弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

裁判官木内道祥の反対意見,12の選挙区については選挙無効とされるべきである

裁判官木内道祥の反対意見は,次のとおりである。

本件規定の憲法適合性

私の意見は,本件区割規定及び本件選挙区割りは,平成25年改正後の平成24年改正法によるものであるが,定数削減の対象外の都道府県には旧区割基準による定数が配分されており,全体として新区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備を実現したものといえず,本件選挙区割りはなお憲法の投票価値の平等の要求に反する状態(以下,違憲状態ともいう)にあったというものであり,この点は多数意見と同じである。

合理的期間内の是正

憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったか否かについては,是正がされなかったとはいえないとする多数意見に賛成することはできない。

国会が憲法上要求される合理的期間内における是正がされたか否かの判定は,国会が立法府として合理的に行動することを前提として行われるべきであり,既に平成23年大法廷判決において,違憲状態の主要な原因である1人別枠方式の廃止と新基準による選挙区割規定の改正という,行うべき改正の方向が示されており,改正の内容についての裁量権はこの範囲に限定されている。司法権と立法権の関係に由来するとされる事項は,事情判決の法理を適用すべきか否かの段階で考慮すべきことであり,合理的期間内の是正の有無の判定について考慮すべきではない。また,定数配分の見直しにそれ以外の政策課題が併せて議論されているというような実際の政策問題も,合理的期間内の是正の有無の判定について考慮すべきではない(平成25年大法廷判決の私の反対意見参照)。

合理的期間の起算点が平成23年大法廷判決の言渡しがされた時点であり,本件選挙施行までの期間が3年9か月弱となる(この点は多数意見も同じである)ところ,平成23年大法廷判決,平成25年大法廷判決が憲法上の要求とした投票価値の平等の実現を阻害する1人別枠方式という要因の解消は,平成25年改正後の平成24年改正法による本件選挙区割りにおいても実現していない(このことは,既に,平成25年大法廷判決が示している)のであるから,本件選挙施行時点まで是正がなされなかったことが,合理的期間を徒過したものであることは明らかである。

したがって,本件区割規定は,違憲の瑕疵を帯びるものである。

選挙の効力について

(1) 選挙無効の判決があり得るのかとの危惧

投票価値の平等を害することを理由とする選挙無効請求訴訟についてなされた当審大法廷判決は,参議院議員通常選挙についての昭和39年2月5日のものを最初とし,18回なされている。この中で,いわゆる事情判決の法理が適用されたものは,昭和51年4月14日大法廷判決と昭和60年7月17日大法廷判決の2回であり,それ以外の大法廷判決の多数意見は,定数配分又は選挙区割り規定が違憲とされた場合の選挙の効力という問題については言及していない。しかし,①定数配分又は選挙区割りが違憲状態に至っているか否か,②その場合に,憲法上要求される合理的期間内における是正がなされなかったとして定数配分規定又は選挙区割規定が違憲となっているか否か,③その場合に,選挙を無効とすることなく違法を宣言するにとどめるか否かという3段階の判断枠組みが採られる中で,③の選挙を無効とするか否かは,この種の訴訟において,最も重みのある問題として意識され,その問題を念頭に,前段階の判断もなされてきたと思われる。

従来の大法廷判決の個別意見には,選挙の効力(選挙を無効とすべきか否か)について言及するものが少なからず存在する。

選挙の効力について,違憲とする場合常にいわゆる事情判決の法理を適用せざるを得ないとの意見(横井大三裁判官,昭和58年11月7日大法廷判決),定数訴訟は,議員定数配分規定の違憲を宣言する訴訟として運用し,無効とはしないとの意見(園部逸夫裁判官,平成5年1月20日大法廷判決など)もあるが,いわゆる事情判決の法理を適用した昭和51年4月14日大法廷判決の多数意見の趣旨は「この種の選挙訴訟においては常に被侵害利益の回復よりも当該選挙の効力を維持すべき利益ないし必要性が優越するとしているわけではなく,具体的事情のいかんによっては,衡量の結果が逆になり,当該選挙を無効とする判決がされる可能性が存することは,当然にこれを認めている」(中村治朗裁判官,昭和58年11月7日大法廷判決)と理解されるべきであり,それを前提として,昭和60年7月17日大法廷判決が,再び,いわゆる事情判決の法理の適用を行ったものと解される。

