医学部看護学科教授が論文の盗用・改ざんで懲戒解雇
◆ 盗用
「① 対象研究者が平成24年12月20日に単著で学会誌へ投稿した原著論文(調査対象論文)とその論文の基になったとされる修士論文を比較検証した結果、調査対象論文の論述や数値データが修士論文のものとほぼ同一(約95%)であり、修士論文から31ヵ所373行、及び対象研究者に提出された修士論文草稿から2ヵ所3行にわたって流用されている。
② 対象研究者は、単著の原著論文とした理由について、「修士論文作成者と連絡が取れなかったため、共同研究者としての立場で判断し、単著で投稿した」と説明しているが、対象研究者及び修士論文作成者からの意見聴取の結果、修士論文作成者が修士論文作成に当たって一人でデータの収集や解析を行ったと認められ、論文作成に必要な情報の共有はできていなかった。当該研究に実質的な関与がないにも関わらず、単著の原著論文として投稿している。
③ 対象研究者は、修士論文作成者に連絡が取れなかったと説明しているが、対象研究者及び修士論文作成者からの意見聴取の結果、修士論文作成者への連絡及び承諾を得る努力をしたとは認められず、修士論文を安易に無断使用している。」
◆ 改ざん
「調査対象論文は、修士論文作成者が収集した調査データをそのまま用いて作成されたにも関わらず、当該論文の調査期間に示されている年月と実際のデータ収集期間が食い違っており、対象研究者への意見聴取の結果、この調査期間に実際にデータ収集が行われた事実はなく、調査期間の年月を真正でないものに変更している。」
◆ 重大な懸念事項
「① 調査対象論文と修士論文は研究協力施設から収集した同じデータを解析した結果から導き出されたものであり、二つの論文に示されている結論もほぼ同じである。しかし、調査対象論文と修士論文に記載されている統計解析図には顕著な相違がみられる。対象研究者への意見聴取の結果、調査対象論文の統計解析図は、修士論文の最も重要となる回帰分析の結果を本文中から削除し、相関関係の解析結果に基づいた図が作成され、本来の重回帰分析の結果を踏まえた結論との間に齟齬が生じたものと認められた。図が不適切に変更されたことは、科学論文として非常に問題である。
② 対象研究者の本件行為は、修士論文作成者の努力に敬意を払うことなく、研究成果を公表する上でのオーサーシップ・ルールを無視し、かつ、研究成果公表の公益性を理由として教え子の論文を盗用し自らの原著として発表している。対象研究者の本件行為は、研究倫理規範を逸脱する不適切なものであっただけでなく、大学院生の研究指導にあたる教育者として、信義にもとる倫理違反があったものと認められた。」
論文は研究者の業績です.これらのことは,研究者として最も行っていけないことです.この教授は,本件以外にも,後輩・若手研究者の研究を自分のものとして発表していたことはなかったのでしょうか.
◆ 再発防止策
再発防止策については,次のとおり述べています.
「本学では、本事が起きる前から研究活動の不正行為に対する対応方針を定めて取組を行ってきたが、対象研究者は、指導教員でありながら指導学生の著作権に関する認識を欠いていたばかりでなく、研究活動の不正行為に関する学内規程をはじめ、研究活動上の基本的なルールを理解していたとは言えず、コンプライアンス意識が低かったと言うほかない。
本件を受けて、平成27年度から、修士論文を院生の希望により、機関リポジトリにおいて全文公開や第三者への文献複写も可能とし、広く社会に向け研究論文として公開することとしている。
また、現在、新たに策定された「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」(平成26年8月26日、文部科学大臣決定)を踏まえ、研究活動の不正行為を防止するための全学的な統括組織を構築し、研究不正防止計画を策定して、着実に対応を進めており、本年度は、従前から実施している定期的な研究倫理教育研修会に加えて、研究者全員に文部科学省が指定した研究倫理教材「科学の健全な発展のために」の通読を義務化し、併せて通読レポートの提出を課した。今後、本教材の通読レポート(①通読しての評価、②所属の専攻にとっての過不足または改定案、③本学のオリジナルな研究倫理教材・教育として必要なこと)から得られた意見や要望を不正防止計画に反映させ、研究倫理教育の更なる充実と改善を図ることとしている。」
研究活動における不正行為の事案が後を絶ちません.ガイドラインは,研究者個人のモラルに委ねるのではなく,大学等の研究機関が責任を持って不正行為の防止に関わることを求めています.
谷直樹
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