産科における胎児死亡の場合の賠償額
これに対し,出生前の胎児が死亡した場合の損害賠償の法律構成は異なります。
日本の民法第3条1項は,「私権の享有は、出生に始まる。」としています.
つまり,人は生まれてはじめて権利義務の主体としての人となるので,生まれる前の胎児は権利義務の主体ではありません.
裁判上,胎児死亡の場合の損害は,権利義務の主体である両親の損害として算定されます.
大分地裁平成9年2月24日判決(判例タイムズ953号250頁)は,子宮破裂により胎児が死亡した事例につき,慰謝料2000万円及び弁護士費用200万円合計2200万円の支払いを命じました.
東京地裁平成14年12月18日判決(判例タイムズ1182号295頁)は,帝王切開により娩出された胎児が死亡した事例につき早期に帝王切開を実施すべき義務等に違反した過失があったとして産婦人科医と病院側の不法行為責任を認め,慰謝料2800万円,葬儀費用100万円及び弁護士費用300万円合計3200万円の支払いを命じました.
このほか,1000万円を超える賠償を認めた裁判例もあります.
或る弁護士の「交通事故&医療事件に関するブログ」に「胎児死亡の場合の慰謝料」(2008年03月21日)という題で,「これまでに胎児死亡の場合で、もっとも高い金額を認めているのは、東京地裁平成11年6月1日判決(交通民集32・3・856)のようです。この判決は、妊婦(母)が受傷したことにより妊娠36週の胎児が死亡したケースで、胎児死亡による慰謝料として 母親 700万円 父親 300万円 が認められています(総額1000万円)。」と書かれています.
交通事故を念頭においた記載なのでしょうが,これを読んだ一般の人が,出産間近の医療事故についても1000万円を超える賠償額を認めた裁判例がないと誤解をしなければよいのですが...
産科事故に因り胎児が死亡したけれども,その産科事故が無ければ胎児が死亡せず,元気に生まれたと推認できる場合,0歳児の死亡と極限的に接近することから,0歳児の死亡の場合の損害賠償額に近づけることが合理的と考えます.
産科医師は妊娠何週であるかを認識していますので,出産間近の医療事故で責任を負う場合,0歳児の死亡とほぼ同様の賠償額としても予想外ではないはずです.
両親の慰謝料という法律構成をとるにしても,実質的に0歳児の死亡の損害賠償額に近づけることは可能であり,むしろ合理性があると考えます.出産直前に産科医師の注意義務違反により待望の子を失った両親の精神的苦痛は出生後の新生児が死亡した場合となんら異なることはなく,その苦痛と悲しみは極めて深く大きいというべきだからです.
産科事故に因り胎児が死亡した場合の賠償額について,患者側の弁護士は,0歳児の死亡の場合の賠償額に近づける努力をしてきています.
私が原告ら代理人をつとめた東京地裁平成14年12月18日判決(判例タイムズ1182号295頁)以降,それを上回る判決はでていませんが,和解では高額のものもあると思います.
谷直樹
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