診療記録をめぐる3つの課題
かつては,医療事件は,証拠保全によって診療記録を入手することから始まりました
今は,相談者が,カルテ開示の方法で入手した診療記録を持参されますので,相談の段階で,或る程度経過と状況が分かり,方向性を示すことができるようになりました.
しかし,その診療記録については,まだ多くの問題が残されています.
原昌平読売新聞大阪本社編集委員が,「診療記録をめぐる課題」で,カルテの保存義務期間と改ざんの問題を指摘しています
1 保存義務期間
「診療記録に関する法制度には不備が多いのです。法律によって保存義務期間がまちまちなうえ、その期間が短すぎます。早急に法律を見直す必要があると思います。すべての診療記録の法律上の保存義務を、改正民法の内容を踏まえて、少なくとも20年間にできないでしょうか。」と述べています
2 診療記録改ざん
「事実をゆがめる行為がまかり通っていたら、被害者は救われず、社会正義は実現しません。改ざん・隠蔽をなくすには、刑事処罰の明確化に加え、やった側が民事訴訟で不利になる運用を強めること、かかわった医療従事者への行政処分をきっちり行うことが重要です。」
「裁判所の自由裁量にゆだねるのではなく、記録に改ざん・隠蔽の疑いがあれば、それだけで医療側に義務違反や過失があったと推定する(反証がなければ認定する)ルールを導入するべきでしょう。」
文書偽造の罪,電磁的記録不正作出罪では,改ざんの一部しか処罰されません.
「法律を改正するか新法をつくり、改ざんに対する罰則を明文で設けるのがスッキリした解決策です。」
なお,改ざんが認定された判例を紹介していますが,そのなかには私が担当した事件もあります.
私が現在担当している事件には,検査記録が事故直後に破棄された事案もあります.このような改ざん,破棄のために患者側が立証できず敗訴することは本来あってはならないことと思います.
3 診療記録の不記載
原昌平さんの上記2点の問題の指摘と提案は,そのとおりだと思います
さらに,診療記録の問題をもう一点あげるなら,通常の医師であれば診療記録に記載する事項が診療記録に記載されていないことがまかりとっていることでしょう.診療に集中するあまり記録を書く時間がない,というより,診療していないので書いていない,ということのほうが多いように思います.診療記録に最低限記載すべき事項ことを医師会が示すことが必要なのではないでしょうか.
医療事故が問題になっている事案なのに,診療記録にほとんど何も記載されていないために,診療記録からは診療経過が分からないこともあります.
観察が行われていないために診療記録に記載がないのに,医療裁判では,異常がなかったから記載しなかった,という弁明が行われることもあります.
通常の医師であれば診療記録に記載する事項が診療記録に記載されていない場合は,観察が行われていないと推定すべきと思います.また,通常の医師であれば診療記録に記載する事項が診療記録に記載されていないために病態が不明で,そのため因果関係立証に困難をきたす例もあります.これはいかにも不合理なパラドックスです.立証責任の転換を考えるべきと思います.
谷直樹
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