患者側弁護士のdiversity~示談と裁判
同じ案件でも,患者側弁護士によって,見立てが違う場合がありますので,患者側弁護士のセカンドオピニオンを聞くことは有用と思います.
医療事件の進め方にも,弁護士のdiversityがあります.
示談件数のほうが裁判件数より多いのは,患者側弁護士に共通ですが,その比率は,それぞれの弁護士によって異なるでしょう.
最近,「昔は裁判までと考えていましたが、経験を重ねていく中で、示談でまとめる方針をとるようになりました。」という患者側弁護士の記事を読みました.
患者側弁護士が経験を積んで示談方向に方針を変えたことを知り,とても興味深く思いました.
《示談か裁判か選択を迫られる状況》
1 相手方が裁判と同じ金額を提示しているなら,示談のほうが低コストですので,誰しも示談を選択するでしょう.
2 相手方は,裁判と同じ金額ではなく,何割か割引した金額を提示する場合も結構あります.この場合は,早期解決のメリット等と割引率の検討になるでしょう.
3 相手方は,そもそも責任がないと主張し,ゼロ提示ないし見舞金程度の提示しかない場合も少なくありません.この場合にどうするかが問題です.
《劇的な選択の例》
「ハムレット」の次の台詞は有名です.
To be, or not to be? That is the question—
Whether ’tis nobler in the mind to suffer
The slings and arrows of outrageous fortune,
Or to take arms against a sea of troubles,
And, by opposing, end them? To die, to sleep—
国王の犯罪の証拠を集め困難な戦いを挑んで死ぬのか,それとも国王への復讐を諦めるのか,ハムレット王子は悩みます.それが上の台詞です.同王子は,最終的に復讐を果たしますが,無関係な人を錯誤により殺すなどし,同王子自身も亡くなります.
もし同王子が復讐を諦めていたら,国王と王妃は長生きしたでしょうし,侍従長一家が側杖を受けることもなく,同王子自身も幸せな結婚をしたことでしょう.(観客は復讐を諦めたもう1つのハムレット劇を見たいとは思わないかもしれませんが...)
もしリア王が娘への分割を誤らなければ,もしオセロ将軍がイアーゴーの虚言を信用しなければ,もしマクベス将軍が謀反を起こさなければ,悲劇はおきなかったはずです.
もちろん,冒険しないことが良いわけではありません.12歳の4人の少年たちが死体探しの冒険に出かけなければ,キャッスルロックの田舎町の物語はなかったはずです.
《示談か裁判かの選択において考慮すべき要素》
医療被害者には,今まで経験したことのない状況における正しい選択が求められています.
医療過誤も損害賠償事件の1類型ですから,基本的に,コスト,リスク,リターンの3要素で判断することが必要で,コスト,リスク,リターンについての情報を得るために,弁護士に相談することになるでしょう.
ただ,医療過誤事件は,自分自身又は家族への,生命,身体に対する侵害についての賠償を求めるものですから,気持ちの部分も大きく,単なる経済的利益の得失だけで判断できる問題ではありません.
そこで,経済的利益の得失を基本としつつ,それにとどまらず,総合的な判断で方針を選択することになるでしょう.
《私の方針》
患者側弁護士として調査を行い,過失と因果関係について立証可能と判断した案件では,ゼロ回答には原則提訴と考えますが,立証不成功のリスクがないわけではありません.
依頼者には,わずかなリスクでも躊躇する方もいれば,やや大きめのリスクでも提訴を希望する方もいます.
判決を残すことの意義は高いですが,他方,示談で早期に解決するメリットは大きいです.
依頼者により,どちらを重視するかは異なります.
裁判はコストがかかります.基本的に,コストに見合うだけの賠償額が見込めない場合は,裁判はお奨めできませんが,損害額が比較的少額で,相手方が責任を完全否定している状況で,過失と因果関係の立証見込みが高い場合は,依頼者とよく話し合い,提訴することもあります.
私は,20年の経験を積んできましたが,示談優先主義でも裁判至上主義でもなく,依頼者優先主義です.示談と裁判どちらの選択もあり得るケースでは,私は,裁判のコストとリスクと裁判所が認めるであろう賠償額を,その事案に即してできるだけ具体的に,依頼者にお伝えするようにし,依頼者に選択をお願いしてきました.
《選択が賢明で正しいものになるように》
私は,依頼者が裁判を選択したときは,それが賢明で正しい選択となるように,費用的に許される範囲ではありますが,立証に全力を尽くし徹底的に戦ってきたつもりです.力及ばずして敗れることはありますが,力尽くさずして敗れることはありません.
私の場合,裁判は判決を目指し徹底的に戦いますので,裁判が長引いてしまうことも多々あり,平成25年提訴で未だ一審段階のものが2件あります.
谷直樹
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