大阪地判平成28年4月8日,獣医師の免疫抑制剤投与量調整の過失認め,因果関係を認めず請求棄却(報道)
「かわいがっていた飼い犬が死んだのは、動物病院で処方された薬の副作用が原因だとして飼い主が病院を訴えていた裁判で、大阪地裁は飼い主の訴えを退ける判断を示しました。
元気だった頃の柴犬の「けんしろう」。
大阪府内の飼い主が大切に育ててきました。
「いろんな所に行くにも、車に一緒に乗せて旅行にも行っていた。家族同然の存在だった」(けんしろうの飼い主)
異変が始まったのは2歳になった頃、体が硬直するような発作を起こすようになったため、近くの動物病院を受診。
免疫抑制剤の投与などの治療を受けましたが、その4か月後に死にました。
飼い主は、死因は免疫抑制剤の副作用で、投与の際に副作用の説明もなかったなどとして、動物病院に対してあわせて約470万円の損害賠償を求めていました。
8日の判決で大阪地裁は、「薬の投与には副作用の有無を確認しながら量を調整すべきだった」と獣医師の過失は認めたものの、「投薬との因果関係を認めることは困難だ」として訴えを棄却しました。
「すごく悔しい気持ちが今はありますので、残念だったということを(犬に)伝えます」(けんしろうの飼い主)
飼い主側は控訴する方針です。」
これは,私が担当した裁判ではありません.
私は,以前犬の医療過誤の裁判を2件担当しましたが,今は動物医療過誤については取り扱っていません.
報道の判決は,免疫抑制剤の投与に際し,副作用の有無を確認しながら量を調整すべき義務を怠ったことを認めながら,免疫抑制剤の副作用に因る死亡と認定できないとしたものです.
しかし,副作用に因る死亡であることが立証できなかったのは,獣医師が副作用の有無を確認していなかったためです.過失が大きいために因果関係が立証されていないとして請求が棄却されるのは甚だ疑問です.副作用の有無を確認しながら量を調整すべき義務を怠った事実から,副作用に因る悪しき結果が発生したことは推定できる,と考えるべきでしょう.
最判平成21年3月27日(判タ1294号70頁、判時2039号12頁)は,医師に麻酔薬の投与量を調整すべき注意義務を怠った過失を認め,その過失と死亡との間の相当因果関係を認定しました.もし投与量を適切に調整したとしても死亡を避けることができなかったという事情があるとすれば,その事情は医療機関側が主張・立証すべきであるが,その立証がない,として,事実上の立証責任の転換を行ない,原審判決を破棄しました.
上記報道の事案もこの最高裁判決と同様に考えられるでしょう.
谷直樹
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