弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

関東弁護士会連合会,学生支援緊急給付金について,留学生に対する支給要件を公平なものに改めるとともに,支援対象者や対象機関を拡大することを求める理事長声明

関東弁護士会連合会は,2020年6月4日,以下の「学生支援緊急給付金について,留学生に対する支給要件を公平なものに改めるとともに,支援対象者や対象機関を拡大することを求める理事長声明」を発表しました.

「2020年5月19日,文部科学省(以下「文科省」という。)は,新型コロナウイルス感染拡大の影響で経済的に困窮する大学生等を対象として,「学びの継続」のための『学生支援緊急給付金』(以下「給付金」という。)の創設を発表した。
 給付金「申請の手引き」(以下「手引き」という。)及び「Q&A」によれば,「支給対象者の要件」(以下「支給要件」という。)として,新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い経済的に困窮していることを示す要件①~⑤のほか,「既存の支援制度を活用していること」との要件⑥が設けられており,留学生の場合には要件⑥に代えて「学業成績が優秀な者であること」等の要件⑦が設けられている。
 また,手引きによれば,給付金の対象機関は,国内の大学,短期大学,高等専門学校,専門学校及び日本語教育機関とされている。

1 支援対象者を拡大すべきである
 まず,支給要件⑥は,「既存の支援制度を活用していること」として,高等教育の修学支援新制度,又は第一種奨学金(無利子奨学金)の利用者であることを要件とする。そして,これらの支援制度を利用できるのは,日本人学生のほか,特別永住者や「永住者」,「定住者」等の在留資格を有する学生に限られている。すなわち,「家族滞在」や「外交」「公用」の在留資格を有する学生は要件を充たせないこととなる。
 そもそも,経済的に困窮する大学生等に「学びの継続」の機会を保障するとの給付金の趣旨からすれば,支給要件①~⑤以外は不要であるはずである。また,日本が加盟している子どもの権利条約,社会権規約,人種差別撤廃条約は,日本に住むすべての子どもたちに国籍,民族などで差別することなく等しく学ぶ権利を保障することを求めている。
 したがって,支給要件⑥は撤廃するか,少なくとも「家族滞在」や「外交」「公用」の在留資格を有する学生が給付金を受け得るよう要件を改めるべきである。

2 留学生に対する支給要件は公平を欠く
 次に,支給要件⑥と⑦とを比較すると,以下の通りの不均衡がある。
 例えば,支給要件⑥の予定する高等教育の修学支援新制度においても「学業などに係る要件」は存するが,採用時に「在学する大学等における学業成績について,GPA(平均成績)等が上位1/2以上であること」等を要件とするものであり,また,「出席率が5割以下など学修意欲が著しく低いと大学等が判断した場合」等でなければ打切りの対象とはならない。さらに,「学修計画書の提出を求め,学修の意欲や目的,将来の人生設計等が確認できること」等の学業成績以外の要件を充足することによることも予定されている。
 他方で,支給要件⑦では,「前年度の成績評価係数が2.30以上であること」(報道によれば成績上位25~30%程度に当たる。),「1か月の出席率が8割以上であること」等とされており,支給要件⑥と比して,学業成績の要求水準は高く,また,学業成績以外の要件で代替する支給要件は設けられていない。
  この点について,「Q&A」は,支給要件⑦を考慮した上で大学等が特に必要と認める者は対象とすることにしているから,成績上位3割のみを対象とするものではないと説明する。
 しかし,大学等が,設置認可の権限を有する所轄庁である文科省が定める要件を充足しない留学生等に対して給付金を支給することは困難である。
 また,報道によれば,文科省は,支給要件⑦を設けた理由について,当初,「日本に将来貢献するような有為な人材に限る要件を定めた」と説明しており,これは支給要件⑦において学業成績以外で代替する要件が設けられていないことからも,国籍差別を容認する意図のもとにこの支給要件が定められているといわざるを得ない。
 日本政府が2008年に「留学生30万人計画」を掲げて多数の留学生を受け入れる政策をとってきた経緯に鑑みても,自己の責任によらずに学修が困難になった者に対する救済は国籍や在留資格に関わらず等しく行うべきである。
 したがって,留学生に対する支給要件⑦は,日本人学生等に対する支給要件⑥と同じく撤廃するか,これと同じく学業成績以外の代替要件を定める等公平なものに改めるべきである。

3 対象機関を拡大すべきである
 さらに,手引きによれば,給付金の対象機関は,国内の大学,短期大学,高等専門学校,専門学校及び日本語教育機関とされている。
 しかし,新型コロナウイルス感染拡大の影響で経済的に困窮しているのは,上記機関の学生に限られず,朝鮮大学校等の各種学校や外国大学日本校等の学生も同様である。
 前述の国際人権諸条約の観点からも,朝鮮大学校等の各種学校や外国大学日本校等の学生も給付金の対象者に加えるべきである。」



また,東京弁護士会は,2020年6月11日,以下の「学生支援緊急給付金に関する会長声明」を発表しました.

