弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

大学院の薬剤取り違え事故が起きた経緯

東京大学医学部附属病院の薬剤取り違え事故が起きた経緯は,次のとおりです。

1 看護師CはA用の散剤を準備
看護師Cは,患者A用の散剤を溶解しカテーテルチップ型シリンジに調製し,患者氏名を記名しました。
看護師Cは,患者Aの名前が書かれている患者A用の内服薬準備用ケースに,このカテーテルチップ型シリンジ2本と患者A用の散剤の空の袋を入れました。

2 他の看護師は水薬を準備
別の看護師は,患者A用の2本の水薬を含め,病棟の患者分の水薬を並べて準備しました。

3 看護師DはB用の散剤を準備  
看護師Dは,患者B用の散剤を溶解しカテーテルチップ型シリンジに調製しました。
看護師Dは,カテーテルチップ型シリンジに患者Bの氏名を記名すべきにもかかわらず,患者氏名を記名しませんでした。
看護師Dは,患者Bの名前が書かれている患者B用の内服薬準備用ケースに,患者氏名を記名していないカテーテルチップ型シリンジ1本を入れました。

4 看護師Cは,A用の内服薬準備用ケースを手にし,B用の内服薬準備用ケースの近くにいったん置く
看護師Cは,患者Aに散剤を注入しようと患者A用の内服薬準備用ケースを手にしましたが,患者Aは感染対応(個室管理)であったため,他の患者さんの処置を先に実施しようと思い,一旦置きました。看護師Cは,このとき,患者Bの内服薬準備用ケースの近くに,患者A用の内服薬準備用ケースを置きました。
さらに,日勤帯の看護師から病欠の電話があり,看護師Cは,作業を中断しました。

5 看護師Cは,内服薬準備用ケースを取り違える
看護師Cは,作業を再開したとき,患者A用の内服薬準備用ケースと誤って患者Bの氏名が書かれている患者B用の内服薬準備用ケースを取りました。
患者A用の内服薬準備用ケースには,カテーテルチップ型シリンジが2本,患者B用の内服薬準備用ケースには,カテーテルチップ型シリンジが1本入っていましたが,看護師Cは,この本数の違いに気が付きませんでした。
なお,看護師Cは,他の看護師が準備した患者A用の2本の水薬については患者Aの氏名を確認しました。
      
6 看護師Cは,患者氏名・薬剤とノートパソコン画面の指示内容との照合を行わず
看護師Cは,カートにノートパソコンと患者B用の内服薬準備用ケースを乗せて,患者Aの病室(感染対策の病室)の前に着きました。
感染対策の病室にパソコンを持ち込めませんので,病室前で,患者氏名と薬剤の内容を服薬指示の画面(ノートパソコン)と照合することになっていました。
ところが,看護師Cは,カテーテルチップ型シリンジ1本について照合しませんでした。

7 看護師Cは,リストバンドとシリンジの氏名の照合も行わず
病院のルールでは,投与(注入)の直前に,リストバンドとシリンジに書いてある患者氏名を,シリンジ1本毎に照合することとなっています。
ところが,看護師Cは,この照合も行いませんでした。

このようにして薬剤取り違え事故は起きました。
看護師Cは,病院のルールを遵守せず,確認を複数回怠っていました.。
看護師Dは,カテーテルチップ型シリンジに患者Bの氏名を記名するというルールを遵守していませんでした.
つまり,夜勤看護師4名のうち少なくとも2名がルールを遵守していませんでした。
調剤から投薬までの間,一度も誰のチェックも受けない体制でした。
東京大学医学部附属病院の薬剤取り違え事故は起きるべくして起きた事故と言えると思います。




谷直樹


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by medical-law | 2017-02-01 19:05 | 医療事故・医療裁判