東京高裁平成28年5月26日判決,常位胎盤早期剥離の母児死亡事案で,原判決を取り消し約7490万円の支払いを命じる(報道)
「2008年に○○病院(静岡市)で帝王切開手術を受け死亡した妊婦=当時(24)=の遺族が、病院を運営する○○(同)と医師らに損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は26日、請求を退けた一審静岡地裁判決を取り消し、約7490万円の支払いを命じた。
富田善範裁判長は判決理由で「医師に過失があった」と認定した。
控訴審判決によると、妊婦は08年4月、陣痛を訴え入院。医師の診察で、胎盤が子宮壁から剥がれ、胎児は死亡していると分かった。帝王切開手術をしたが、妊婦は大量に出血し死亡した。」
この報道の件は私が担当したものではありません
常位胎盤早期剥離で胎児が死亡した場合の娩出方法には議論があり、未だ結論がでていませんが,帝王切開を実施するにしても相応の注意義務があります.報道では,具体的にどの点に注意異議無違反を認定したのか書かれていませんので,雑誌等に判決文が掲載されたら読んでみたいと思います.
【追記】
読売新聞「帝王切開治療ミスで死亡、7490万円賠償命令」(2016年05月27日)は,次のとおり報じました.
「静岡市の静岡厚生病院で2008年、帝王切開手術を受けた女性(当時24歳)が治療ミスで死亡したとして、遺族が病院の運営法人と担当医3人に計約9260万円の損害賠償を求めた訴訟で、東京高裁は26日、請求を棄却した1審・静岡地裁判決を変更し、計約7490万円の賠償を命じる判決を言い渡した。
富田善範裁判長は「輸血などを適切に行っていれば救命できた」と述べた。
判決によると、女性は08年4月、胎盤の早期剥離などが疑われたため、同病院で帝王切開手術を受けたが、胎児は死亡。女性も手術後に血圧が急低下し、ショック状態になり死亡した。
昨年4月の1審判決は、医師らがショック状態に対して適切な輸血などを行わなかった過失を認めたが、「当時の医療水準では救命できなかった」として、過失と死亡の因果関係を否定。これに対して高裁は、適切な輸血や治療を行っていれば救命できたとし、因果関係を認めた。
病院を運営する静岡県厚生農業協同組合連合会は「判決を確認し、今後の対応を検討する」としている。」
これを読むと,注意義務違反(過失)というより,救命可能性(因果関係)の判断が,地裁と高裁で異なったようです.
そうすると,因果関係の認定を過度に厳格にする地裁判決を上級審が覆すという,最近の一連の流れの1つに位置づけられます.
【再追記】
妊婦が発症した疑いのある羊水塞栓症」は,従来は母体死亡率が高いとされていましたが、この東京高裁の適切に治療すれば救命できた,と判断しました. 治療が奏功する可能性の評価が,1審と控訴審の判断を分けたようです.
谷直樹
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