大学病院の中心静脈カテーテル動脈誤穿刺死亡事故で日本医療安全調査機構が調査報告
「臨床的に急性散在性脳脊髄炎(ADEM)を発症し、名古屋大学医学部附属病院(以下「当院」という。)に入院中の患者さんが、平成24年8月、胃管から投与されていた栄養剤を大量に嘔吐したことに伴い、肺に誤嚥をきたし、重篤な状態となりました。直ちに救急内科系重症管理の専門部門であるEMICU(救急・内科系集中治療部)に搬送しましたが、搬送後に施行した中心静脈カテーテル(以下「CVカテーテル」という。)挿入の際、鎖骨下動脈にCVカテーテルが誤って留置されました。医師団は留置直後の血液ガス分析により、この誤留置に気づき、カテーテル抜去、圧迫止血を行うことで対応しました。しかし、カテーテル抜去後6時間30分が経過した時点で咳き込みを契機に胸腔内に出血をきたし、その2時間30分後にショックにより亡くなられました。
本事例を受け、当院は、第三者による客観的な事例検証が必要と判断し、ご遺族の同意を得た上で、一般社団法人日本医療安全調査機構(以下「機構」という。)に「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業:協働型」として調査を依頼しました。その結果、機構が派遣する外部委員と当院の内部委員により構成される協働調査委員会において、本事例の死因究明及び診療行為に関する医学的な評価が行われ、平成26年4月に協働調査報告書が作成されました。
更に機構の中央審査委員会において報告書の医学的妥当性等の審査が行われ、平成26年5月に内容は妥当であるとの判断がなされました。これを受け、同年8月5日に機構からご遺族及び当院に対して調査結果等の報告がありました。
協働調査報告書に関しましては、機構において別紙「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業 評価結果報告書の概要」のとおり概略資料が作成され、今後、機構のホームページにおいて公表される予定ですが、同報告書では、本事例におけるCVカテーテルの挿入手技に関して、ガイドワイヤーが正しく内頸静脈内に留置されているかどうか確認できていない状態でダイレーター(ガイドワイヤーに沿わせて皮下に刺入することで皮下組織や目標血管を鈍的に拡張し、カテーテル挿入路を形成するための器材)を挿入した点については、当院のマニュアルのみならず、標準的なCVカテーテル挿入の手順を逸脱している、との医学的評価がなされました。
この評価を受け、当院では、診療行為に重大な落ち度があったものと考え、深く反省するとともに、ご遺族に対して謝罪いたしました。このたび、ご遺族のお許しをいただきましたので、これまでの経緯についてあらためて皆様にご報告申し上げます。
患者さんのご冥福を心よりお祈りするとともに、上記協働調査報告書において示された提言を真摯に受け止め、再発防止に職員一丸となって取り組む所存です。」
日本医療安全調査機構は,「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」を行っています.
解剖を行い,診療行為に関連した死亡の原因を専門家が中立的な立場で調査し,診療上の問題点と死亡との因果関係を明らかにするとともに,同様の事例が再発しないための対策(再発防止策)を検討するもので,解剖を行い,調査委員会が死因,事故原因を解明し,再発防止策を検討するものです.
北海道,宮城県,茨城県,東京都,新潟県,愛知県,大阪府,兵庫県,岡山県・愛媛県,福岡県・佐賀県の12地域に限られています.これらの地域で医療事故死が疑われる事故があった場合,ご遺族は,遺体埋葬前に機構に連絡し,解剖,原因調査を依頼されたほうがよいと思います.
調査の方法は,従前外部委員だけだったのですが,平成24年から,その病院の人も含めて調査を行う「協働型」もできました.
本件は,その協働型の1例で,調査の結果,「ガイドワイヤーが内頸静脈に正しく留置された保証がない場合は、全ての挿入操作をやり直すか、ガイドワイヤーを一旦抜いて外套管にシリンジを装着し、血液の逆流を確認する必要があった。ガイドワイヤーが内頸静脈に留置されていると推測し、ダイレーターを挿入した時点で、ガイドワイヤーは内頸静脈を貫通し(あるいは内頸静脈を完全に外れ)、右鎖骨下動脈に挿入され穴が開いたと考えられる。CVカテーテルが動脈に留置された場合、外科医に連絡するなど抜去処置には万全をきたす必要があるが、右内頸動脈の分枝に留置されたと判断し、圧迫止血で対応できると考えたことは誤っていた。ダイレーター挿入操作について前述のマニュアル内には、「安全確認の上で最重要、省略してはいけない!」事項として外套管が静脈内に入っていることの確認法を記載している。さらに、『内頸静脈内にガイドワイヤーが挿入できたら、穿刺針外套をガイドワイヤーに沿って根元まで血管内に送り込み、ガイドワイヤーを一旦抜去し、外套に注射器をつけて静脈血がスムースに逆流することを確認する。エコーガイド下穿刺においても、この段階は最も重要であり、決して省略してはならない。なぜなら、静脈を貫いて動脈内にガイドワイヤーの先端がある可能性もあり、その場合に、もしエコー画像上でガイドワイヤーが静脈にあると確実にわかっているからとこの段階を省略してしまうと、最終的に静脈を貫いて動脈内にCVカテーテルを留置してしまうことになる。実際にそのような状況となってしまい、外科的処置を要したという報告がなされている。エコーはあくまで一断面での評価であることを忘れてはならない』と特に注意を呼びかけている。また、『穿刺中に少しでも不安を感じたときは、CVカテーテルやダイレーターを挿入する前に動静脈の判別をしなければならない。』との記載もある。ガイドワイヤーが正しく内頸静脈内に留置されているかどうか確認できていない状態でダイレーターを挿入した点については、同マニュアルのみならず、標準的なCVカテーテル挿入の手順を逸脱している。」と指摘されたわけです.
谷直樹
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