弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

抗菌薬マキシピームと誤って筋弛緩剤マスキュレート投与し患者死亡

産経新聞「筋弛緩剤投与「死亡原因となる十分な量だった」…患者死亡の大阪府立急性期・総合医療センターが緊急会見」(2014年12月31日)は、次のとおり報じました.

「大阪府立急性期・総合医療センター(大阪市住吉区)で入院患者が筋弛緩(しかん)剤を誤って投与された後、死亡した問題で、センターは31日に記者会見を開き、経過を説明した。センターによると、抗菌薬の処方を指示された薬剤師が筋弛緩剤を病棟に配送し、病棟の看護師2人も誤りに気付かず投与した。センターは「死亡原因となる十分な量を投与した」としており、遺族に謝罪したことも明らかにした。

 死亡したのはがんの治療のため入院中だった60代の男性患者。センターによると、29日朝、医師が男性の発熱などの症状を緩和させるために抗菌薬「マキシピーム」の点滴を指示する処方箋を出したが、女性薬剤師(25)は誤って筋弛緩剤「マスキュレート」を病棟に配送した。

 病棟で受け取った27歳と43歳の女性看護師は2つの薬剤の容器の形状が似ていたことなどから、十分な確認を行わず、午前11時ごろから男性に点滴で投与。午後1時ごろに薬剤師が誤処方を申告し、看護師が病室に駆けつけたが、男性はすでに心肺停止の状態で、その後、死亡が確認された。

 筋弛緩剤は体がまひし、呼吸困難を引き起こすため、センターの薬局では毒薬専用の棚で保管。薬剤師はこの棚から筋弛緩剤を取り出し、筋弛緩剤専用の管理ノートにも配送先などを記録していたが、センターの調べに対して「抗菌薬を処方していると思い込んでいた」という趣旨の説明している。

 薬剤師は別の患者に同じ抗菌薬を処方する際、誤って筋弛緩剤を配送していたことに気付いたと釈明しているという。

 センターは29日に大阪府警住吉署に届け出ており、同署が業務上過失致死容疑も視野にくわしい経緯を調べている。」


毎日新聞「筋弛緩剤:抗菌薬と間違え投与、60代男性死亡」(2014年12月31日)は、次のとおり報じました.

「◇大阪府立急性期・総合医療センターが府警住吉署に届け出
 
「大阪府立急性期・総合医療センター(大阪市住吉区)は31日、抗菌薬と間違えて、入院中の60代の男性がん患者に筋弛緩(しかん)薬を投与し、この男性が死亡した、と発表した。死因は誤投与による呼吸停止だったという。センターは男性の家族に謝罪するとともに府警住吉署に届け出た。住吉署は業務上過失致死容疑も視野に捜査している。

 発表によると、29日午前10時ごろ、医師から発熱を抑える抗菌薬「マキシピーム」を投与するよう書面で指示された女性薬剤師(25)が誤って、法律で毒物に指定される筋弛緩薬「マスキュレート」を病棟に配送した。書面には薬品名と数量が書かれていた。二つの薬品は、びんのふたの色が似ていた。

 受け取った27歳と43歳の女性看護師も、医師の指示書と照らし合わせるなど十分に薬品の確認作業をしないまま、午前11時ごろ男性に点滴した。薬剤師が午後1時ごろに取り違いに気付いたが、午後2時50分ごろ、男性の死亡が確認された。

 男性はセンターに約2週間入院していた。

 女性薬剤師はセンターの調査に「思い込みで取り違えた」と説明しているという。吉岡敏治院長は「患者とご家族に心からおわびしたい。再発防止に万全を尽くしたい」と話している。【岡村崇】」


「マキシピーム」は、セフェム系抗生物質製剤(セフィピム(CFPM)です.
「マスキュレート」は、「マスキュラックス」のジェネリックです.一般名が「ベクロニウム臭化物」で、骨格筋弛緩剤です.麻酔、気管内挿管の時に用います.病棟で使用するような薬ではありません.
誤投薬は、医療事故のなかでも多い類型ですが、とくに筋弛緩剤誤投薬は、死亡等の重大な結果が生じる危険がきわめて高いです.

この薬剤師は、「毒薬専用の棚で保管。薬剤師はこの棚から筋弛緩剤を取り出し、筋弛緩剤専用の管理ノートにも配送先などを記録していた」にもかかわらず、抗生剤の「マキシピーム」だと思い込んでいたというのですが、どうしたらこのような間違えがおきるのかわかりません.
看護師のダブルチェック体制も機能してなかったようです.なお、「看護管理」2014年5月号 (Vol.24 No.5)では、「真に効果的なダブルチェック体制とは−与薬インシデント防止に向けて」を特集していました.
薬剤師の考えがたいミスと2名の看護師の確認ミスが重なった結果起きた重大事故です.
地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立急性期・総合医療センターの責任は明白と思われます.
刑事処罰は医療崩壊につながり避けるべきである,という主張を聞きますが,このような重大な過失犯については業務上過失致死の罪に問うべきではないでしょうか.

谷直樹

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by medical-law | 2014-12-31 23:20 | 医療事故・医療裁判