弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

医療事故がもとで医療紛争が起き,医療者と患者家族の信頼関係が崩壊することにならないために

医療事故がもとで医療紛争が起き,医療者と患者の信頼関係が崩壊することは望ましいことではないと思います.

◆ 医療事故を減らすこと
医療事故がもとで医療紛争が起きることを少なくするためには,第1に,医療事故を減らすことが有用と考えられます.                                               
新聞報道,裁判例をみると,同じような医療事故が繰り返し起きていることに気づかされます.
或る病院で起きた医療事故が,他の病院での医療事故の防止に役立っていないのです.
そこで,医療事故を減らすためは,医療事故報告を集積集約し,医療事故の原因分析を行い,今後の医療事故防止のための有効な方法の開発に取り組み,再発防止を徹底することが必要です.医療者が専門家として医療事故の集約,分析,再発防止に取り組むことで,日常診療のレベルアップにつながると思います.

◆ 医療紛争を減らすこと
第2に,医療事故から医療紛争になる割合を減らすことが有用と考えられます.

◆ 医療事故隠しは通用しないこと
患者側が医療事故を医療事故と認識しなければ,医療事故がもとで医療紛争が起きることはありません.医療者は,医療事故に気づかずに病気のせいで亡くなったと思って去った遺族の姿をみてきたかもしれません.医療事故隠しが医療紛争防止になると信じる人たちが一部にいるのは,そのような経験からなのかもしれません.
しかし,医療事故隠しは,決して正しいことではありません.医療者も,自分や家族が医療事故に遭ったときに医療事故隠しが行われたら,怒りを覚えるでしょう.今は,医療事故隠しが通用する時代ではありません.

◆ 医療紛争を防止するためには
そこで,患者側が医療事故を医療事故と認識たうえで,医療事故がもとで医療紛争が起きることを少なくするには,どうしたらよいか,考えましょう.

医療事故が起きた場合,患者家族が医療者に求めることは,何が起きたのかの説明です.
医療事故には,医療者に法的責任があるもの(医療過誤)と法的責任がないものがあります.しかし,法的責任があるかどうかより,何が起きたのか,を知りたいと強く思う人が多いのです.もちろん例外は常にありますし,タイミングも重要ですので,「今,説明を希望しますか」という質問は必須です.
事実を正しくかつわかりやすく説明することで,医療事故がもとで医療紛争が起きる割合は,かなり低くなると思います.患者・家族の苛立ち,不信は,医療者が嘘をついている,事実を隠している,ごまかそうとしている,ということだからです.
なお,患者家族の中には,絶対数は少ないですが,頑強に事実を受け入れない人がいて,紛争化しています.しかし,それは,患者家族が医療事故を認知したから紛争になっているのではありません.医療事故ではない事案で,事実を受け入れないことにより紛争化しているのです.これは,まったく別の問題です.

◆ 医療事故調査の重要性
事実の中にはただちに説明できる単純な事実もありますが,調査しないと解明できない事実もあります.臨床医療の実践においては,よく調査してみないとわからないことも多いと思います.そこで,医療事故調査とその結果の患者家族への説明が重要になります.

◆ 医療事故調査の仕組み
今,医療事故調査の仕組みが作られようとしています.
医療事故調査の仕組みが,事実を知りたいという患者・家族の気持ちに応えるものとなれば,医療事故がもとで医療紛争が起き,医療者と患者の信頼関係が崩壊することは少なくなると思います.

なお,医療調査を契機に,医療過誤(法的に責任のあるもの)が判明し,保険会社から賠償金が支払われる事案が増えるかもしれませんが,そのことにより医療紛争が起きて医療者と患者の信頼関係が崩壊する事態にはなりません.医療過誤(法的に責任のあるもの)事案について責任を否定し争うことにより,医事紛争,医事訴訟になり,信頼関係崩壊につながるのです.法的に責任のあるものについては責任を認めて賠償金を支払うことが医事紛争防止,医事訴訟防止の最上の方策と思います.


  谷直樹

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by medical-law | 2015-02-17 23:58 | 医療事故・医療裁判