弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

セクハラ和解時に公表を禁じる秘密保持契約の是非

Newsweek 「セクハラ告発急増 和解時に公表を禁じる「秘密保持契約」の是非」(2018年1月5日)は,次のとおり伝えました.

「声を上げる女性(ときには男性も)が増えるなかで、被害者が過去のハラスメントや虐待の主張を話題にすることを禁じる秘密保持契約(NDA)を伴う和解が批判にさらされている。多くの政治家・啓発団体が、そうした協定は廃止すべきだと主張するようになったからだ。」

「一方の当事者に対してアンフェアである、あるいは公序良俗に反していると判断する場合、裁判官は裁量により契約を無効とすることができる。今年に入ってから、ワシントンDCの連邦控訴裁判所は、病院職員が賃金その他の労働条件について議論することを禁じる雇用契約を無効とする判断を示している。

すでに一部の州には、製品の欠陥や環境汚染など「公衆に対する危険」を隠蔽(いんぺい)するような秘密保持契約を制限する法律がある。

性的不品行の告発を隠蔽するような秘密保持契約を無効とするためにも、これと同じ理屈が用いられる可能性がある、と弁護士らは言う。ハラスメント加害者の行為が公表されないと、一部の加害者が他の人にも危険を及ぼす可能性がある、という理論だ。

複数のハラスメント事件で原告側弁護士を務めた経験のあるインディアナ大学のジェニファー・ドロバック教授(法学)は、裁判所は、特に性的暴行またはその他の犯罪行為の告発を隠蔽するような合意には疑いの目を注ぐだろうとの見方を示した。

複数の弁護士によれば、結果的に、今後は恐らく秘密保持契約が用いられることが減り、現在よりも制約の少ないものになる可能性がある、という。

フォーリー・アンド・ラードナー法律事務所に所属するダブニー・ウエア弁護士は、ハラスメント訴訟において雇用者側の弁護を担当しているが、今後の秘密保持契約は、当事者の名前と支払われた和解金の金額だけを秘密とし、告発を公表することは認めるものになるのではないか、と話す。」


当事務所は,医療過誤事件に専念するため,セクハラ事件等は受けていません.
医療過誤事件の示談,和解にも同じ問題があります.
もともと,医療過誤事件の示談,和解には秘密保持条項(口外禁止条項)はついていませんでした.示談,和解のひな形に秘密保持条項(口外禁止条項)はありません.
それが,医療側では最も市場占有率が高い,東京の或る老舗法律事務所が,秘密保持条項(口外禁止条項)をつけたのが広まり,今では当然のように秘密保持条項(口外禁止条項)を要求してくることも少なくありません.
みだりに口外しない,正当な理由なく公表しない,など表現の自由を配慮した文言になっていますが,それでも問題はあります.
被害者側に潜在的な訴訟リスクを課すことは,正当な言論を萎縮させ,公表に消極的な結果を招きかねません
医療機関は,医療過誤を隠蔽するのではなく,医療過誤の事実と再発防止策の策定を公表することで,医療の質の向上をはかり,患者の信頼を得るように努めるべきと思います.
医療過誤の事実と再発防止策の策定の公表を求める被害者も少なくありません.
患者の氏名と和解金の金額を非公表とすることについては合理性はありますが,それ以外の事項について公表を制限する合理性はなく,そのような契約は不当であり,無効と解すべき場合もあるのではないか,と思います.

谷直樹

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by medical-law | 2018-01-06 00:40 | 人権