熊本大学医学部附属病院,PICCカテーテル挿入後にガイドワイヤーを抜かなかった医療事故を公表
熊本大学医学部附属病院は,2015年5月29日,以下のとおり「医療事故の公表について」を発表しました.
「本院において、中心静脈カテーテル留置を行うために右側正肘静脈からPICCカテーテル(ピック・カテーテル)を挿入した際に、誤ってカテーテル内にスタイレット(注記参照)を留置し、その後スタイレットが胸腔内に迷入して胸腔鏡下にスタイレットを取り出す医療事故が発生しました。
今般、患者様の同意が得られましたので、ここに公表いたします。
(経緯)
平成26年4月、産科に切迫早産のため入院中の患者A様(20代の女性)に中心静脈カテーテル留置を行うため、右側正肘静脈からPICCカテーテルを約40cm挿入しましたところ、翌朝より肩の痛みが出現し、その後左上半身に広がる痛みの増強を訴えられました。痛みの原因を探るため、当日の20時50分過ぎと翌日の0時40分過ぎに胸部X線撮影を行い、20時50分過ぎに撮影したX線では異常に気づきませんでしたが、0時40分過ぎに撮影したX線で胸部にスタイレットと思われる陰影がみられるのに気づき、エコー検査でも同様な所見が確認されました。このため、同日午前4時に患者様とご家族にスタイレットが静脈壁を穿孔して左胸腔内に進んでいると考えられる旨の説明を行い、午前4時30分頃にCT検査でスタイレットの胸腔内迷入とその位置を確認した後、患者様とご家族の同意を得て、同日午後1時頃に約2cmの皮膚切開を3ヶ所加え胸腔鏡下にスタイレットを摘出しました。
(原因と再発防止)
医療安全調査専門委員会を設置して調査を行った結果、カテーテル挿入後に本来抜去すべきスタイレットを誤ってカテーテル内に残したままカテーテルを留置したことが直接の原因であり、実施医が使用するカテーテルについての十分な基本知識を持たずにカテーテル挿入を実施したことが本事案発生の要因と判断されました。
同様の事案の発生を防止するため、病院長はただちに「中心静脈カテーテル挿入は実地講習会を受講した医師、もしくは受講医師の指導下に行う」ことを院内に通知し、医療安全管理部は「PICCカテーテル使用における注意喚起」を全部署のリスクマネージャーに通達しました。その後、医療安全調査専門委員会の提言に基づいて「中心静脈カテーテル施行認定制度等に関するワーキンググループ」を設置して、認定制度の制度設計、中心静脈カテーテル挿入・管理マニュアルの改訂、中心静脈カテーテル挿入時の共通同意書の作成、院内で使用できるカテーテルのリスト作成などについて検討し、平成27年度より院内の中心静脈カテーテル施行認定制度を発足し、医師に対する指導・教育の徹底を開始しました。
「病院長コメント」
今回、このような事案が発生し、患者様とご家族の皆様に多大なご迷惑とご心労、ご心配をおかけいたしたことにつきまして、心よりお詫び申し上げます。医療安全調査専門委員会の答申を真摯に受け止め、再発防止に務める所存です。
(注記)スタイレットとは、PICCカテーテルを円滑に挿入するために、あらかじめカテーテル内側に納めてある金属製のガイド用ワイヤーで、カテーテルを挿入して固定する際には抜去することになっています。
ガイドワイヤーは,挿入後に抜くものです.
大学病院は医師の教育のための病院でもありますが,まさか,医師がガイドワイヤーを残すとは!
大学病院にカテーテル挿入の方法を知らない医師がいたということになります.
医療事故の半数以上は,シンプルで,基本的なミスによるものですが,これには驚かされました.
基本的なことを知らない医師がいる以上,教育・指導を徹底するしか防止策はないでしょう.
なお,鎖骨下等から穿刺して挿入する従来の中心静脈カテーテルには手技上の事故があったことから,末梢から安全に穿刺,挿入できるPICC(Peripherally Inserted Central Catheter)=末梢穿刺中心静脈カテーテルが開発,普及してきました.より安全な製品でも,教育,指導は重要です.
【追記】
熊本日日新聞「医療ミスを謝罪 熊本大病院が会見」(2015年6月5日)は,次のとおり報じました.
「熊本大病院(熊本市中央区本荘)で昨年4月にカテーテル内の金属製ワイヤを妊婦の胸に放置していた医療事故で、水田博志院長らが4日、記者会見を開き、事故の経緯などをあらためて説明。「患者、家族に深くおわびする」と陳謝した。
同病院は5月29日に医療事故の発生をホームページで公表したが、水田院長らが出張で不在。公表の仕方に問題があったとして会見を開いた。
病院によると、医療事故に遭ったのは切迫早産で入院していた20代女性。産科の30代男性医師が、薬剤を投与するために右肘の静脈からカテーテル約40センチを挿入した後、カテーテル内の「スタイレット」と呼ばれるステンレス製ワイヤ(長さ約40センチ、直径約0・5㍉)を体外に引き抜くのを忘れていた。
体内に残ったワイヤは静脈壁を破って左の胸腔[きょうくう]内に達しており、挿入から約2日後に摘出。女性は無事に出産した。
同病院は「担当した医師は、ワイヤが入っているタイプのカテーテルを使った経験がなく、実地講習も受けていなかった」と説明。ワイヤを引き抜く必要があることを認識しておらず、治療に立ち会った40代の指導医もミスに気付かなかったという。
同病院は再発防止のため、5月1日からカテーテルの使用に関して独自の認定制度を導入。実地講習を受けていない医師のカテーテル挿入を禁じ、講習を受けた医師が実施する際も認定医の指導下で行うように見直した。(田中祥三)」
谷直樹
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