弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

三重大学医学部附属病院,インスリン過量投与について原因を分析し再発防止へ

三重大学医学部附属病院は「インスリン過量投与についてのお詫びとご報告」を発表しました.

経緯

患者さんは県内在住の1歳女児で、当院で平成30年3月に、 ある疾患に対して全身麻酔下に手術を受けられました。手術そのものの経過は順調でしたが、術後3日目から、致死的不整脈の危険性がある血中カリウム値の上昇を認めたため、グルコース・インスリン療法が開始されました。
25%ブドウ糖液200mlにインスリン製剤(ヒューマリンR)を10単位、混注・点滴する処方で計4回実施されました。
3回目終了時点までは、カリウム値は順調に低下し、全身状態も安定しておりましたが、4回目施行中に急変しました。
急変時の血液検査で著明な低血糖を認め、低血糖に起因する急変であると考えられました。その後、点滴液内のインスリン濃度を測定したところ、過量投与が判明いたしました。
4回目の点滴液には、予定量と比べて5~7倍程度過量のインスリンが誤って混注されていたと考えられます。
過量投与が判明後、患者さん・ご家族には速やかにすべてをご説明の上、謝罪いたしました。また、第3者機関である日本医療機能評価機構にも報告するとともに外部調査委員会を設置いたしました。さらに、直後から特命医療チームを結成し、組織をあげて患者さんの健康被害からの回復に取り組んでいるところであります。

原因

当院においては、インスリン製剤を他の薬液に混注するときは、ダブルチェックの上、専用の注射器を用いて行う手順となっていますが、実際には、専用注射器を用いていなかったこと、そして、ダブルチェックが十分に機能しなかったことが明らかになりました。
専用注射器は、インスリンを安全に秤量するために作られた注射器で、単位数が分かりやすく表示されています。また、当院が採用しているものは、最大容量は30単位(0.3m)であることから、本事例のように10単位(0.1ml)の秤量であっても間違いは起こりにくく、万一間違っても3倍までの過量投与に留まります。ところが、本事例では、インスリン専用の注射器ではなく、一般の薬剤の秤量等に用いる最大容量が1ml(インスリン1ml
は100単位相当)の注射器を用いて秤量していました。この注射器にはインスリンの単位の表示はなく、1mlの注射器で、0.1mlを秤量することとなります。実際に行おうとしたことは、まず、0.7ml(インスリンとして70単位相当)程度を秤量し、空気を抜きながら
0.1mlまで、インスリンを捨てるという手順でしたが、おそらく、捨てる作業を失念し、約0.7ml(70単位)すべてをブドウ糖液に混注してしまった可能性が高いと考えられます。専用注射器を用いなかった理由として、インスリン製剤のすぐ近くに専用注射器が見当たらなかったこと、1mlの注射器でも問題なく調製できると認識していたことの2点を挙げています。
さらに、インスリンはハイリスク薬であるので、調製(秤量・混注)時には厳しい手順でのダブルチェックを求めています。一般の薬剤であっても調製時は看護師2名によるダブルチェックを行いますが、調製前に2名が別のタイミングで確認することも可としています。しかし、インスリンを調製するときは、調製時にリアルタイムで同時に2名の看護師によって確認する手順となっています。本事例は調製前にはダブルチェックは行われていましたが、リアルタイムに調製時には行われていませんでした。本来2名の看護師で確認しながら行うべき、インスリンをブドウ糖液に混注するという作業を1名で 行っていたということになります。
加えて、グルコース・インスリン療法施行時における血糖測定の指示の頻度については主治医の判断に依っており、病院としての規定がなく、4回目の施行時には1日1回の血糖測定指示のみであったこと、関係したスタッフにインスリン使用時は常に低血糖のリスクがあるとの認識が希薄で、確かに典型的な低血糖の症状ではありませんでしたが、急変前後に血糖を測定していなかったことが、発見の遅れに繋がりました。

以上より、本事例の直接的な原因は、①インスリン専用注射器を用いずに秤量したこと、②調製(秤量・混注)時にリアルタイムでダブルチェックを行っていなかったこと、という明確なルール違反にあると考えますが、その背景にはインスリンはハイリスク薬であるという認識が関係した医師・看護師だけでなく病院全体で十分でなかったことにあると考えます。

再発防止への取り組み

まず、職員全体で本事例の詳細を共有し、2度と同じ事故を繰り返さないとの決意を新たに致しました。職員集会等を通して、本事例の経過を共有するとともにインスリンはハイリスク薬であり、使用時には低血糖のリスクを常に念頭に置かなければいけないことを繰り返して啓発いたしました。また、外部委員による事故調査報告書を現在、全職員で閲覧しているところです。本事例を将来に亘って風化させることなく共有し続けるための今後の職員研修のあり方についても検討を行っています。
次いで、インスリンの調製には専用注射器を用いること、調製時にリアルタイムでのダブルチェックを行うこととの手順の遵守徹底を図りました。
遵守徹底のための環境整備として、①インスリン製剤と専用注射器は病棟内の同じ場所に配置すること、②ダブルチェックを行う調製者、確認者の2人の名前を明記する専用シールを新たに作成し、インスリンが混注されている点滴バッグや注射器に貼付する、の2点につきましては、すでに施行しています。
さらに、グルコース・インスリン療法施行時の血糖測定の頻度をマニュアルに明文化するとともに、マニュアルそのものもわかりやすい内容に改訂いたしました。現在、より分かりやすいマニュアルのあり方につきまして組織全体で検討しているところであります。
既に実施されている対策の遵守状況につきましてはラウンド(病棟の巡視)等を通して継続的にモニタリングを行っております。
いま一度、被害に遭われた患者さん・ご家族にお詫びを申し上げるとともに、
患者さんの健康回復、再発防止に全力で取り組むことをお誓い申し上げます



事故は非常に残念ですが,これが医療安全につながることを期待いたします.

谷直樹

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by medical-law | 2018-09-28 18:31 | 医療事故・医療裁判