弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

裁判官大橋正春の反対意見,本件選挙は本判決確定後6か月経過の後に無効とするのが相当である

最高裁判所は,1票の価値に最大で2.13倍の格差があった平成26年12月の衆議院選挙について、憲法が求める投票価値の平等に反する状態だった(違憲状態)とし,選挙の無効を認めませんでした.最高裁派,3回連続で違憲状態にとどまっています.
注目すべきは,弁護士出身の3裁判官の反対意見です.


「裁判官大橋正春の反対意見は,次のとおりである。

私は,多数意見と異なり,平成23年大法廷判決において憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っているとされた旧選挙区割りは本件選挙区割りによっても違憲状態が解消されたことにはならず,したがって憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったもので,本件選挙区割りは憲法の規定に違反すると考えるものであり,また本件では事情判決の法理を適用すべき事情はなく,本件選挙区割りに基づいてなされた本件選挙は本判決確定後6か月経過の後に無効とするのが相当であると考える。

いわゆる合理的期間の法理に関する私の理解は,平成25年大法廷判決における私の反対意見1項に述べたとおりであり,これを引用する。

国会は,遅くとも平成23年大法廷判決の言渡しによって旧選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていると認識し得たのであり,合理的期間の始期は遅くても言渡しがされた平成23年3月23日ということになる。

ところで,平成25年大法廷判決は,本件選挙区割りについて,「上記0増5減の措置における定数削減の対象とされた県以外の都道府県については,本件旧区割基準に基づいて配分された定数がそのまま維持されており,平成22年国勢調査の結果を基に1人別枠方式の廃止後の本件新区割基準に基づく定数の再配分が行われているわけではなく,全体として新区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備が十分に実現されているとはいえず,そのため,今後の人口変動により再び較差が2倍以上の選挙区が出現し増加する蓋然性が高いと想定されるなど,1人別枠方式の構造的な問題が最終的に解決されているとはいえない。」と判示した。そして,同判決が想定したように,本件選挙当時における選挙区間の投票価値の最大較差は2.129倍となっており,憲法の平等価値の原則に反する状態になっていることは多数意見の指摘するとおりであるから,平成23年大法廷判決が指摘した違憲状態は,現在でもいまだ解消されていないことになる。

平成23年3月23日から本件選挙施行日である平成26年12月14日まで3年8か月が経過しており,国会に認められた選挙制度の構築についての広範な裁量権や議員間で利害が激しく対立する選挙区割りの改正の困難性を考慮しても,3年8か月は国会が旧選挙区割りを憲法上の平等価値の原則に適合するものに改正するのには十分な期間である。したがって,本件では憲法上要求される合理的期間を徒過したものといわざるを得ない。

また,平成24年改正法及び平成25年改正法の成立により本件選挙区割りを制定したことを,漸次的な見直しが行われたとして,合理的な期間の判断に当たって考慮することは相当でないと考える。本件選挙区割りの性格については平成25年大法廷判決の指摘するとおりであり,平成22年当時の国勢調査に基づく選挙区間の人口比較差こそ1.998倍と僅かに2倍を下回るものであったが,その後の人口動向から次の選挙時にはこれが2倍を超えることは相当の確度で予想されていたことであり,現に本件選挙当日における選挙人の最大較差は2倍を超えるものとなっている。したがって,平成24年改正法及び平成25年改正法は,問題の根本的解決に向けての立法府の真摯な努力を前提にした上での当面の是正策であると評価することはできず,合理的期間の経過の判断に際して考慮すべきものではない。

また,本件選挙後の国会における是正の実現に向けた取組については,現在まで具体的な成果を上げているものでなく,現在までに既に4年8か月も経過していることを考慮すれば,合理的な期間が経過しているとの上記の判断を左右するものではない。

