弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

名古屋高裁平成29年7月7日判決,カテーテルアブレーション後の脳梗塞で患者側逆転勝訴(報道)

読売新聞「後遺症、病院の過失認定 名古屋高裁が賠償命令」(2017年7月8日)は,次のとおり報じました.

「適切な対応を怠った病院側の過失により、手術後に後遺症が残ったとして、名古屋市北区の男性(70)が愛知県一宮市の社会医療法人「杏嶺会」に約1億4400万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が7日、名古屋高裁であった。孝橋宏裁判長は男性側の請求を退けた1審・名古屋地裁判決を変更し、杏嶺会側に約7900万円の支払いを命じる逆転判決を言い渡した。

 判決によると、男性は2010年、同会が運営する「一宮西病院」(一宮市)で、不整脈治療のため「カテーテルアブレーション」と呼ばれる方法で心臓の手術を受けた後、脳梗塞を発症し、左半身不随などの後遺症が残った。一方、この手術方法は、心臓に血栓がある場合や、あることが疑われる場合には採用しないこととされている。

 裁判では、手術前に担当医師が血栓の有無を確認したかどうかや、脳梗塞の原因が心臓の血栓によるものかどうかなどが争われた。同会側は「コンピューター断層撮影法(CT)画像などで血栓は確認できなかった」と主張したが、判決は「CT画像の陰影から、血栓が存在したことが強く疑われる」としたうえで、手術によって脳に移動した血栓が脳梗塞を引き起こしたと考えられると指摘。担当医師は注意義務を尽くしていなかったとして、病院側の過失を認めた。」


これは,私が担当した事件ではありません.
カテーテルアブレーション(経皮的カテーテル心筋焼灼術)の実施件数は年々増加しています.
「カテーテルアブレーションの適応と手技に関するガイドライン」には,「血栓塞栓症の発生頻度は,0.1~2.8%と報告され,広範な脳梗塞は周術期死亡の原因ともなる. 多くは24時間以内の発生が多い. カテーテルシースの血栓形成,アブレーションカテーテル電極への凝血塊付着,アブレーション部位の血栓形成,左房内既存血栓の遊離などが主な原因である.」と記載されています.
CT画像で左房内既存血栓の疑いがあればカテーテルアブレーション実施は禁忌です.
地裁(第一審)は担当医師の証言が信用できるという前提で判断したのに対し,高裁はCT画像についての検討から疑いありと判示したようです.
不当な判決について控訴はすべきで,また高裁は一回結審も多いのですが,地裁判決に疑問を覚えた場合はとくに専門家医師の所見が新しく提出されたなら重視した審理を行うべきと思います.

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2017-07-11 08:32 | 医療事故・医療裁判