弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

大学病院,カテーテルが血管外に突き抜け,患者が心停止して低酸素脳症となる事故発生

大阪市立大学医学部附属病院は,2014年8月28日,ホームページに,「大阪市立大学医学部附属病院における医療事故の発生について」をアップしました.

「大阪市立大学医学部附属病院において、平成26 年7 月21 日(月)午前9 時頃、入院患者の中心静脈カテーテルを入れ替えた際、カテーテルが血管外に入り点滴が胸腔内に溜まったことにより心停止を起こし、救命できたものの低酸素脳症に至る医療事故が発生しました。

事故発生後に実施した調査・検証内容をもとに、平成26 年8 月27 日の医療安全協議会で審議した結果、医療過誤と判断したため公表させていただくことになりました。

当該患者は誤嚥性肺炎で入院し、首から中心静脈カテーテルを入れて栄養補給を行っていましたが、挿入部から点滴が漏れて痛みを訴えられたためカテーテルの入れ替えを実施しました。
入れ替えは前日の夜間当直の医師Aと当日の日勤当直の医師Bが超音波装置で血管を確認しながら行いましたが、実際は血管内に入っていませんでした。挿入後はレントゲン等で確認しましたが、血管内に入っているものと誤認してしまいました。
午前11 時過ぎに患者が胸部の違和感を訴えられたため、医師Bは心電図と呼吸状態を確認して異常なしと判断しました。18 時頃より、呼吸状態が悪くなったため酸素投与を開始し、19 時頃には、担当医師Cが診察しましたが、大きな変化はないと判断しました。さらに21 時にも胸痛と呼吸苦の訴えがあり、夜間当直の医師Dが診察しましたが、心電図で不整脈は認めなかったため経過観察としました。
その後、呼吸状態がさらに悪化したため酸素を増量しましたが、23 時過ぎに呼吸苦と発汗があり、医師Dが血液検査を実施しました。その結果、肺塞栓症が疑われたためCT検査を実施したところ、カテーテルが血管外に入っており、点滴が胸腔内に溜まっていることが判明しました。治療を行うため病棟に戻った直後に心停止となったため、直ちに蘇生処置を実施して心拍が再開しましたが低酸素脳症となり、現在も懸命に治療にあたっています。」



毎日新聞「医療事故:カテーテル血管外に、意識不明 大阪市大病院」(2014年8月28日)は,次のとおり報じました.

「大阪市立大付属病院(大阪市阿倍野区、石河修院長)は28日、入院患者の心臓につながる血管にカテーテルと呼ばれる細い管を入れた際、誤って血管外に挿入したため、患者が心停止して低酸素脳症となる事故があったと発表した。

 病院によると患者は入院中の60代の女性。事故は7月21日午前9時ごろ、栄養補給のために首から血管にカテーテルを挿入する際に起きた。20代の医師2人が挿入したカテーテルが血管外に出て点滴液が胸腔(きょうくう)にたまり、女性はこの日午後11時過ぎに心停止した。女性は現在治療を受けているが、意識不明の状態だという。

 女性は午前11時過ぎに胸の違和感を訴えたが、別の医師は心電図などから異常はないと判断。午後6時ごろには呼吸が乱れ始め、酸素吸入で対応した。さらに別の医師が1時間後に診察した際も異常に気付かず放置した。女性は同9時ごろに再び胸痛を訴えたため、夜間当直の別の医師が心電図を使って診察したが、不整脈などはなく経過観察にとどめた。結局、女性は午後11時ごろ容体が悪化し、血液とCTの検査などで事故が分かった。蘇生措置で心拍が再開したが、低酸素脳症の状態が続いている。

 石河院長は会見で「深くおわびします。今後、再発防止に努めたい」と謝罪した。【斎藤広子、松井聡】」


東京新聞「カテーテル誤挿入で心停止後に意識不明 大阪市立大病院」(2014年8月28日)は,次のとおり報じました.

「大阪市立大附属病院は28日、60代女性の患者のカテーテルを入れ替える際に誤って血管外に挿入し、そのまま点滴を続けたため、女性が一時心停止に陥り、蘇生後も意識不明の状態が続いていると明らかにした。

 附属病院によると、女性は誤嚥性肺炎で入院しており、7月22日午前9時ごろ、医師2人が中心静脈のカテーテルの入れ替えを実施。超音波装置やレントゲンで血管を確認しながら挿入したが、実際には血管内には入っていなかった。

 女性は午前11時過ぎから胸部の違和感などを訴え始め、複数の医師が診察したものの、心電図などに異常が認められなかったため経過観察とし、呼吸の悪化に対してのみ酸素投与を続けたという。

 約14時間後の午後11時過ぎ、さらに呼吸苦と発汗が認められたため血液検査を行った結果、肺塞栓症の疑いがありCT検査を実施した。そこで初めて、カテーテルが血管外に入り、点滴が胸腔内に溜まっていることが判明。直後に心停止となり、直ちに蘇生処置を施して心拍は再開したものの低酸素脳症に陥った。そのまま、約1カ月後の現在も意識不明の状態だという。

 附属病院は事故発生後に行った調査をもとに「医療過誤と判断」して今回、公表した。「今後、医療事故調査委員会を催して再発防止策を早急に実施する」としている。」


読売テレビ「カテーテル外れ点滴漏れ 女性患者意識不明」(2014年8月28日)は,次のとおり報じました.

先月、大阪市立大学医学部附属病院で、カテーテルが血管から外れて点滴が漏れ、60代の女性患者が意識不明となっていることがわかった。医療ミスがあったのは大阪市阿倍野区の大阪市立大学医学部附属病院。先月21日、夜間当直の20代の男性医師らが肺炎で入院していた60代の女性患者に対し、栄養補給のため心臓に近い血管に入れていたカテーテルを挿入し直した。患者は胸の痛みを訴えたが医師らは異常なしと判断。挿入からおよそ14時間後に、カテーテルが血管から外れ胸に点滴が溜まっていることがわかった。その後、患者は心停止し、救命措置で心拍は再開したものの、低酸素脳症で現在も意識が戻らないという。病院は、経験の浅い医師だけで当直体制がとられていたことで医療ミスに気付くのが遅れたと謝罪していて、外部委員を含む調査委員会を作り、再発防止に取り組むとしている。」

経過を読む限り,ミスにミスを重ね,事故が発生したように思います.
本件は,このような結果が発生しないよう気づいて対処する機会はあったように思います.

医療事故のスイスチーズモデルというのがあります.孔の開いたスイスチーズをイメージしてください。スライスして何枚か重ねたとき偶然孔が重なった場合に事故になる,というものです.4から5の過誤が重なって事故になると言われています.本件は,そのスイスチーズモデルがあてはまるのではないでしょうか.ただ,全くの偶然ではなく,過誤の背景には共通する土壌があるように思います.


谷直樹

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by medical-law | 2014-08-28 20:38 | 医療事故・医療裁判