ハンセン病元患者家族に対する補償金の支給等に関する法律案、ハンセン病問題の解決の促進に関する法律の一部を改正する法律案可決
ハンセン病療養所入所者等に対する補償金の支給等に関する法律(平成十三年六月二十二日)(法律第六三号)
ハンセン病の患者は、これまで、偏見と差別の中で多大の苦痛と苦難を強いられてきた。我が国においては、昭和二十八年制定の「らい予防法」においても引き続きハンセン病の患者に対する隔離政策がとられ、加えて、昭和三十年代に至ってハンセン病に対するそれまでの認識の誤りが明白となったにもかかわらず、なお、依然としてハンセン病に対する誤った認識が改められることなく、隔離政策の変更も行われることなく、ハンセン病の患者であった者等にいたずらに耐え難い苦痛と苦難を継続せしめるままに経過し、ようやく「らい予防法の廃止に関する法律」が施行されたのは平成八年であった。
我らは、これらの悲惨な事実を悔悟と反省の念を込めて深刻に受け止め、深くおわびするとともに、ハンセン病の患者であった者等に対するいわれのない偏見を根絶する決意を新たにするものである。
ここに、ハンセン病の患者であった者等のいやし難い心身の傷跡の回復と今後の生活の平穏に資することを希求して、ハンセン病療養所入所者等がこれまでに被った精神的苦痛を慰謝するとともに、ハンセン病の患者であった者等の名誉の回復及び福祉の増進を図り、あわせて、死没者に対する追悼の意を表するため、この法律を制定する。
(趣旨)
第一条 この法律は、ハンセン病療養所入所者等の被った精神的苦痛を慰謝するための補償金
(以下「補償金」という。)の支給に関し必要な事項を定めるとともに、ハンセン病の患者であった者等の名誉の回復等について定めるものとする。
(定義)
第二条 この法律において、「ハンセン病療養所入所者等」とは、らい予防法の廃止に関する法律(平成八年法律第二十八号。以下「廃止法」という。)によりらい予防法(昭和二十八年法律第二百十四号)が廃止されるまでの間に、国立ハンセン病療養所(廃止法第一条の規定による廃止前のらい予防法第十一条の規定により国が設置したらい療養所をいう。)その他の厚生労働大臣が定めるハンセン病療養所(以下「国立ハンセン病療養所等」という。)に入所していた者であって、この法律の施行の日(以下「施行日」という。)において生存しているものをいう。
(補償金の支給)
第三条 国は、ハンセン病療養所入所者等に対し、その者の請求により、補償金を支給する。
(請求の期限)
第四条 補償金の支給の請求は、施行日から起算して五年以内に行わなければならない。
2 前項の期間内に補償金の支給の請求をしなかった者には、補償金を支給しない。
(補償金の額)
第五条 補償金の額は、次の各号に掲げるハンセン病療養所入所者等の区分に従い、当該各号に掲げる額とする。
一 昭和三十五年十二月三十一日までに、初めて国立ハンセン病療養所等に入所した者千四百万円
二 昭和三十六年一月一日から昭和三十九年十二月三十一日までの間に、初めて国立ハンセン病療養所等に入所した者 千二百万円
三 昭和四十年一月一日から昭和四十七年十二月三十一日までの間に、初めて国立ハンセン病療養所等に入所した者 千万円
四 昭和四十八年一月一日から平成八年三月三十一日までの間に、初めて国立ハンセン病療養所等に入所した者 八百万円
2 前項の規定にかかわらず、同項第一号から第三号までに掲げる者であって、昭和三十五年一月一日から昭和四十九年十二月三十一日までの間に国立ハンセン病療養所等から退所していたことがあるものに支給する補償金の額は、次の表の上欄に掲げるハンセン病療養所入所者等の区分及び同表の中欄に掲げる退所期間(昭和三十五年一月一日から昭和四十九年十二月三十一日までの間に国立ハンセン病療養所等から退所していた期間を合計した期間をいう。以下同じ。)に応じ、それぞれ、同表の下欄に掲げる額を同項第一号から第三号までに掲げる額から控除した額とする。
《略》
3 退所期間の計算は、退所した日の属する月の翌月から改めて入所した日の属する月の前月までの月数による。
4 昭和三十五年一月一日から昭和三十九年十二月三十一日までの間の退所期間の月数については、前項の規定により計算した退所期間の月数に二を乗じて得た月数とする。
(支払未済の補償金)
第六条 ハンセン病療養所入所者等が補償金の支給の請求をした後に死亡した場合において、その者が支給を受けるべき補償金でその支払を受けなかったものがあるときは、これをその者の配偶者(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹であって、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたもの(以下「遺族」という。)に支給し、支給すべき遺族がないときは、当該死亡した者の相続人に支給する。
2 前項の規定による補償金を受けるべき遺族の順位は、同項に規定する順序による。
3 第一項の規定による補償金を受けるべき同順位者が二人以上あるときは、その全額をその一人に支給することができるものとし、この場合において、その一人にした支給は、全員に対してしたものとみなす。
(損害賠償等がされた場合の調整)
第七条 補償金の支給を受けるべき者が同一の事由について国から国家賠償法(昭和二十二年法律第百二十五号)による損害賠償その他の損害のてん補を受けたときは、国は、その価額の限度で、補償金を支給する義務を免れる。
