弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

開腹リンパ節生検術で傍腹部大動脈リンパ節節した際に右尿管の一部を切除した医療事故公表

宝塚市立病院は2019年5月10日以下のとおりリンパ節生検術における右尿管損事故を公表しました.


「【概要と経緯】
患者様は市内在住60歳代の男性です。
2019年1月、近くの医療機関で実施した腹部CT検査において、腹部大動脈周囲のリンパ節腫大を疑う所見が認められ、精査目的で当院消化器内科を受診されました。
2月、消化器内科にてリンパ節腫大の精査目的に超音波内視鏡下生検術※を実施しました。その結果、腫瘍であることの診断はできましたが、採取量が少なく悪性リンパ腫(血液のがんの一種)の確定診断には多くの組織が採取できる手術によるリンパ節生検術が必要となり、当院外科を受診されました。
3月5日、外科にて後腹膜リンパ節(傍腹部大動脈リンパ節)腫大の原因診断を目的に開腹リンパ節生検術を実施しました。術前から大動脈に隣接するリンパ節が腫れており、周囲臓器の損傷は生検術に関連するリスクとして患者様にも説明しておりましたが、開腹してみると術前に患者様に説明していた以上に大動脈周囲の炎症性癒着が高度であり、手術中に超音波でも確認し傍腹部大動脈リンパ節と考えられる組織を切除しました。
術後から39度以上の発熱が継続し、3月7日に至るも改善が無く、血液データ、ドレーンからの排液も含めて右尿管損傷の可能性を疑いました。同日朝の緊急CT検査にて右水腎症が分かり、午後に泌尿器科による右尿管造影検査を実施しました。その結果、生検術の操作部位で右尿管の連続性がないことが判明したため、右側背部より経皮的に右腎臓へ直接カテーテル(チューブ)を挿入し、尿を排出させる処置(右腎ろう造設術)を実施しました。リンパ節腫大に関しては、リンパ節生検術により悪性リンパ腫の確定診断に至り、血液内科による治療方針を決定しました。
右腎ろう造設術から約1ヶ月後に再度右尿管造影検査を実施し、右尿管の損傷の程度を再評価した後に、患者様に退院していただきました。現在は外来通院にて経過観察を続けながら、今後の対応策を検討されています。

※超音波内視鏡下生検術:内視鏡の先端に超音波検査装置がついており、胃・十二指腸・大腸の内腔側から観察しながら組織の一部を採取する手技

【右尿管損傷の原因】
①高度の右尿管付近の炎症と組織の肥厚があり、右尿管の同定が極めて困難な状態であったため、リンパ節生検術において右尿管を損傷したと思われます。

【再発防止策】
今回の事案について、関係者を集めて事実確認と問題点の明確化、再発防止に向けてシステム構築について検討いたしました。
①大血管の近くや尿管の近くといった他科領域にも及ぶ手術は、関連診療科と相談して手術方法を検討し、手術時点から他科医師の参加をルーチン化して連携を強化します。
②予定通りに手術が進まない時は、協議のために手術を中断したり応援医師を呼ぶ体制を確立します。 」


この件は私が担当したものではありません.
法的には,リンパ節生検術において尿管を損傷した場合,尿管の同定が極めて困難な状態であったときは,注意義務違反(過失)がないのか,という問題があります.
尿管の同定が極めて困難な状態で切除すると尿管を損傷することが予見できると思います.その結果を回避するためには,関連診療科から応援医師を呼ぶなどして尿管お同定する義務があると思います.
よく過失は結果責任ではないと言われます.それは正しいのですが,結果責任ではないからと言って過失が常にないことにはなりません.とくに医療行為によって侵襲を加える場合は,重要な組織を同定し損傷しないようにする注意義務があると思います.
○○科の医療水準ではしかたがない,ということも言われますが,転医義務が認められているように,他科の医師の応援を要請する義務もあると思います

谷直樹

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by medical-law | 2019-05-13 09:01 | 医療事故・医療裁判