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国との交渉上不利益を被るおそれがあるもの(情報公開法5条3号参照)等につき,その保管の体制や状況等が通常と異なる場合も想定されることを踏まえて,その可否の検討をすべきものというべきである。
3 これを本件についてみるに,前記1の開示請求において本件交渉の過程で作成されたとされる本件各文書に関しては,その開示請求の内容からうかがわれる本件各文書の内容や性質及びその作成の経緯や本件各決定時までに経過した年数に加え,外務省及び財務省(中央省庁等改革前の大蔵省を含む。)におけるその保管の体制や状況等に関する調査の結果など,原審の適法に確定した諸事情の下においては,本件交渉の過程で上記各省の職員によって本件各文書が作成されたとしても,なお本件各決定時においても上記各省によって本件各文書が保有されていたことを推認するには足りないものといわざるを得ず,その他これを認めるに足りる事情もうかがわれない。」



最高裁は,文書の存在(廃棄)が争われるとき,その立証責任が請求者側にある,という考えを示し,情報公開請求に対して国が不開示の決定をした時点で国が文書を保有していたという立証が足りない,としました.
「開示請求の対象とされた行政文書を行政機関が保有していないことを理由とする不開示決定の取消訴訟においては,その取消しを求める者が,当該不開示決定時に当該行政機関が当該行政文書を保有していたことについて主張立証責任を負うものと解するのが相当である。」という部分は,保有していない,という立証が不存在の立証ですから困難なことを考慮し,取り消しを請求する者に,保有していることの立証を求めたものと思われますが,外部の人間に保有の証明責任を課すことになり,事実上不可能なことを求めていることになります。
さらに,本件について,「その開示請求の内容からうかがわれる本件各文書の内容や性質及びその作成の経緯や本件各決定時までに経過した年数に加え,外務省及び財務省(中央省庁等改革前の大蔵省を含む。)におけるその保管の体制や状況等に関する調査の結果など,原審の適法に確定した諸事情の下においては,本件交渉の過程で上記各省の職員によって本件各文書が作成されたとしても,なお本件各決定時においても上記各省によって本件各文書が保有されていたことを推認するには足りない」とし,過去に存在した文書が,廃棄されていないという推認ができない,としたのですが,これは公平に反し不当ですし,事実上立証不可能なことを求めていると言えるでしょう.
残念な最高裁判決です.

谷直樹

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by medical-law | 2014-07-15 00:29 | 人権