他方,選挙を無効とすることがあり得るといいつつ,実際には選挙を無効とすることはないのではないかという危惧を抱く意見が個別意見において幾つも述べられている。「「将来を約束する言葉の響きを与えながら,期待をふみにじる」結果になり,かえって国民の司法に対する信頼を裏切ることにならないかを,私は危惧する」(斎藤朔郎裁判官,昭和39年2月5日大法廷判決),「違憲の議員定数配分規定により選挙が繰り返し行われ,裁判所がこれに対しその都度,事情判決的処理をもって応対するということになれば,それは正に裁判所による違憲事実の追認という事態を招く結果となることであって,裁判所の採るべき途ではない」(谷口正孝裁判官,昭和60年7月17日大法廷判決)「最高裁判所が…議員定数配分規定を全体として違憲と判断しながら,結論においては事情判決的処理に終始することがあれば,ひいては主権者である国民の有する選挙における平等の権利の侵害が放置されることになりはしないであろうか」(木崎良平裁判官,平成5年1月20日大法廷判決)などのとおりである。

ここで懸念されているように,選挙区割規定が違憲であるにもかかわらず,選挙が繰り返し行われるような場合に,裁判所は違法を宣言するのみで選挙を無効としない判決をただ繰り返すに終始することはできない。また,是正をなすべき合理的期間の幅を広げることにも自ずと限界がある。「選挙を無効とする結果余儀なくされる不都合」(昭和60年7月17日大法廷判決)をできるだけ少ないものとし,選挙権の侵害を回復する方途を求める必要があるのである。

(2) 一部の選挙区の選挙無効

私は,平成25年大法廷判決の反対意見において「一般に,どの範囲で選挙を無効とするかは,前述のように,憲法によって司法権に委ねられた範囲内において裁判所が定めることができると考えられるのであるから,従来の判例に従って,区割規定が違憲とされるのは選挙区ごとではなく全体についてであると解しても,裁判所が選挙を無効とするか否かの判断をその侵害の程度やその回復の必要性等に応じた裁量的なものと捉えれば,訴訟の対象とされたすべての選挙区の選挙を無効とするのではなく,裁判所が選挙を無効とする選挙区をその中で投票価値平等の侵害のごく著しいものに限定し,衆議院としての機能が不全となる事態を回避することは可能であると解すべきである。」と述べた。

そして,平成26年11月26日大法廷判決の私の反対意見において「各選挙区における選挙人各人の投票価値平等の侵害の程度を考えると,選挙人としての権利の侵害の最も大きな選挙区は議員一人当たりの選挙人数の最も多い選挙区である。しかし,その選挙区の選挙を無効とした場合,投票価値の較差を是正する公職選挙法の改正が行われて再度の選挙が行われない限り,その選挙区の選挙人が選出する議員はゼロとなる。これでは,選挙を無効とすることが,当該選挙区の選挙人が被っている権利侵害を回復することにはならない。法改正により較差が是正されれば,選挙人の投票価値平等の侵害は解消されるのであるから,選挙を無効とする選挙区の選定に当たって考慮すべきは,法改正による較差の是正までの間の選挙人の権利侵害である。このような観点からすると,議員一人当たりの選挙人数が多いことによる選挙人の権利侵害は,その選挙人数の絶対数の問題ではなく,より選挙人数の少ない他の選挙区の選挙人との比較の問題であるから,議員一人当たりの選挙人数が最も多い選挙区の選挙人の権利侵害を著しくしているのは,議員一人当たりの選挙人数が少なくても議員を選出できる選挙区の存在であり,この選挙区の選挙を無効とすれば,残る議員についての投票価値の較差は縮小する。したがって,限定した範囲の選挙区の選挙を無効とすることによって選挙人としての権利の侵害を少なくするためには,議員一人当たりの選挙人数が少ない選挙区からその少ない順位に従って選挙を無効とする選挙区を選定すべきである。議員一人当たりの選挙人数の少ない選挙区の順に選挙無効とする場合,どの選挙区までを無効とするかは,憲法によって司法権に委ねられた範囲内において,この訴訟を認めた目的と必要に応じて,裁判所がこれを定めることができるものである(昭和60年7月17日大法廷判決の4名の裁判官の補足意見参照)。議員一人当たりの選挙人数が少ない選挙区からその少ない順位に従って裁判所が選挙を無効とする選挙区をどれだけ選定すべきかの規律は,選挙を無効とされない選挙区の間における投票価値の較差の程度を最も重要なメルクマールとすべきと思われるが,この規律は,いまだ熟しているということはできない。」と述べ,特定の選挙区の選挙のみを無効とすることは控えることとした。

