弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

患者が不適切な身体拘束による肺血栓塞栓症で死亡したとして,石川県内の精神科病院が提訴される(報道)


朝日新聞「不適切な身体拘束され死亡」 遺族、精神科病院を提訴」(2018年8月27日)は,次のとおり報じました.

「精神科病院に入院していた県内の大工の男性(当時40)が肺血栓塞栓(そくせん)症(エコノミークラス症候群)で死亡したのは不適切な身体拘束が原因として、男性の両親が病院を経営する社会福祉法人を相手取り、約8630万円の損害賠償を求めて27日に金沢地裁に提訴した。

 死亡したのは○○さん。訴状などによると、○○さんは25歳のころに統合失調症と診断され、2016年12月6日に入院した。同月14日から手足などの身体拘束が始まり、同月20日に自力でトイレに行った後、死亡したという。

 両親は当初、病院側から死因は心不全と説明を受けたが、司法解剖の結果、エコノミークラス症候群と判明したという。身体拘束の開始時に切迫した事情が存在していなかったなど、精神保健福祉法などが定める要件を満たしておらず、エコノミークラス症候群を発症させない注意義務も怠った、などと主張している。

 金沢市内で27日にあった記者会見で、○○さんの父○○さん(67)は「親として大事な命を守ってやれなかったことが悔しくてならない。こういうことは息子で最後にして欲しい」と話した。病院側は「まだ訴状が届いておらず、内容についてはコメントできない」としている。(浅沼愛)」


報道の件は私が担当したものではありません.(私は精神かの事件を取り扱っていません.)
医療過誤裁判では,原告に,過失,因果関係,損害の主張立証が求められます.
身体拘束を行った医療者に,患者が肺血栓塞栓症を発症することの予見可能性があったこと,回避義務があったことの立証が問題になるでしょう.
注目したいと思います.
なお,医療問題弁護団は,『精神科医療における身体拘束に関する意見書』を発表しています.
また,京都地裁平成19年11月13日判決は,平成15年当時肺血栓塞栓症を発症するとの認識を持ち得る可能性があったとまで認められないとしましたが,治療にあたって患者の人格,家族との円滑な関係に配慮を欠いたとして110万円の損害賠償を認めています.

【追記】
金沢地裁は,令和2年1月31日,原告らの請求を棄却しました.
NHK「身体拘束死亡 原告の訴え退ける」(2010年2月1日)は次のとおり報じました.

「4年前、石川県内の病院の精神科に入院した40歳の男性が、体をベッドに拘束されたあと、いわゆるエコノミークラス症候群を発症して死亡したのは必要のない身体拘束が原因だとして両親が訴えていた裁判で金沢地方裁判所は「身体拘束をした医師の判断は不合理ではない」として原告の訴えを退ける判決を言い渡しました。

4年前、石川県内の病院で大畠一也さん(当時40)が精神科に入院していたところ体をベッドに拘束され、その後エコノミークラス症候群を発症して死亡しました。
これについて、○○さんの両親が身体拘束が必要な切迫性は認められないうえエコノミークラス症候群を予防する措置をとらずに拘束を続けたとして病院側におよそ8600万円の損害賠償を求めていました。
31日の判決で金沢地方裁判所の押野純裁判長は「患者の状況から身体拘束以外に手段がないとした医師の判断は不合理ではない」と指摘しました。
その上で「拘束を外せる時には外すように指示するなど患者をしっかりと観察していた」として原告の訴えを退ける判決を言い渡しました。
判決のあと、○○さんの父親の○○さん(69)と母親の○○さん(67)が金沢市で記者会見し「いい報告するつもりだったので息子には『ごめん』としか言えない。このまま終わるのは残念でならない」と話し、控訴する考えを示しました。」


問題は,身体拘束が違法か否かではなく,肺塞栓症が予見できたか,予見できたとして回避義務違反があったか否かがポイントのように思います.

谷直樹

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by medical-law | 2018-08-28 21:33