2 国は、補償金を支給したときは、同一の事由については、その価額の限度で、国家賠償法による損害賠償の責めを免れる。
(譲渡等の禁止)
第八条 補償金の支給を受ける権利は、譲渡し、担保に供し、又は差し押さえることができない。
(非課税)
第九条 租税その他の公課は、補償金を標準として課することができない。
(不正利得の徴収)
第十条 偽りその他不正の手段により補償金の支給を受けた者があるときは、厚生労働大臣は、国税徴収の例により、その者から、当該補償金の価額の全部又は一部を徴収することができる。
2 前項の規定による徴収金の先取特権の順位は、国税及び地方税に次ぐものとする。
(名誉の回復等)
第十一条 国は、ハンセン病の患者であった者等について、名誉の回復及び福祉の増進を図るとともに、死没者に対する追悼の意を表するために必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
2 前項の措置を講ずるに当たっては、ハンセン病の患者であった者等の意見を尊重するものとする。
(厚生労働省令への委任)
第十二条 この法律に定めるもののほか、補償金の支給の手続その他の必要な事項は、厚生労働省令で定める。
附則
この法律は、公布の日から施行する。
理由
ハンセン病の患者であった者等の置かれていた状況にかんがみ、ハンセン病療養所入所者等の精神的苦痛を慰謝するとともに、ハンセン病の患者であった者等の名誉の回復及び福祉の増進を図り、あわせて、死没者に対する追悼の意を表する必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。
本案施行に要する経費
本案施行に要する経費としては、約七百億円の見込みである。
ハンセン病問題の解決の促進に関する法律の一部を改正する法律案
第一 名誉の回復等の規定へのハンセン病の患者であった者等の家族の追加
一 前文に、ハンセン病の患者であった者等の家族についても、同様の未解決の問題が多く残されているため、「ハンセン病元患者家族に対する補償金の支給等に関する法律」を制定するとともに、これらの者が地域社会から孤立することなく、良好かつ平穏な生活を営むことができるようにするための基盤整備等を行い、偏見と差別のない社会の実現に真摯に取り組んでいかなければならない旨を追加すること。(前文関係)
二 ハンセン病の患者であった者等の家族についても、福祉の増進、名誉の回復等のための措置を講ずることにより、ハンセン病問題の解決の促進を図るため、趣旨、基本理念、国及び地方公共団体の責務、関係者の意見の反映のための措置並びに名誉の回復の規定の対象にハンセン病の患者であった者等の家族を追加すること。(第一条、第三条第一項、第四条から第六条まで及び第十八条関係)
三 何人も、ハンセン病の患者であった者等の家族に対して、ハンセン病の患者であった者等の家族であることを理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならないものとすること。(第三条第三項関係)
第二 ハンセン病の患者であった者等とその家族との間の家族関係の回復のための支援等
国及び地方公共団体は、ハンセン病の患者であった者等とその家族との間の家族関係の回復を促進すること等により、ハンセン病の患者であった者等の家族が日常生活又は社会生活を円滑に営むことができるようにするため、ハンセン病の患者であった者等及びその家族からの相談に応じ、必要な情報の提供及び助言を行う等必要な措置を講ずるものとすること。(第十七条第二項関係)
第三 国立ハンセン病療養所における医療及び介護に関する体制の充実の努力義務
国は、国立ハンセン病療養所における医療及び介護に関する体制の整備及び充実のために必要な措置を講ずるよう努めるものとすること。(第十一条第一項関係)
第四 国立ハンセン病療養所医師等の兼業に関する特例
一 国立ハンセン病療養所医師等は、所外診療を行おうとする場合において、当該所外診療を行うことが、その正規の勤務時間において、勤務しないこととなる場合又は報酬を得て、行うこととなる場合のいずれかに該当するときは、厚生労働大臣の承認を受けることができることとすること。(第十一条の二第一項関係)
二 一の承認を受けた国立ハンセン病療養所医師等が、その正規の勤務時間において、当該承認に係る所外診療を行うため勤務しない場合には、その勤務しない時間については、国家公務員法上の職務専念義務に関する規定は、適用しないこと。(第十一条の二第二項関係)
三 一の承認を受けた国立ハンセン病療養所医師等が、報酬を得て、当該承認に係る所外診療を行う場合には、国家公務員法上の内閣総理大臣及びその職員の所轄庁の長の許可を要しないこと。(第十一条の二第三項関係)
四 一の承認を受けた国立ハンセン病療養所医師等が、その正規の勤務時間において、当該承認に係る所外診療を行うため勤務しない場合には、一般職の職員の給与に関する法律の規定にかかわらず、その勤務しない一時間につき、その勤務しない一時間当たりの給与額を減額して給与を支給すること。(第十一条の二第四項関係)
第五 施行期日
この法律は、公布の日から施行すること。(附則関係)
谷直樹
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