平成26年11月26日大法廷判決は参議院議員通常選挙についてのものであるが,議員一人当たりの選挙人数が少ない選挙区からその少ない順位に従って選挙を無効とする選挙区を選定すべきであることは,衆議院議員小選挙区選挙についても同様に当てはまる。前回平成24年12月16日施行の衆議院議員選挙については,私は,区割規定を違憲とし,いわゆる事情判決の法理を適用して違法を宣言するにとどめたが,今回の衆議院議員総選挙は,従来の選挙区割りを基本的に維持して行われたものであり,その全てについて違法の宣言にとどめることはできない。

裁判所が選挙を無効とする選挙区をどれだけ選定すべきかの規律は,従来3段階の判断枠組みの第一段階である選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態(違憲状態)に至っているか否かの判断基準とは性質が異なる。選挙区割りが違憲状態か否かの判断基準は,区割規定(定数配分規定)が「全体として違憲の瑕疵を帯びる」(昭和51年4月14日大法廷判決,同60年7月17日大法廷判決)か否かについてのものであり,その区割基準が投票価値の平等に反するものか否かが重要であり,一律に較差の一定数値によって定めることは,それに達しない不平等を無条件に是認することとなり,不適切である。これに対し,ここで問題となる無効とする選挙区の選定の規律は,違憲判断の及ぶ範囲を一定程度制限するという司法権に委ねられた権能の行使についてのものである。

具体的にどの範囲で選挙を無効とするかは,個々の選挙によって異なることは当然であるが,本件においては,本件選挙区割りによる295選挙区の選挙人数の違いが後述のとおりであることを考慮すると,衆議院としての機能が不全となる事態を回避することと投票価値平等の侵害の回復のバランスの観点から,投票価値の較差が2倍を超えるか否かによって決するのが相当である。

今回の選挙の結果によると,295の選挙区のうち最も選挙人数の少ないのは宮城県第5区(選挙当日で23万1081人),最も選挙人数の多いのは東京都第1区(選挙当日で49万2025人)であり,その比率は1対2.129である。選挙人数が東京都第1区の選挙人数の2分の1を下回る選挙区は,宮城県第5区以外に11あり,少ない順に挙げると福島県第4区,鳥取県第1区,鳥取県第2区,長崎県第3区,長崎県第4区,鹿児島県第5区,三重県第4区,青森県第3区,長野県第4区,栃木県第3区,香川県第3区である。

したがって,この12の選挙区については選挙無効とされるべきであり,その余の選挙区の選挙については,違法を宣言するにとどめ無効とはしないこととすべきである。この12選挙区について選挙が無効とされると,その選挙区から選挙人が選出し得る議員はゼロとなるが,これは,選挙を無効とする以上やむを得ないことであり,較差を是正する法改正による選挙が行われることにより回復されるべきものである。



これは,無効とするのを一部の選挙区に限ることで混乱を回避しようとするものですが,一部に限ることが論理的かという問題があります.

ただ,やはり,多数意見より弁護士出身の3裁判官の反対意見のほうが読みがいがあります.
違憲状態判決を繰り返すべきではないでしょう.
「仏の顔も三度まで」(京都いろはかるた)と言いますから,4回目の違憲状態判決はないでしょう.


谷直樹


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by medical-law | 2015-11-25 20:20 | 司法