本件選挙区割りが違憲であるとした場合には,いわゆる事情判決の法理の適用が問題となる。合理的期間の法理が,選挙制度の仕組みの決定について認められている国会の広範な裁量権を尊重するという司法権と立法権の関係に関わるものであるのに対し,いわゆる事情判決の法理は,行政事件訴訟法の規定に含まれる法の一般原則に基づくものと理解されているが,これはまた違憲判決の効果の範囲・内容を定めるについて裁判所の有する裁量権(最高裁平成24年(ク)第984号,第985号同25年9月4日大法廷決定・民集67巻6号1320頁参照)の表れの一つでもある。殊に,定数配分規定や選挙区割りの違憲を理由とする選挙無効訴訟は,公職選挙法204条の選挙の効力に関する訴訟の形式を借りて新たな憲法訴訟の方式を当審が創設したという実質を有するものであり(最高裁昭和59年(行ツ)第339号同60年7月17日大法廷判決・民集39巻5号1100頁の裁判官寺田治郎,同木下忠良,同伊藤正己,同矢口洪一の補足意見(以下「昭和60年大法廷判決の共同補足意見」という。)参照),その効果を定めるについて裁判所の裁量を認める余地は大きいということができよう。勿論,憲法上保障される個人の基本的権利の侵害が問題になっている場合には,違憲の効力を制限することには慎重であるべきだが,本件はいわゆる客観訴訟でありそのような問題は生じない。

上記のように考えた場合には,裁判所は,昭和51年大法廷判決のいう違法であることを判示するにとどめて選挙自体は無効としないとすることや,昭和60年大法廷判決の共同補足意見のいう選挙を無効とするがその効果は一定期間経過後に初めて発生するものとすることが可能である。

平成23年大法廷判決から現在まで既に4年8か月が経過しているにもかかわらず国会による是正措置は実現されていないのであり,選挙人の基本的人権である選挙権の制約及びそれに伴って生じている民主的政治過程のゆがみは重大といわざるを得ず,また,立法府による憲法尊重擁護義務の不履行や違憲立法審査権の軽視も著しいものであることに鑑みれば,本件は事情判決により選挙の違法を宣言するのにとどめるべき事案とはいえない。

他方において,選挙無効の効力を直ちに生じさせることによる混乱を回避することは必要であり,本件選挙は本判決確定後6か月経過の後に無効とすることが相当である。

投票価値の較差の是正が困難であるのは,選挙制度構築の技術性や専門性に由来するものと利害関係の対立,特に直接の利害関係人である現職議員間の利害対立によるものとが考えられるが,国会はこれまで何度にもわたり衆議院議員総選挙の小選挙区選挙に関する定数是正を検討するための審議会等の組織を設置し検討を加えてきたのであるから,技術的・専門的な知識・経験を蓄積してきたものと考えられ,技術性・専門性が是正措置実現の大きな障害であるとは考え難く,主たる原因は現職議員間の利害対立にあるものと考えられる。しかしながら,本件は裁判所が違憲状態にあるとした本件選挙区割りの是正に関わるのであるから,憲法尊重義務を負う個々の議員だけでなく立法府として速やかにこれを是正する法的義務を負っているものといわなければならない。そもそも利害関係を調整して必要な決定を行うのが立法府の役割である以上,利害対立を理由に決定を避けることは許されない。

本件では全選挙区について訴訟が提起されており,平成25年大法廷判決の私の反対意見が指摘した問題は生じない。立法府による本件選挙区割りの是正のための検討作業を前提にすれば,本判決確定後6か月以内に是正措置を採ることを求めるのは不可能を強いるものとはいえない。そして,6か月以内に是正措置が採られた場合には,特別法による選挙か衆議院を解散した上での通常選挙によるか等の具体的方法についての選択肢はあるものの,憲法14条に適合する新たな選挙区割りに基づいた選挙をすることで本件選挙を無効とすることによる混乱は回避することが可能である。



これは,本判決確定後6か月経過の後に無効とすることで,その6か月の間に改正作業を行わせるというものです.
事情判決の法理を適用しない,一部の選挙区に限定しない,という点で,最も実効的かつ最も論理的な反対意見です.

谷直樹


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by medical-law | 2015-11-25 20:17 | 司法