大学病院,炭酸水素ナトリウム誤投与による急変死亡
それによると,事故の経過は次のとおりです.
「炭酸水素ナトリウム誤投与による急変死亡について京都大学医学部附属病院に入院されていた腎機能障害をもつ心不全の成人男性の患者さんに、注射薬である炭酸水素ナトリウム(造影剤を用いたCT検査による腎機能への副作用を軽減させるために処方される薬剤)を処方する際、本来投与すべき薬剤の6.7倍の濃度の同一成分製剤(商品名:メイロン)を誤って処方して投与した結果、心停止をきたしました。
蘇生処置により心拍は再開しましたが、心臓マッサージに伴う胸骨の圧迫が原因と思われる肺からの出血をきたし、その後も出血傾向が止まらず、患者さんはその6日後に死亡されるという医療事故が起こりました。」
事故調査委員会の報告によると,いくつものミスが重なっています.
第1のミスは,誤った濃度の炭酸水素ナトリウムを多量投与したことです。
第2のミス 患者の訴えにもかかわらず, 誤った濃度の炭酸水素ナトリウムが多量に投与されていることには気づかなかったことです。
第3のミスは,心臓マッサージによる肺損傷が原因と思われる出血の際,抗凝固薬を内服していることに気づくのが遅れたことです。そのため,抗凝固薬に対する中和薬を事故発生後早期に投与できなかった,とのことです。
病院長は「京大病院における治療でよくなられることを望んでおられた患者さんご本人そしてご家族には、薬剤の誤った処方による死亡という、期待を裏切るような結果になりましたことは誠に申し訳なく、心よりお詫び申し上げます。また、京大病院で治療を受けられておられる皆様にもご心配をおかけしますこと誠に申し訳なく存じます。関係者のみならず病院職員の一人ひとりが自分たちのこととして受け止め、再発防止に努めてまいります。」とのコメントを発表しました.
医療事故について,スイスチーズモデルになぞらえることがあります.いくつもの孔の開いた所を貫通するように,ミスが重なって重大な結果が生じるというものです.
緊急事態に遭遇したときは,視野を広くもち冷静に判断することが重要です.
本件も誤投与に気づけば,抗凝固薬内服に気づけば,重大な結果が生じなかったかもしれません.残念です.
本件は初歩的なミスの連続です.
本当にひどい医療事故ですが,事故後の調査委員会設置等の対応は,適切かつ誠実と思います.
なお,この件は私が担当したものではありません.
谷直樹
ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
↓