弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

「『早期母子接触』実施の留意点」(2012年10月)後の事案が大津地裁で和解成立

毎日新聞「大津地裁 「カンガルーケア」和解 病院側が両親に解決金」(2018年3月27日)は,次のとおり報じました.

「出産直後に母親が肌を合わせて新生児を抱く「早期母子接触」(カンガルーケア)で脳に重い障害が残ったとして、滋賀県草津市の男児(4)と両親に対して同市内の医療法人側が解決金を支払う和解が27日、大津地裁(西岡繁靖裁判長)で成立した。両親らは約1億6000万円の損害賠償を求めて提訴していたが、解決金額は非公表。原告側代理人によると、病院側の責任を認めた実質勝訴としている。

 訴状などによると、30代の母親は2013年4月、医療法人が経営する市内の産婦人科医院で男児を出産。男児の頭を左腕に乗せ向き合った状態で過ごしていたところ、男児の心肺が停止し、脳性まひを発症した。

 カンガルーケアを巡っては、日本周産期・新生児医学会などが12年10月、事故防止のための「留意点」を公表している。原告側代理人によると、和解内容は、スタッフが付き添うなど十分な観察・管理が必要とする留意点を医療法人側が守っていなかったと指摘した。「ただの添い寝で早期母子接触ではない」とする医療法人側の主張は認められなかった。

 和解成立を受け、原告側代理人は「従来の訴訟では病院の責任を認めないケースが多かった。『留意点』を守らなければならないことが明確になった」と述べ、40代の父親は「もう二度と不幸な事故が起きないようにしてほしい」と語った。【大東祐紀】」



京都新聞「カンガルーケア巡る訴訟、和解 滋賀、医院側が解決金」(2018年3月27日)は,次のとおり報じました.

 
「出生直後から母子が肌を触れ合う育児法「早期母子接触(カンガルーケア)」で適切な安全配慮が行われなかったため男児に障害が残ったとして、草津市内の両親が、産婦人科医院を運営する同市の医療法人に約1億6千万円の損害賠償を求めた訴訟は27日、大津地裁(西岡繁靖裁判長)で和解が成立した。原告側によると、医院側が安全対策を取らなかったとして解決金を支払う内容。

 訴状などによると母親は2013年4月、出産直後の男児と向き合った添い寝状態のまま放置された。その間に、男児が何らかの原因で窒息した可能性があり、心肺停止状態から脳性まひになったとしている。

 早期母子接触は、母子の心身の安定に効果があるとされる。日本周産期・新生児医学会などが12年に作成した早期母子接触のガイドラインでは、出産直後の新生児の呼吸は不安定なため、担当者の付き添いや呼吸状態の観察など実施時の注意点を挙げている。原告側によると、和解勧告では添い寝の状態は早期母子接触に当たり、ガイドラインが挙げる安全策が取られていなかったとしているという。

 男児の両親は「勝訴的和解で気持ちの整理がついたので前を向きたい。今後、私たちのような不幸な例が出ないようにしてほしい」と話した。」



これは,私が担当した事案です.提訴から3年になりますが,勝訴的和解ができました.

いわゆるカンガルーケアの事故が相次ぎ,日本周産期・新生児医学会,日本産科婦人科学会,日本産婦人科医会,日本小児科学会,日本未熟児新生児学会,日本小児外科学会,日本看護協会,日本助産師会は,平成24年10月17日,「『早期母子接触』実施の留意点」を作成し公表しました
本件は,その半年後の事案です

争点は2つありました

1つは,本件が着衣で行われたことから,「早期母子接触」にあたるか,でした.
「早期母子接触」とは,「出生直後に行われる分娩室で行われる母子の早期接触」とされています.
産科医療補償の原因分析報告書も,本件について,「早期母子接触」にあたると結論付けています.
裁判所が和解勧試に際し示したペーパーでも,「留意点」が念頭におくリスクが妥当するとし,広い意味での早期母子接触に含まれるとしています.
そうすると,本件には,「『早期母子接触』実施の留意点」に定める,医療者の監視義務があることになります.つまり,本件は,医療者の監視義務違反が認められる事案となります.

もう1つの争点は,急変発見時の児の態勢で,原告は側臥位を主張し,被告は仰臥位を主張しました.
尋問の結果,原告の主張が通りました.
児が側臥位であったことを否定することはできないし,仮に発見時に極めて近接する時点で仰臥位に変わっていたとしても児の急変の原因が窒息であったことを左右するものではない,というのが裁判所の心証でした.したがって,観察義務違反と児の重度の障害との間の因果関係も認定できることになります.

いままで,いわゆるカンガルーケア訴訟が行われてきましたが,「『早期母子接触』実施の留意点」後の事案は,本件がはじめてでしょう.今後,同種の事故が起きないことを切に願います.

谷直樹

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by medical-law | 2018-03-28 07:15 | 医療事故・医療裁判