弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

順天堂大浦安病院と浦安市の卵子冷凍保存計画について

毎日新聞「<健康女性の卵子凍結助成>日産婦「推奨せず」との考え示す」(2015年2月8日)は,次のとおり報じました.

「順天堂大浦安病院(千葉県浦安市)と浦安市が、健康な女性が将来の妊娠に備えて卵子を凍結保存するバンク構想を進めていることについて、日産婦の苛原(いらはら)稔・倫理委員長は7日、毎日新聞の取材に「(健康な女性を対象とすることは)推奨しない」との考えを示した。
 苛原委員長は理由として、(1)卵子を凍結保存した場合、将来妊娠できる可能性は高くはなく有用性がはっきりしていない(2)女性が妊娠を先送りすると出産年齢が上がり、医学的なリスクが高まる--の2点を挙げた。」


上記の考えは,徳島大学教授の苛原稔氏の個人的意見というより,日本産科婦人科学会倫理委員会の見解とうけとるべきでしょう.
たしかに,日本産科婦人科学会は,将来の妊娠に備えた独身女性の卵子凍結保存を認めましたが,卵子の冷凍保存,高齢出産を推奨するものではありません.むしろ,無秩序に行われている卵子の冷凍保存に歯止めをかけようという意図があったたはずです.
浦安市は,少子化対策として卵子凍結保存に9000万円の補助金を出そうとしていますが,冷凍卵子の妊娠率は1割程度ですし,卵子凍結保存で出産を先送りすることが少子化対策として有用であるとは考え難いと思います.

浦安市は,合計特殊出生率(TFR,1人の女性が生む子どもの平均数)1.9のフィンランドを手本にしていますが,浦安市長はフィンランドが卵子冷凍保存によって1.9を達成しているとでも考えているのでしょうか.
フランスは合計特殊出生率2.0で,フィンランド以上です.北欧諸国やフランスの特殊出生率が高いのは,婚外子に対する法的処遇が充実していることによるものと思われます.婚姻しないで出産し子育てをするには,日本はフランス,北欧諸国に比べハードルが高いのです.先進国で合計特殊出生率をあげるためには,共同親権,扶養の共同負担など婚外子の法的社会的処遇を向上させ,婚外子を増やす必要があります.婚外子を増やすことをよしとしないなら,すくなくとも,妊娠出産がキャリアにマイナスにならない社会的法的仕組が必要でしょう.フィンランド,フランスなどは公教育費の割合が高いのですが,日本は私教育費の割合が高いなど,子どもを育てるために費やす個人の経済的負担が違います.
浦安市の9000万円は,保育園を充実する,シングルマザーを補助する,若くて収入が高くない人が出産するときに補助するなどもっと有用な使い道があると思います.


 谷直樹

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by medical-law | 2015-02-08 13:40 | 医療