弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2016年年頭に際し-回顧と展望-

謹賀新年
謹んでみなさまのご健勝とご多幸をお祈り申し上げます
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新しい年のはじめに際し,過去を振り返り,今後について書いてみます.

1 駆け出し(キックオフ)の頃
私は,1997年に弁護士登録をしました.最初の医療事件2件(常位胎盤早期剥離胎児死亡事件,C型肝炎の見落とし肝癌死亡事件)を,実質自分1人で担当し,勝訴判決を得ることができました.この経験が,医療事件を専門的に担当する自信になりました.
独立した当時は,事件が少なかったこともあり,医療事件やボランティア活動に時間をあてることができました.患者側で医療事件を担当したい,という気持ちから,必然的に1人事務所(弁護士1人の事務所)を続けてきました.
当時,医療事件は,不採算事件と言われていましたが,私の場合経費が少なかったので,たいていの年は何とか黒字になっていました.

2 その後
その後は,数百万円の赤字となった年もありましたが,医療事件の数が増え,ほぼ順調にやってきました.スキルを磨き,結果をだしてきたつもりです.
きわめて少額のもの以外は,できるだけ他の事務所の熟練した中堅弁護士,熱意のある若手弁護士を誘い,複数で担当してきました.医療訴訟では1日に何人もの医師を証人として尋問する集中証拠調べがありますので,医療事件に熟練した熱意のある弁護士が複数で担当するほうが望ましく,調査においても迅速な進行を考えると複数担当にはメリットがあります.

3 最近
医療訴訟事件は,最高裁の統計によりますと,新規提訴が,平成21年732件,平成22年791件,平成23年770件,平成24年787件,平成25年805件,平成26年877件と年々増加の傾向にあります.
最近は,ご紹介のみならず,ホームページを見て,当事務所にお電話を下さる方も増えてきました.今はまだ1日3件程度ですが,今後さらに増えるでしょう.
医療事件はもともと私が担当したい仕事ですので,ご相談,ご依頼が増えるのは本意本懐です.
といっても,医療事件は1つ1つ丁寧に心をこめて取り扱うべきものですので,私が受任できる事件数には限りがあります.今月3件提訴しますが,それでも私が担当する医療訴訟はわずか20件です.今の体制で100件の医療訴訟を遂行するのは不可能です.医療事件に熟練した熱意ある弁護士との共同受任体制を徹底するとしても,今の5倍の医療訴訟を担当するためには,今の5倍の強固な体制が必要です.
また,最判平成12年9月22日(民集54巻7号2574頁)は,「医療水準にかなった医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるときは、医師は、患者に対し、不法行為による損害を賠償する責任を負う」とし,最判平成15年11月11日(民集57巻10号1466頁)は,「重度の障害」に相当程度の可能性論を適用し,最判平成16年1月15日(集民213巻229頁)は,債務不履行構成で相当程度の可能性論を用いました.それが下級審に波及浸透し,高度の蓋然性が認められずに400万円程度の慰謝料しか認められないという下級審判決が東京地裁,大阪地裁等で多数だされるようになりました.このため,高度の蓋然性立証に最大限努めることはもちろんですが,400万円程度の慰謝料しか認められない事件を合理的に解決するツールが必要とされるようになりました.そこで,弁護士会の医療ADRも積極的に試みるようになりました.

4 今後
医療事件の依頼者は,弁護士に高度のスキルと丁寧な仕事と具体的な成果を求めます.
医療事件において定型的処理はできませんが,事件の経験から学ぶことは多く,基本的な手順,ノウハウはあります.それに磨きをかけて自分自身が成長すると同時に,医療事件に高度に熟練し,医療被害者の人権問題として医療安全の向上のために医療事件に積極的に取り組む熱意ある次世代の優秀な弁護士を育成したいと思います.
患者側弁護士には経済的にメリットの少ない医療事件ですが,やりがいはありますので,積極的に取り組みたいという弁護士がいれば,いずれは複数の弁護士で構成する法律事務所も考えています.


谷直樹


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by medical-law | 2016-01-01 10:04 | 事務所