弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

横浜市の病院、未破裂脳動脈瘤の手術中にマイクロ剪刀によって内頸動脈を損傷した医療ミスを公表

横浜市民病院は、9月2日、「横浜市立市民病院における内頸動脈損傷事故について」を公表しました.

「市民病院において、平成28年2月16日(火)未破裂脳動脈瘤の手術中に脳血管(内頸動脈)を損傷し、止血処置を行ったものの、2週間後にくも膜下出血を発症する事案が発生しました。 
 この件について、外部の有識者に加わっていただいた調査委員会を設置し、原因を分析するとともに、再発防止に向けた対策について検討を行い、報告書をまとめました。
 今回、患者ご家族にも報告書の内容をご説明し、公表に関しても同意をいただきましたので、お知らせいたします。 
 患者さん及びご家族の皆様に深くお詫びを申し上げますとともに、病院として引き続き全力で治療にあたります。また今後、再発防止を徹底し、市民の皆様の信頼回復に努めてまいります。」


内頸動脈損傷事故にかかる調査報告書(PDF:914KB)は、次のよおり評価しています.

「一般に脳動脈瘤の手術において脳動脈瘤や正常血管の損傷は起こり得ることで、合併症として術前にインフォームドコンセントがなされているべきことである。ただし、一般的な脳動脈瘤手術時の血管損傷の合併症として想定されうるものに、脳動脈瘤の頸部剥離やクリッピング中の脳動脈瘤頸部の損傷、脳動脈瘤の近傍の穿通枝などの正常血管の損傷などが考えられるが、今回の損傷部位は脳動脈瘤から少し離れており、想定されうる損傷部位としては稀なものであると考えられる。
・ A医師は過去の脳動脈瘤に対する手術実績(資料6)や過去の手術ビデオ(3例)の確認から、本手術を施行するに十分な技術があるものと判断される。ただし今回の手術に関しては、「マイクロ剪刀で損傷した」と術者の手術記録にもあるとおり、これは単純なミスと考える。
・ 今回の術中血管損傷が術者の不注意や未然に防ぎうるものであったかどうかであるが、脳神経外科医はわずかな手術操作の違いが場合により重篤な合併症や後遺症につながりうることを常に念頭に置き、全神経を術野に集中して顕微鏡下でのミリ単位での手術操作を行っており、通常、不注意で今回のようなことが起こるとは考えられない。また未然に防ぐことができたかどうかに関しては、もし今回の損傷部位の術中所見が正常であれば術者自身もこの部位から出血することは全く想定していなかったと考えられるため、あらかじめ対策を取っていれば未然に今回の事故が防げたとは考えにくい。
・ 右内頸動脈にマイクロ剪刀による損傷があっても仮性脳動脈瘤を形成しない症例や仮性脳動脈瘤を形成しても、くも膜下出血を起こさない症例もある。
本事案は開頭クリッピング手術時に内頸動脈のマイクロ剪刀による損傷があったことが、その後の患者の予後を決定する要因となったと考える。」

「・ くも膜下出血の原因については、これまでの状況を鑑みると、明確に断定できないが、右内頸動脈損傷に起因する仮性脳動脈瘤からの出血が最も高い可能性として考えられる。」


調査報告書は、再発防止として次の点をあげています.

1 教育の充実
A医師は十分な実績を持つ医師であるが、患者の生命を預かる者として、常に医療技術の向上を目に見える形で実行することが必要であると考える。
技術認定講習会の受講や技術研修の実施などを病院として取り入れていく必要がある。

2 安全管理の徹底
手術実施日からオカレンス報告が上がるまで9日間を要していることから、患者の状態が良好であったことや院内の医師に相談していたなどの事情を考慮してもなお早期の報告を徹底する必要がある。
また、今回の事案を安全管理研修の事例として取り上げ、インシデント・オカレンス報告について、病院全体で対応する体制を改めて確認するべきである。

3 手術映像の活用
手術時のビデオ撮影について、統一した市民病院のルールはなく、診療科ごとの判断で実施している。脳神経外科のビデオ撮影の目的は、自己研鑚症例の確認、学会発表などのための記録用であり、クリッピングの手技を撮影することを目的としていた。そのため、本事案においては損傷部位の止血処置後から未破裂脳動脈瘤のクリッピング、止血確認までの撮影にとどまった。
手術ビデオについては設備等の課題があり、病院で実施される手術を全件撮影するかどうかは病院の判断、ルール作りなどに委ねるべきところもあるが、少なくとも脳神経外科領域の手術に関しては手術開始から終了まですべての撮影が医療従事者のスキルアップや今後の事例検証のために必須である。」

これは、私が担当した事件ではありません.
ビデオに出血した際の記録がないのですが、手術記録やビデオの止血後の状況から、マイクロ剪刀による右内頸動脈を損傷したことが出血の原因と推定し、右内頸動脈損傷に起因する仮性脳動脈瘤からの出血がくも膜下出血の原因となったと可能性が最も高いとしています.
医療事故についって、真摯に原因を解明した調査だと思います.
このような調査が、再発防止策につながると思います.




谷直樹


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by medical-law | 2016-09-03 01:13 | 医療事故・医療裁判