弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

東京地裁平成30年6月21日判決,医師がカテーテル検査中に麻酔の濃度を下げず血圧の観察も十分ではなかったと認定

読売新聞「2歳児死亡「麻酔ミス」、3240万円賠償命令」(2018年6月22日)は,次のとおり報じました.

「心臓カテーテル検査を受けた男児(当時2歳)が死亡したのは医療ミスが原因だったとして、男児の両親が「榊原記念病院」(東京)側に約5900万円の損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁(手嶋あさみ裁判長)は21日、約3240万円を支払うよう病院側に命じる判決を言い渡した。

 判決によると、先天性の心疾患があった男児は2006年9月、心臓の状態を調べるカテーテル検査を同病院で受けて容体が急変。脳に酸素が行き渡らなくなる低酸素脳症となり、約3か月後に死亡した。両親は、医師が検査時に麻酔の使用法を誤ったなどとして、同病院を運営する「日本心臓血圧研究振興会」(同)を14年12月に提訴した。

 訴訟で同病院側は「麻酔の使用法に問題はなかった」と主張したが、判決は、医師が検査中に麻酔の濃度を下げず、容体を把握するための血圧の観察も十分ではなかったと指摘し、「医師は注意義務を欠いていた」と認定。注意義務違反が死亡につながったと判断した。また判決は、男児の検査の約4か月前にも同じ医師らが類似の医療ミスを起こしたことを挙げ「教訓が生かせなかった」と批判した。

 男児の両親は判決後に都内で記者会見し、父親(46)は「病院は判決を真摯に受け止め、謝罪や反省を表明してほしい」と語った。同病院は「コメントは差し控える」としている。」


報道の件は私が担当したものではありません.
カテーテル検査事故で2歳の子どもの命が失われたことに心が痛みます.
最判平21・3・27(集民230号285頁)は,プロポフォールと塩酸メピバカインの併用で麻酔濃度調整義務違反を認めています.
麻酔濃度調整義務違反,観察義務違反を認めた,この東京地裁の判決文は,是非読んでみたいと思います.

【追記】

毎日新聞「リピーター医師 どう防ぐ 医療ミス反復 遺族『病院の態勢不備で事故』」(2018年7月13日)は,次のとおり報じました.


「先月、ある医療事故の裁判の判決で、同じ医師の麻酔で子どもが命を落とす事故が2件続けて起きていたことが明るみに出た。医療ミスを繰り返す「リピーター医師」は長年、医療界でも問題視されているものの、根絶の手立ては見つかっていない。裁判を起こした子どもの父親は「判決が医療の改善につながれば、息子も報われる」と語る。【熊谷豪】

 訴えていたのは都内の会社員、清川仁(じん)さん(46)と由紀さん(49)夫妻。2006年に次男の峻平(しゅんぺい)ちゃん(当時2歳)を亡くした。息子は心臓に先天性の病気があり、循環器を専門とする「榊原記念病院」(東京都府中市)で治療を受けていた。

 事故があったのは同年9月。同病院の小児科医のチームがカテーテル検査をする際の麻酔で、脳に酸素が行き渡らなくなる低酸素脳症が起きて意識がなくなった。「直前まで明るい笑顔でおしゃべりしていたのに……」。信じられない思いだった。

 しばらくして由紀さんは院内で、娘が入院しているという母親から声をかけられた。聞けば峻平ちゃんが意識不明になる4カ月前、麻酔で低酸素脳症になったという。女児の麻酔を担当したのも同じ男性小児科医だった。

 峻平ちゃんは意識が戻らぬまま12月に他界。その翌年、女児も亡くなった。
過失認める判決

 病院は事故報告書を作成したが「麻酔担当医が総合的に判断した」と過失を否定。「病院が事故に真摯(しんし)な姿勢で向き合わないことが悲しく、許せなかった」と仁さん。損害賠償を求める訴訟を起こすことを決めた。

 裁判でも病院側は「医師は麻酔の経験を積んでおり、安全性に問題はなかった」と主張。両親は「麻酔科医がいない中、危険性の高い麻酔を小児科医だけで施した態勢に問題があった」と訴えた。6月21日、東京地裁は病院を運営する公益財団法人に約3200万円の支払いを命令。手嶋あさみ裁判長は、麻酔薬の濃度を途中で下げないなどの過失を認めた上で「担当医らが注意義務を尽くしていれば低酸素脳症は起こらなかった」と結論付けた。

 遺族側は証拠書類として女児の麻酔事故の報告書も地裁に提出しており、判決は「教訓は十分に生かし切れなかった」と事故の続発にも言及した。仁さんは「病院が過ちを改善していたら、息子は命を落とすことはなかったはずだ」と強く思う。

 原告代理人の須加(すが)厚美弁護士は「2件の事故について院内事故調査を実施したが、事実の検証と医学的な分析が不十分で『形だけ』という印象。第三者性や専門性を十分担保していれば、適切な再発防止策が提言、徹底されたのでは」と指摘する。

 病院側は控訴せず、取材に「司法の判断に従います」とだけコメントした。

日医の指導、届け出制度…実効性に疑問

 リピーター医師は、医療事故の多発が社会問題化した2000年前後から注目されてきた。依然なくならないのは、リピーター医師を特定し、事故の再発防止につなげる十分な仕組みがないからだ。

 日本医師会(日医)は2013年度から、保険会社と共同で運営する「医師賠償責任保険」の支払い実績から、医療ミスを繰り返す医師への指導を進めている。同保険は、医療事故によって会員の医師に患者や家族への支払い義務が生じた際に支払われる。医師側に問題がある事故が重複した場合、日医はリピーターと判定。16年度までに27人に再発防止の指導・勧告をし、17年度は新たに6人に実施したと、今年6月の代議員会で報告された。対象者には、危険性の高い手術を今後行わないと誓約する書面を提出させるなどの対策を取っているという。

 ただ、この保険に加入しているのは、国内の医師約31万人のうち日医会員の約12万人。ミスの内容は公表しておらず、指導・勧告に強制力もないため、実効性がどこまであるかは分からない。

 また、すべての予期せぬ死亡事故について第三者機関への届け出を義務付けた「医療事故調査制度」は、同じ医師が何度も事故に関与したかチェックできる仕組みになっていない。事故として届け出るかどうかが医療機関の自主性に委ねられ、届け出自体が低迷しているといった問題も起きている。

 医療事故の遺族らで作る「医療過誤原告の会」の宮脇正和会長は「医療機関が事故を公表したがらないことが、ミスが繰り返される原因だ。公表して教訓を共有する努力をしてほしい。国も医療界任せにせず、医療事故の実態調査と届け出を促すことに取り組んでほしい」と訴える。」



谷直樹

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by medical-law | 2018-06-22 11:26 | 医療事故・医療裁判