弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

大学病院でCT画像診断報告書のがん疑いを昨春見落とし,今年年明けに患者死亡(報道)

毎日新聞「「がん疑い」検査結果を見落とし、患者死亡 富山大病院」(2019年4月16日)は,次のとおり報じました.

「富山大付属病院(富山市)は16日、コンピューター断層撮影(CT)の画像診断でがんが疑われるとの結果を記載した報告書を担当医師が見落とし、患者が約1年後に死亡したと発表した。患者の氏名や病名は遺族の意向で非公表としている。林篤志病院長は「患者、遺族に多大な負担と心痛をかけ、深くおわびする」と謝罪したが、見落とした事実と死亡の因果関係については否定した。

 同病院によると、患者は数年前に病院内の泌尿器科でがんの手術を受けた。昨春の定期検診でのCT検査で、放射線科の医師が別の臓器に新たな腫瘍を発見し電子カルテに記載。泌尿器科の医師は、それを見落としたまま患者に説明した。

 患者は昨夏ごろ腹痛などの症状があり、秋に再び同病院を受診。別の進行したがんが発見され、今年に入り死亡した。林病院長は「昨春に治療を始めても完治しなかったと思うが、(見落としで)生存期間が短くなったのは否定できない」とした。【青山郁子】」


チューリップテレビ「富山大学附属病院 「腫瘍疑い」見落とし 患者死亡」」(2019年4月16日)は,次のとおり報じました.

「富山大学附属病院は16日、医師がCT検査の報告書の確認を怠り、がんの発見が遅れた患者が死亡したと発表しました。

 医師は報告書にあった「腫瘍が疑われる」との記載を見落とし、適切な手続きをとっていませんでした。

 病院によりますと、患者は数年前に富大付属病院の泌尿器科でがんの手術を受け、その後は年に1回程度、CT検査を受けていました。
 去年春の検査では、放射線科の医師が新たな腫瘍の可能性を電子カルテに記載しましたが、泌尿器科の医師が見落とし、専門の診療科に紹介するといった手続きをとりませんでした。
 患者はその後、腹痛と食欲不振に悩まされ、他の医療機関を受診しましたが症状が改善しないため、秋に富大附属病院の内科を紹介されました。
 そこで、春に行ったCT検査の報告書に腫瘍の可能性が記載されていたことが判明。
 引き続き富大附属病院で治療が行われましたが、患者は今年に入り亡くなりました。
 病院側は報告書の見落としと死亡の因果関係はないとしています。

 「見つかった時点で治療してもおそらく死亡していた。生存期間が短くなったことは否定できない」(山崎光章副院長)

 一方、重要な所見を見落とさないためのルールづくりは不十分だったとして去年、再発防止を防ぐため電子カルテのシステムを改修をしたほか、重要な所見がある場合は冒頭に記載するといったルールを定めています。」


報道の件は私が担当したものではありません.
2018年秋から治療を開始しましたが,病院は,2018年春から治療を開始しても死亡していただろうから,因果関係はない,と言いたいのでしょう.「因果関係」は「あれなければこれなし」の関係です.2018年春の見落としがなければ,2019年年明けの死亡がなかったか,が問題になります.生存期間が短くなったことは否定できないとのことですから,2018年春の見落としがなければ,2019年年明けの死亡がなかったことになります.したがって,因果関係はあります.
法律家ではない医師が「因果関係」の意味を誤解して話していると思います.
短くなった生存期間がどの程度なのか,によって損害賠償の金額が変わってきます.がんはステージごとに生存率が公表されています.2018年春の時点と2018年秋の時点でステージに差がなければ,ステージごとの生存率は使えません.その場合,転移のある進行癌患者の平均余命(月単位)から,短縮された生存期間を推定することになると思います.
さらに,損害は生存期間の短縮だけではありません.CT検査を受け「癌疑い」と報告されていながら,見落とされたことの精神的苦痛も損害です.

谷直樹

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by medical-law | 2019-04-17 02:06 | 医療事故・医療裁判