弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

陣痛促進剤の添付文書改訂見送り

読売新聞「無痛分娩の陣痛促進剤 安全対策を盛り込む添付文書改訂が見送りに…産婦人科医が反対」(2018年8月30日)は,次のとおり報じました.

 
「無痛 分娩 の多くで使われている陣痛促進剤について、厚生労働省の有識者会議は28日、安全対策として厚労省側が提案した添付文書(薬の医師向け説明書)の改訂を見送った。参考人として出席した産婦人科医の強い反対があり、合意に至らなかった。

 無痛分娩は、麻酔をかけて痛みを弱める出産方法。産後の疲労を軽減するメリットがあり、人気が高まっている。無痛分娩が普及した米国などと違い、国内の無痛分娩は人工的に陣痛を起こす計画分娩が主流で、陣痛促進剤が使われることが多い。2017年に無痛分娩を巡る重大事故が相次いで発覚したが、厚労省研究班の報告によると、無痛分娩をした妊産婦の死亡14例のうち13例で陣痛促進剤が使われていた。

 この日、開かれたのは、厚労相の諮問機関である薬事・食品衛生審議会に設けられた安全対策調査会。薬の安全性について有識者が話し合う。 

 会議の場で、厚労省は、2015~17年度の3年間に、無痛分娩で使った陣痛促進剤による副作用の疑いが報告されたケースの調査結果を発表した。報告は29例あったが、情報不足で因果関係の評価が困難だったため、厚労省は、「現時点での新たな注意喚起に合理的な理由はない」とした。ただし、麻酔をかけた状態で陣痛促進剤を使うと、副作用で異常に強い陣痛(過強陣痛)が起きていてもわかりにくく、対応が遅れる恐れがある。そのため厚労省は、添付文書にある、過強陣痛の防止策を示した警告欄の一文を修正し、無痛分娩時にも十分な監視を促す内容の改訂案を提示した。

 これに対し、参考人として出席した研究班代表の海野信也・北里大学病院長は、「合理的な根拠がわからない」とし、今後、さらにデータを蓄積する必要性を指摘した。もう一人の参考人の石渡勇・日本産婦人科医会副会長も「無痛分娩は怖いという印象を与えかねない」などと強く反対した。委員の中には、厚労省案に賛成する声のほか、書き方の工夫で対応してはどうかという意見もあったが合意できず、改訂見送りが決まった。

 無痛分娩で使われる陣痛促進剤に対しては、出産事故の被害者らでつくる「陣痛促進剤による被害を考える会」が今年3月、慎重に使うよう添付文書の改訂を求める要望書を厚労省に提出していた。同会の出元明美代表は「医師らがしっかり監視していればよいが、そうでないケースで重大な事故が起きている。広く注意を促せるせっかくの機会が生かされず、信じられない結果だ」と話している。」


陣痛促進剤の添付文書を無痛分娩時にも十分な監視を促す内容の改訂案とのことですが,そもそも陣痛促進剤使用の有無にかかわらず無痛分娩時には十分な監視が必要です.
無痛分娩の安全策は,陣痛促進剤に絡めるのではなく,正面から無痛分娩の問題として取り組むべきと思います.
無痛分娩は,(1)血管内へのカテーテル迷入,(2)くも膜下腔への局所麻酔薬の誤投与がとくに問題で,これらを完全に防止することはできませんが,①局所麻酔薬の少量分割投与,②投与後の厳重な観察,③呼吸循環動態の安定をはかりつつ応援を呼ぶことにより重大な結果が生じることを回避できます.実際に起きた無痛分娩事故は,これらを怠ったために起きています.無痛分娩における医療過誤は,局所麻酔約薬の連続的投与を行った例,観察を怠った例,呼吸循環動態を安定させつつ応援を呼ぶことを怠った例などであり,そのために重大な結果が生じています.
陣痛促進剤の副作用というのは違うのではないか,と思います.また,陣痛促進剤によって症状が分かりにくかったというのは言い訳にすぎません.陣痛促進剤を使用していても,無痛分娩に通常求められる観察を行っていれば,(1)血管内へのカテーテル迷入,(2)くも膜下腔への局所麻酔薬の誤投与は,観察すれば分かります.

谷直樹

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by medical-law | 2018-09-05 05:02 | 無痛分娩事故