福岡高裁平成26年9月4日判決,嘔吐下痢症ではない可能性を考え検査する義務を肯定し逆転認容判決
「腸管梗塞(こうそく)で次男(当時12歳)が死亡したのは誤診のためだったとして、佐賀市の両親が、同市と民間2病院に総額約7600万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審の判決が4日、福岡高裁(一志泰滋裁判長)であった。高裁は両親側の請求を退けた1審・佐賀地裁判決を取り消し、市と1病院に約2000万円の支払いを命じた。
判決によると、次男は2006年3月25日、嘔吐(おうと)などをしたため、市の「休日夜間こども診療所」を受診した。嘔吐下痢症と診断され、治療を受けたが改善せず、26日にロコメディカル江口病院(佐賀県小城市)と同診療所、別の病院を受診し27日未明に腸管梗塞で死亡した。
一志裁判長は26日の診療所と江口病院の対応について「処置をしても嘔吐が止まっておらず、嘔吐下痢症ではない可能性を考えて血液検査をすべきだった。検査で異常所見が得られ高次医療機関で腸切除手術が可能だった」と過失を認定した。
別の病院については、訪問時点で救命の可能性はほとんどなかったとして賠償責任を認めなかった。
両親側は次男は腸にポリープができる疾患の既往歴があり、それに伴う嘔吐の可能性を考えることは容易だったなどと主張していた。父親(46)は「息子の死後、つらかったり、悔しかったりしたが、少しホッとした」と語った。佐賀市は「主張してきたことが認められず残念」とコメントした。【山本太一】」
佐賀新聞「腸重積症の男児死亡 佐賀市と病院に賠償命令」(2014年9月5日)は,次のとおり報じました.
「■福岡高裁逆転判決「適切対応怠った」
腸管がふさがれる「腸重積症」を起こしやすい遺伝性疾患を持つ佐賀市の男児=当時(12)=が不適切な医療処置で死亡したとして、両親が「休日夜間こども診療所」を運営する同市などに損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、福岡高裁(一志泰滋裁判長)は請求棄却した一審佐賀地裁判決を取り消し、両親側の訴えの一部を認めて市と、休日担当医で男児を診断した小城市の民間病院に計約2千万円の支払いを命じた。
賠償額のうち佐賀市は300万円を民間病院と連帯で支払う内容。両親側の弁護士は「休日夜間の小児外来でも医師は慎重な診断や大病院への転送など適切な対応が求められることを示した判決」と評価した。
判決によると、男児は2006年3月、嘔吐(おうと)と下痢の症状で、休日・夜間対応のこども診療所や民間病院を受診。いずれも嘔吐下痢症と診断されたが、入院先の別の医療機関で容体が悪化し、数日後に腸重積症で死亡した。
原告側は、担当医師は遺伝性疾患を疑うべきだったと主張したが、一審判決は「診察時に特段の腹部所見はなく、腸重積を疑うべき症状は認められない」として退けた。
同高裁の一志裁判長は判決理由で、男児が受診を繰り返しても症状の悪化が続き、点滴後も改善せず水を飲むと血の塊を吐くなどした状況を指摘。「医師は血液検査を行って慎重に原因を探り、高次医療機関に転送すべき義務があったのに怠った」と被告側の過失を認定した。男児の救命可能性を考慮してそれぞれの賠償額を決めた。
両親は「つらく悔しい日々だったが、ようやく息子に顔向けできる。同じ子どもを二度と出さないよう医師は親身になって診察してほしい」と話した。佐賀市の秀島敏行市長は「主張が認められず残念」とのコメントを出した。病院側の弁護士は「判決文をよく読み、当事者と話し合って上告するか検討する」とした。」
このように地裁と高裁の判決が真逆になることが時々あります.
地裁の敗訴判決が不当で,逆転の可能性があると考えられるときは,控訴して争うべきでしょう.
代理人として実際に本件を担当した弁護士が書いた「九州合同法律事務所のブログ」もお読みください.
【追記】
佐賀市は上告する方針とのことです.
民事訴訟法第312条は,次のとおり定めています.
「上告は、判決に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があることを理由とするときに、することができる。
2 上告は、次に掲げる事由があることを理由とするときも、することができる。ただし、第四号に掲げる事由については、第三十四条第二項(第五十九条において準用する場合を含む。)の規定による追認があったときは、この限りでない。
一 法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと。
二 法律により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。
二の二 日本の裁判所の管轄権の専属に関する規定に違反したこと。
三 専属管轄に関する規定に違反したこと(第六条第一項各号に定める裁判所が第一審の終局判決をした場合において当該訴訟が同項の規定により他の裁判所の専属管轄に属するときを除く。)。
四 法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。
五 口頭弁論の公開の規定に違反したこと。
六 判決に理由を付せず、又は理由に食違いがあること。
3 高等裁判所にする上告は、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があることを理由とするときも、することができる。」
佐賀市は,本判決が何号の上告事由にあたると考えているのでしょうか.
【再追記】
産経新聞「死亡男児の両親、勝訴確定 佐賀」(2015年6月16日)は,次のとおり報じました.
「佐賀県で平成18年、男児=当時(12)=が腸管梗塞で死亡したのは佐賀市立診療所などの誤診が原因として、両親が損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第2小法廷(山本庸幸裁判長)は15日までに、市と同県小城市の病院の上告を退ける決定をした。12日付。計約2千万円の支払いを命じた2審福岡高裁判決が確定した。」
当然でしょう.
谷直樹
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