弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

「新型コロナウイルス感染症」を診断することの意味

政府のPCR検査の制度設計は,新型コロナウイルス感染症患者の接触歴か渡航歴がない場合でも,重症であれば検査を行う,というものです.
その「重症」の程度ですが,集中治療室に収容し人工呼吸器による管理が必要な患者には限定されていません.肺炎が疑われる程度であれば,十分「重症」と判断されるはずです.
肺炎が疑われれば入院が必要であり,入院先を決めるためには,新型コロナウイルス感染の有無を判断する必要があるからです.

〈1〉風邪の症状や37・5度以上の発熱が4日以上続く〈2〉強いだるさや息苦しさがある――のどちらかに当てはまる人が「新型コロナウイルスに関する帰国者・接触者相談センター」に電話し,運良く電話がつなかった場合,同センターは,何らかの要件を充たす人には新型コロナ外来受診を指示し,要件を充たさない人には自宅療養継続を指示します.この線引きの要件は明らかにされていません.(同センターへの電話がつながらない,新型コロナ外来受診指示の要件が不明確などの事態は,直接病院を受診する発熱患者をふやし,医療現場の混乱を招きます。また,4日間の受診抑制のため,インフルエンザ患者に対する発症48時間以内の抗インフルエンザ薬投与は不可能となっています.)
そして,高いハードルを超えて,新型コロナ外来を受診して,胸部CT検査,胸部レントゲン検査で異常が認められ,CRP・白血球数上昇が認められると,医師から重症と判断されPCR検査を指示されます.PCR検査を指示された人は,PCR検査を受けることができるはずでした.

ところが,医師が検査必要と判断しても保健所が検査を断っている,と報道されています.
PCR検査を指示された人がPCR検査を受けられないということは,制度設計が破綻したことを意味します.(4日間の自宅療養という制度設計は,適切な時期に鑑別診断を行い,感染拡大を防止し,治療を行うという,という通常の考え方に反していますが,その設計は重症者にPCR検査を行うためだったはずです.)

もし,その患者が一般病院に入院すると,もし新型コロナウイルス感染者であった場合,院内感染を引き起こしかねません.これは由々しきことです.そこで,本来入院が必要な患者にやむなく自宅療養が指示されることになると,(新型コロナウイルス感染者であってもなくても)十分な治療が受けられず,病態が悪化することにもなりかねません.

PCR検査可能件数は1日3800件と発表されていたのですが,その後の報告によると1日約900件程度しか実施されていません.
重症度をあまりに厳格に解釈しすぎて対象者を絞り込みすぎたのでなければ,どちらかの件数が誤りでしょう.
厚生労働大臣が「幅広い医療機関で検査が受けられるよう来週中にも公的保険の適用対象とする」という方向を示唆したことからすると,現状の検査可能件数が低すぎるのでしょう.

PCR検査が受けられないために,本来入院が必要な患者にやむなく自宅療養を指示され,十分な治療が受けられず,病態が悪化することは避ける必要があります.

谷直樹

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by medical-law | 2020-02-28 07:11 | 医療