千葉市の病院,心臓血管外科手術の調査委員会の報告書
◆ 基本的な考え方
報告書は,「医療において、特に外科医療においては、診断、手術適応、インフォームドコンセント、手術、術後管理のどの面においても患者のためという原則が貫かれてないといけない。診断においては病態の正確な把握、手術適応においては手術の長所とリスク、特に死亡と合併症のリスクの割合の説明、インフォームドコンセントにおいては何もしない場合のリスクと手術のリスクとの比較の下に患者本人の納得、手術においては最適の手術法の選択と実行、最適な心筋保護法の選択と実行、術後管理においては早期の回復を目指す治療、などあらゆる場面で患者中心の考え方で臨まなければいけない。心臓血管外科は医療の中でもリスクの高い医療であるので、その医療が患者に本当に有益であるかどうか、そして患者が幸せになれるかを真剣に考えて、真実を患者に話をして、患者の納得の元、医療を提供しなければいけない。」と指摘します.
そして,「医療安全の確保のためには個々の診療科・医師レベルでの対応とともに、医療機関としての病院(組織)での対応が求められる。」と指摘します.
◆ マンパワー不足
報告書は,「ここ2-3年は統括部長から他の心臓血管外科医師へ業務・診療(手術)の移行がなされつつある時期であった。外来、手術等の診療対応における科としてのマンパワー不足は否めず、特に平成27年4月以降は、相次ぐ緊急手術や術後管理対応に忙殺される中、患者家族へのリスク説明や手術適応の判断など、医療安全に対する配慮に十分な時間とマンパワーを当てることができなかった。術後管理も主治医が自ら行う状況であり、多忙・疲労の中、引き続いての重症患者への緊急手術→術後管理→新たな有害事象発生への対応→他の緊急患者への手術→術中術後の有害事象発生…という負の連鎖(悪循環)を断ち切ることができなかった。」とマンパワー不足のところに相次ぐ緊急手術や術後管理対応に忙殺され,そのために有害事象が発生し,その対応に忙殺し,さらにそのために有害事象が発生するという負の連鎖が発生したことを指摘します.
◆ 手術適応
「手術適応については一般的な適応だけでなく、患者個々の病態や年齢、環境を考慮したうえで、個別にかつ慎重に対応することが重要である。そのためには可能な限り、術前検査によるリスク評価を行うとともに、手術適応を慎重に考慮する必要があった。」と指摘します.
◆ 転医義務
報告書は,「患者安全を第一に考慮すると、当院のマンパワー等を考慮したうえで、手術日程の調整、他の施設への搬送を考慮する選択肢もあった。」「医療者は患者に適した医療を、十分な知識と技量を持って実行する義務もあるので、その技量がないと判断すれば、技量を十分に持った他の施設に送ることも考えなければいけない。」と指摘します.
この報告書を受けて,千葉市立海浜病院は,次のとおり見解を発表しました
「平成27 年度のチーム構成は前年度と変わりありませんでしたが、平成27 年度に死亡例が多発しました。そのひとつの背景として、報告書に指摘がありますように、緊急手術や高いリスクの手術が続いたことが挙げられます。当院の位置づけから緊急手術を担う責務もあります。一方では、報告書に指摘されておりますが、連続する重症手術の実施や術後管理の対応には少人数では限界があり、マンパワーの確保に留まらず、県内の基幹施設との密なネットワーク等、学会の基幹施設にふさわしい充実した体制づくりが必要であると考えております。
当時の医療安全指針では、医療安全室への死亡例の全例報告を義務づけておりませんでした。診療科の判断だけに任せず、事例検証を通して、病院が適切に介入する機会をもつことが病院の重大な責務と考えております。この点については、心臓手術の全面停止以後、院内の検証会でも指摘があり、平成27 年8 月より病院における死亡例の全例報告を義務づけ、事例検証会など医療安全の向上に取り組んでおります。報告書にも指摘されましたが、病院のインフォームド・コンセントのガイドラインが十分に医療の現場で機能していないものもありました。患者の自己決定権にも配慮した説明と同意の実施を通して、職員の意識向上に努めていきたいと思います。
これらの医療安全に関する取り組みについて、新たに設置を予定しております第三者による検証委員会で評価を頂く予定でおります。」
死亡例の多発は,医療過誤によるものではないが,リスクの高い手術を行う施設として手術と術後管理の体制に不十分なところがあったためのようです.
心臓手術は充実した施設で行うほど安全性が高いものですので,集約化集中化が必要と思います.
谷直樹
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