弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

医療安全情報「画像診断報告書の確認不足」と厚労省通知「画像診断報告書等の確認不足に対する医療安全対策の取組について」

公益財団法人日本医療機能評価機構医療事故防止事業部は,医療事故報告を分析し,月に1回医療安全情報をだしています.
医療安全情報に注意し,自院で事故が起きていなくても,起きうる事故については,対策をとることが必要と思います.

1 医療安全情報No.63
医療安全情報No.63(2012年2月)「画像診断報告書の確認不足」では,2008年1月1日~2011年 1 2 月31日お集計期間で3件の医療事故が報告されていました.
「画像検査を行った際、画像診断報告書を確認しなかったため、想定していなかった診断に気付かず、治療の遅れを生じた可能性のある事例が報告されています。と注意を喚起していました.

事例が発生した医療機関の取り組みは,次のとおりでした.
・主治医は、放射線科専門医の画像診断報告書を確認後、患者に画像検査の結果を説明する。
・放射線科専門医は、読影で検査の主目的以外の重大な所見を発見した場合、依頼した医師に注意喚起する。

総合評価部会の意見は,次のとおりでした.
・入院(特に退院直前)、外来を問わず、画像診断報告書が確認できる仕組みを医療機関内で構築する。

2 医療安全情報No.138
医療安全情報No.138 (2018年5月)「画像診断報告書の確認不足(第2報)」では,2015年1月1日~2018年3月31日の集計で37件の医療事故が報告されていました.
「画像を確認した後、画像診断報告書を確認しなかったため、検査目的以外の所見に気付かず、治療が遅れた事例が報告されています。」と注意を喚起していました.

事例が発生した医療機関の取り組みは,次のとおりでした.
・画像診断報告書を確認してから患者に説明する。
・画像診断報告書が未読の場合に気付ける仕組みを構築する。

総合評価部会の意見は,次のとおりでした.
・「画像検査~画像診断報告書の確認~患者への説明」の流れを整理し、業務工程を確立しましょう。

3 厚生労働省の通知
厚生労働省医政局総務課医療安全推進室は,令和元年12月11日,通知「画像診断報告書等の確認不足に対する医療安全対策の取組について」を発しました.
その内容は,次のとおりです.

「医療機関における画像診断報告書等の確認不足を防止するため、これまで、画像診断報告書等の確認不足に関する医療安全対策について」(平成29年11月10日付け医政局総務課医療安全推進室事務連絡)及び「画像診断報告書等の確認不足に関する医療安全対策について(再周知のお願い)」(平成30年6月14日付け医政局総務課医療安全推進室事務連絡)により注意喚起を図ってきたところです。
 しかし、その後も公益財団法人日本医療機能評価機構が実施する医療事故情報収集等事業において同種の事案報告が続いており、一般社団法人日本医療安全調査機構においても平成31年4月に医療事故の再発防止に向けた提言第8号「救急医療における画像診断に係る死亡事例の分析」が公表されました。
 こうした状況を踏まえ、今般、平成30年度厚生労働科学研究費補助金(地域医療基盤開発推進研究事業)による「医療安全に資する病院情報システムの機能を普及させるための施策に関する研究」において取りまとめられた研究報告書(別添1)より、今後、画像診断報告書等に記載された重要所見の見逃しを防止するために留意して頂きたい組織的な対応について、下記のとおり整理しました。なお、この組織的な対応については日本学術会議臨床医学委員会放射線・臨床検査分科会から令和元年9月に公表された「CT検査による画像診断情報の活用に向けた提言」(別添2)においても言及されております。また、医療機関において工夫されている取組についても、あわせて情報提供いたします。
 つきましては、貴管下の医療機関、関係団体等に周知いただくようお願いいたします。
                記

・ 報告書に記載された緊急度の高い所見や重要所見を受けて必要な対応がとられるためには、組織的な伝達体制や確認体制を構築することが推奨される。
・ 具体的には、診断結果の説明を担当する医師が重要所見を認知しやすくするための通知方法の工夫や報告書の未読・既読の管理、更には、その後適切に対応されたかを組織的に確認できる仕組みが構築されることが望ましい。


(参考)医療機関において工夫されている取組の紹介
・ 画像読影医が緊急度の高い所見を指摘した場合、検査依頼医に電話するとともに、報告書を検査依頼医が所属する診療科の責任者に送付する。
・ 患者自らが結果をいつ聞くことができるかを主治医に確認するように促す等、患者の参画を図る。
・ 画像診断や病理診断を専ら担当する医師が診断を行った場合、その診断結果が確実に患者へ伝わるよう、説明を担当する医師はその結果を丁寧にわかりやすく患者に説明し、その旨を診療録に記載する。


医師に画像診断報告書を見る,確認する,という注意義務があることは明らかで,それをしない医師に注意義務違反(過失)があることも明らかです.しかし,現実にそのような医師がいる以上,医療機関としての対策が必要です.
医療機関において,画像診断報告書の確認不足による医療事故が起きないようにシステムとして実効的な対策がとられることを強く願います.

谷直樹

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by medical-law | 2020-01-18 04:31 | 医療事故・医療裁判