弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

無痛分娩の現在~85施設

無痛分娩の現在を知るには,まず無痛分娩関係学会団体連絡協議会: JALAのサイトをみてください.
「2019年12月11日現在、「無痛分娩施設検索」のコーナーの掲載施設数は85施設になりました。」とのことです。これ以外の施設で無痛分娩を受ける選択肢は,安全性の観点から事実上ないと言ってよいでしょう.


また,東洋経済「「無痛分娩」には一体どれだけの危険が伴うのか その産科が麻酔をしっかりとやれるかが焦点だ 」(2019年12月30日)で河合蘭氏が照井克生先生と田中基先生に聞いた記事が載っています.


◆ 照井先生のお話

「安全性が肝心だと思った照井さんは、まず、『硬膜外無痛分娩 安全に行うために』という医師向けの本を書いた。
 無痛分娩を行う医師なら知らない人はいないこの本を開くと、何度も繰り返されている言葉がある。それは「少量分割注入」という6文字である。麻酔薬は、決して、一度に全量を入れて「この硬膜外腔は本当に狭い空間で奥行きは1センチもないんです。皮膚から硬膜外腔までの深さも人さまざまで、一般的には4~5センチですが私たちの経験では2センチ少々の人から7センチくらいあった人までいました」

 もし針が硬膜を破り、それに密着したクモ膜も破いてしまったらどうなるのか。

 その場合は、麻酔薬が脊髄に直接触れるので薬が10倍くらい強力に効いてしまう。投与量が多いと脳と全身との信号のやり取りが全面的に遮断された「全脊髄くも膜下麻酔」となり、呼吸も心臓も停止する。そこで人工呼吸ができなければ妊婦が亡くなってしまう。

 「だからこそ、薬を少し入れては様子を見る『少量分割注入』は絶対に欠かせないのです。少しの量なら、くも膜下に入っても症状は軽くてすみます。ところが、この『少量分割注入』が、事故が報道されたあるクリニックでは行われていませんでした」

 劇薬・麻薬を扱うことが多い麻酔科医は、事故の防止法やトラブルシューティングをいくつもたたき込まれるが、硬膜外麻酔で最も重要な安全対策は少量分割注入だと照井さんは言い続けてきた。それをしない施設が硬膜外無痛分娩を行っていたという事実は、照井さんにとって衝撃的なことだった。」


◆ 提言後

「厚労省の研究班は、2018年、「無痛分娩の安全な提供体制の構築に関する提言」を発表して、無痛分娩実施施設に求めることを示した。

 そこでは、硬膜外痛分娩を産科医が行うなら「100例程度の経験を有することが望ましい」など一定の基準を満たすことや、麻酔科医から急変時の対応を教わる講習会に参加すべきとされた。麻酔科医が急変時に使用する医療機器や医薬品も、準備すべき物品として示された。

 ただ、始まった講習会は半日から1日程度のもの。それが対象者・目的別に4種類ある。研究班の一員だった照井さんによると、講習会は「すでに経験を積んでいる施設の危機対応能力を強化するもの」。対策は始まったばかりという印象がある。

 無痛分娩を甘く見ている施設の新規参入、提言を無視して無痛分娩を続ける施設をなくす方策は、まだ見えてこない。照井さんによると、アメリカでは、病院が医療行為と専門医制度を連動させた「プリビレッジ(権限)」という規定を設けて、医師が不勉強なまま新しい技術に手を出すことはできないようにしている。日本は、もっぱら医師個人の良心にゆだねた形だ。

 ただ、研究班は、医師が麻酔を行う医師としてふさわしいかどうかを、産む人が判断できる仕組みを作った。関連の学会・団体の手により、無痛分娩施設の情報を公開するウェブサイトが一般に公開された。「無痛分娩関係学会・団体連絡協議会(JALA; Japanese Association for Labor Analgesia)」のホームページにある「全国無痛分娩施設検索」を見ると、無痛分娩の件数、麻酔をかける医師の情報などが施設ごとに掲載されている。はいけないという意味だ。」


◆ 田中先生のお話

「麻酔担当医」の欄は、こう読む


一般人にはなじみのない言葉が並んでいるので、名古屋市立大学病院無痛分娩センター長の田中基さんにこのページの解説をしてもらった。
無痛分娩施設の情報公開ページを開き、基本ポイントを説明してくれた田中さん(筆者撮影)

「まず、このぺージに診療内容の情報を公開しているかどうかが、ひとつの目安です」と田中さん。厚労省研究班は情報を公開すべきだとしたが、実際に掲載されている施設の数は限られている。「載っていない施設は準備中なのかもしれませんが、もしかしたら、あまり公表したくない状況なのかもしれません」

情報が公開されていたら、まず見てほしいのは「麻酔担当医」の欄だという。

「『日本麻酔科学会認定麻酔科専門医』は日本麻酔科学会の試験に合格したいわゆる「麻酔科医」で、麻酔担当医としていちばん安心な資格だと考えられます。その次は『麻酔科標榜医』でしょう。これは厚労省の認定資格で、産科の先生でも麻酔科専門医の下で2年以上研修したら申請できます」

麻酔科専門医、麻酔科標榜医を持つ医師がいなかったら、講習会の受講歴が目安になる。ただ田中さんは、個人的には「産科の先生が無痛分娩を行うなら、麻酔科標榜医を取得してほしい」と考えていた。それは、やはり、呼吸や心臓が止まってしまったときの対応力が大きく変わるからだ。

「無痛分娩の麻酔は、硬膜外麻酔の注射テクニックだけではありません。産後まで続く観察やトラブルシューティングのすべてが麻酔であって、それは麻酔科診療の総合的なトレーニングのうえに成り立っているものです」




谷直樹

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by medical-law | 2019-12-31 13:26 | 無痛分娩事故