弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

陣痛促進剤の不適切使用による脳出血で植物状態になったと狭山市の産婦人科クリニックが提訴される(報道)

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産経新聞「「陣痛促進剤で植物状態」 家族がクリニックを提訴 埼玉」(2015年6月1日)は、次のとおり報じました.

埼玉県狭山市の産婦人科クリニックでお産をしようとした所沢市の保育士の女性(30)が陣痛促進剤の不適切使用で脳出血を起こし植物状態になったとして、女性の家族が運営元の医療法人と医師に、約2億4800万円の損害賠償を求めてさいたま地裁に提訴したことが1日、分かった。提訴は4月10日付。

 訴状によると、女性は昨年4月10日、長女を出産しようと入院した狭山市の○○産婦人科クリニックで陣痛促進剤を投与された後で脳出血を起こした。転院先で帝王切開して長女は出産できたが、女性は植物状態となった。

 原告側は、女性には頭痛や血圧上昇などの異常が現れたのに、医師は投与を中止するといった処置を怠ったとしている。促進剤使用の留意点を定めた日本産科婦人科学会などの指針にも反していたという。

 クリニックは取材に「適正な医療を行った」としている。」


 これは私が担当した事案ではありません.私の場合、約2億4800万円という高額の請求で提訴することはありません.印紙代節約のために一部請求を奨めますので.
 
 陣痛促進剤と脳出血の関係は,産科医療の争点の1つです.
 米国におけるオキシトシンの添付文書の「注意」欄には「オキシトシン注射剤を使用することに関連した母体の死亡および胎児の死亡が報告されている。本製剤使用関連した母体の死亡の原因としては,高血圧性合併症,くも膜下出血,子宮破裂などがある」との記載がありますが,日本では、オキシトシンの添付文書には,「薬剤の使用の有無によらず、分娩時には母体の生命を脅かす緊急状態(子宮破裂、羊水塞栓、脳内出血、くも膜下出血、常位胎盤早期剥離、子癇、分娩時大量出血等)が起こることがあるため、本剤を用いた分娩誘発、微弱陣痛の治療にあたっては、分娩監視装置を用いた分娩監視に加えて、定期的にバイタルサインのモニターを行うなど、患者の状態を十分に観察し、異常が認められた場合には適切な処置を行うこと。 」という妥協的な記載しかありません.
 脳内出血と子宮収縮抑制剤との因果関係については否定的である、とさえ,「産婦人科ガイドライン2014-産科編-」に書かれています.
 他方,東京高裁平成13年1 月31 日判決は,オキシトシンの投与及びその増量並びに出産の接近に伴って血圧が上昇し,脳出血に至ったものと認め,患者側の逆転勝訴としています. 
 この件を提訴した患者側弁護士は,脳出血の原因が陣痛促進剤の不適切使用であるという主張をどのように立証するのか,さいたま地裁民事2部はどのような判決を下すのか,影響は大きいので,注目したいと思います.

【追記】

埼玉新聞「出産女性が植物状態に…夫が提訴 陣痛促進剤訴訟、初の弁論」(2015年6月18日)は,次のとおり報じました.

「狭山市の○○産婦人科クリニックで出産しようとした所沢市に住む保育士女性(30)が陣痛促進剤を不適切に使用され脳出血を起こし植物状態になったなどとして、女性の夫らが運営元の医療法人と医師を相手取り、治療費など総額約2億4千万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回弁論が18日、さいたま地裁(高野輝久裁判長)で開かれた。

 訴状によると、女性は昨年4月10日、同クリニックで長女を出産する際に、陣痛促進剤を投与された。転院先で帝王切開をして長女を出産したが、女性は植物状態になった。

 原告側は、陣痛促進剤を投与された女性が、激しい頭痛やけいれんなどの異常症状を起こしたのに、医師は投与を中止せず、血圧や脈拍数の測定を怠ったなどと主張。陣痛促進剤を定めた日本産婦人科学会のガイドラインにも違反していたとしている。

 一方、法人側は答弁書で「原告側の請求をいずれも棄却する」と争う姿勢を示している。同クリニックは取材に対し、「適正な医療を行い、ガイドラインにも反していない。今後の裁判で明らかにしていく」としている。

 閉廷後に取材に応じた女性の夫(32)は「今も妻はベッドで寝たままだ。妻と共に幸せな家庭を築きたかった。家族が前を向いていくために、裁判を起こすことに決めた。真実を明らかにしてほしい」と訴えた。」

【再追記】
さいたま地裁は,平成30年8月30日,原告の請求を棄却しました.原告は控訴しました.


谷直樹


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by medical-law | 2015-06-02 01:38 | 医療事故・医療裁判