弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

《雪月花》

《雪月花》(宮内庁三の丸尚蔵館所蔵)は,上村松園氏の昭和12年の作品です.
貞明皇太后陛下(大正天皇の皇后陛下)から依頼を受け、「つい御下命作に筆を染めかねては、一日が一月になり、一月が一年になり、二年三年五年七年と、思わぬうちに歳月が流れさり」(「青眉抄・青眉抄拾遺」),20年たち、集中して仕上げた作品です.


「私は、いつまでもこれではならぬと考えまして、この春になりましてから、断然発奮いたしまして、ぜひ今度こそはと思い定め、あらゆる画の関係を断ち、一意専念に御下命画の「雪月花」完成に精進いたしたわけでした。

 私は毎朝五時には起床いたしまして、すぐ身を浄め、画室の障子をからっと明け放します。午前五時といいますと、夜色がやっと明け放れまして早晨の爽気が漂うております。鳥の声が近く聞こえますが、虫などの類いはまだ出てまいりません。そして約三十分間障子を明け放したままにしておきまして、それからぴたりと締めてしまいます。そう致しますと、絶対に外面から虫も塵気も侵して来ませんから、画室内は清浄を保つことができます。

 こうして私は、外の俗塵とは絶縁して、毎日朝から夕景まで、専心専念、御下命画の筆を執りました。画室内には一ぴきの蝿も蚊も飛ばず、絵の具皿の上には一点の塵もとどめませんのみならず、精神も清らかで、一点心を遮る何物もありません。こうして私は「雪月花」をやっと完成いたすことができました。

 まことにこの「雪月花図」こそは、乏しい私の一代の画業中に、一つの頂点を作り出した努力作であることを、断言いたし得るのを幸いに思います。」(「青眉抄・青眉抄拾遺」)


松園氏自身がかく述べているとおり,間違いなく氏の最高傑作の1つです.

王朝の優美な物語の世界を表現するために余計なものは1つも描かれていません.
1本のめしべと多数のおしべまで非常に精密にすべてが的確に描かれています.
御簾の細い線まで描き込んでいます.
雪は『枕草子』の雪,月は『源氏物語』を題材にしています.
花は『伊勢物語』ではなかろうか,と言われています.
『伊勢物語』には「散ればこそいとど桜はめでたけれ 憂き世になにか 久しかるべき」の歌があります.

もっとも,松園氏は「京の花は、どこもかしこも俗了でいけません。嵐山も円山もわるいことはないのですが、何しろ大そうな人出でワイワイいっておりますから、ほんとうの花の趣きを味わいかねます。」と言って,西行法師ゆかりの勝持寺(花の寺)を好んでいました.
「少し上り気味の坂にかかると、両側の松や雑木の間から、枝をひろげて、ハミ出ている桜が、登ってゆく人の頭の上にのしかかって咲いております、それはとても見事な美しさでした。山門をはいってずっと奥にゆきますと、鐘楼があって、そこにまた格好のいい見事な枝垂桜があります。向うから坊さんが一人、ひょろりと出てくるといったような風情は、なんともいえない幽静な趣きでした。」(「青眉抄・青眉抄拾遺」)と述べていました.

今日4月23日は上村松園氏の誕生日です.

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓
にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ


by medical-law | 2020-04-23 03:05 | 趣味