弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

『きのう何食べた? 第6話』の偏見

5月10日放送のテレビドラマ『きのう何食べた? 第6話』で,司法修習生が「医療訴訟って弁護士にとって確実にお金が入るいい仕事なんですよね.」と言うと,筧史朗弁護士は,「そうやって家族を失ってやりきれない気持ちでいる人を焚きつけて弁護士がバンバン訴訟しまくった結果産科医と小児科医のなり手が減った.最近の医師不足の原因の半分は闇雲に稼ごうとする弁護士にあると俺個人としては思うよ.そんなこと言いながら俺も医療訴訟は引き受けんだけどね.1件あたりの賠償額が大きければこっちの取り分も大きいし.」と言います。

患者側弁護士に対する偏見は根強いものがあると思いました.私は,患者家族、そして医療にたずさわるすべての人の権利が実現され、患者家族、患者団体、医療にたずさわるすべての人の願いである安全なより良い医療を実現するために,医療事件を取り扱っています.

平成29年の医療訴訟の平均審理期間は24.2月で,認容率は20.5%です.
時間と労力を要し5件に1件しか勝てないのが医療訴訟です.当事務所は事務所外の弁護士との共同受任でも着手金は合計50万円(当事務所に入るのは25万円)ですから,報酬金が入らなければ時間と労力に見合いません.医療訴訟は「確実にお金が入るいい仕事」では決してありません.また,賠償額が大きなものばかりではありません.医療過誤だけを取り扱う弁護士が少ないのは,「確実にお金が入るいい仕事」ではないからです.

診療科別に医師の人数をみると,平成28年12月末日時点で,1位が内科医で60,855人(20.0%)、2位が整形外科医で21,293人(7.0%),3位が小児科医で16,937人(5.6%)です.産婦人科医は,10,854人(3,6%)です.
平成29年の地方裁判所の医事関係訴訟既済件数753件のうち,小児科は10件,産婦人科は54件です.
産科医と小児科医の減少が医療訴訟によるものとは考えにくい数字です.
また,医学部の定員によって医師の総人数が決まります.医学部の定員を絞れば医師の総人数は少なくなりますし,定員を増やせば医師の総人数は増えます.仮に医療訴訟のために医師を辞める人がいたとしてのごく少数ですので,医療訴訟の件数は医師の総人数に影響しません.
医療訴訟の多い地域に医師が多く,医療訴訟の少ない地域に医師が少ないことから,医療訴訟が医師の偏在をもたらしていないことは明らかです.
診療科における医師の偏在も,地域における医師の偏在と同様に,医療訴訟以外の影響が大きいと思います.

つまり,ドラマの筧史朗弁護士の台詞は根拠のない偏見です.残念です.

谷直樹

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by medical-law | 2019-05-14 02:28 | 医療事故・医療裁判