「政府は、2020年5月19日、新型コロナウイルス感染症拡大により世帯収入、アルバイト収入等が激減し、経済的困窮に陥った学生等に対し、「学びの継続」のための『学生支援緊急給付金』を創設することを閣議決定した。
本給付金は、経済的に困窮し、大学等の学費を支払えず、中退せざるを得ない学生などを救済し、教育を受ける権利を保障するための措置として、ぜひとも実施が必要なものであり、本給付金の創設、実施は、本会も積極的かつスピーディに推し進めるべきものと考える。
しかし、本給付金制度には、次の2点で、合理的理由のない差別的制度が設けられている。

第一に、外国人留学生にのみ、「成績優秀者」の条件が課せられている点である。
留学生に対する給付金要件を加重した理由として、文部科学省は、「いずれ母国に帰る留学生が多い中、日本に将来貢献するような有為な人材に限る要件を定めた」と説明したと報道されている(2020年5月20日共同通信)。
しかしながら、新型コロナウイルス感染症拡大により、アルバイト等の収入源が途絶えるなどして、経済的に困窮しているという事情は、外国人留学生であっても、非留学生であっても異ならず、文部科学省の説明は、制度趣旨に反する。
また、政府は、2008年、「留学生30万人計画」を打ち出し、「国際貢献」を掲げて外国人留学生を積極的に受け入れる政策を実施し、その結果、外国人留学生の人数は2008年から倍増し、2019年5月1日現在、31万2214人に上っているのである(2020年4月22日文部科学省発表)。
それにも関わらず、いざ経済的困難に陥ったときに、同じ学生であるのに留学生にのみ過重な要件を課すのでは、「国際貢献」どころか利用主義にほかならず、留学生送り出し国を含む国際社会の信頼を失う。

第二に、本給付金の対象から、朝鮮大学校を対象外とした点である。
文部科学省の2020年5月19日の発表時点では、対象を大学・大学院、専修学校及び日本語学校としたため、各種学校である朝鮮大学校のほかに、外国大学の日本校6校も対象外となっていた。
その後、文部科学省は市民団体等から指摘を受け、上記外国大学日本校6校については、各種学校認可も受けていないテンプル大学日本校を含め、対象に含める旨変更したが、未だ朝鮮大学校1校のみ、対象外となったままである。
しかし、朝鮮大学校の学生も、新型コロナウイルス感染症拡大により、アルバイト等の収入源が途絶えるなどして、経済的に困窮しているという事情に変わりはなく、文部科学省による取扱いの差異に合理的理由はない。
2020年5月29日、特定非営利活動法人移住者と連帯する全国ネットワーク、外国人人権法連絡会などの市民団体が、文部科学省と交渉を行い、5万5000通を超えるネット署名を提出し、上記差別的取扱いの是正を要求した。これに対し文部科学省は、朝鮮大学校は各種学校であり、高等教育機関であることの担保がないと説明した。
しかし、1998年、京都大学が朝鮮大学校卒業生の大学院受験を認め、合格したことを契機に、文部科学省は1999年8月、学校教育法施行規則を改正し、大学院入学資格を拡充した。その結果、入学資格がなかった朝鮮大学校も外国大学日本校も入学資格が認められることになった。また、2012年には、社会福祉士及び介護福祉士法施行規則が改正され、「各種学校(大学入学資格を有するものであって、修学年限4年以上のものに限る)を卒業した者」が加えられ、専修学校に加え、朝鮮大学校卒業生も、試験を受験できるようになった。
このように、朝鮮大学校を日本の高等教育機関として認めた法制度がすでに存在し、同校が日本の高等教育機関であることの担保は十分になされているが、文部科学省の説明は、これらの事実を無視している。

これら留学生に対する要件加重、朝鮮大学校の排除は、憲法第14条(平等権)、並びに日本が締約国となっている人種差別撤廃条約、自由権規約及び社会権規約に反するものである。
たとえば人種差別撤廃条約第2条Cは、「各締約国は・・・人種差別を生じさせ又は永続化させる効果を有するいかなる法令も改正し、廃止し又は無効にするための効果的な措置をとる」義務を定めているが、今回の差別的設計は、まさに新たに人種差別を生じさせる法令といえる。
また、新型コロナ対策に関する国連人権高等弁務官事務所のガイダンスで、救済にあたり「誰ひとり取り残さない」ことを原則とし、「排除されるおそれがあるかもしれない人々(マイノリティ、移住者など)に対し特段の配慮が必要」と指摘していることと、真っ向から逆行する。
以上により、当会は、文部科学省に対し、ただちに本制度における差別是正を求めるものである。」



さらに,朝日新聞「京大総長、学生給付金を批判 「留学生差別、おかしい」」(2020年6月14日)は,次のとおり報じました.

「新型コロナウイルスの影響で困窮する学生を対象にした国の「学生支援緊急給付金」が、外国人留学生だけ成績の良さを申請要件にしている問題で、京都大の山極寿一(じゅいち)総長(68)が9日、朝日新聞のインタビューに応じた。要件を「差別的だ」と批判した上で、留学生を排除しない姿勢を取ることが「日本が国際社会をリードしていく一番大きな力になる」と訴えた。

 同給付金を外国人留学生が申請する場合、「成績が優秀」「出席率が8割以上」といった日本人学生にはない要件を満たす必要がある。批判の声が出ており、山極氏はネット上の反対署名運動の呼びかけ人の一人にもなった。

 インタビューで山極氏は「(同給付金は)生活困窮者への支援だ。成績を重んじる奨学金とは目的が違う」と述べ、成績要件を批判。「日本人学生の要件は基本的に経済的な事情だけ。留学生も、経済事情が逼迫(ひっぱく)している人に支給するのが本筋だ」と指摘した。

 留学生に対する日本政府の方針について、「日本も少子高齢化でだんだん労働者人口が減っていく。外国の優秀な学生を頼らなければいけなくなる時代が目の前に来ている」「優秀な留学生を集めるには、日本の学生と留学生を差別しないという態度が一番、魅力的だ」と述べ、「差別するのはおかしい」と批判した。

 留学生の自主性を尊重することの重要さも強調。「(在学中の数年間に)どう教育を得るかは、学生が自分でスケジュールを立てるべきだ」とし、文部科学省が前年度の成績を申請要件にしたことに疑問を呈した。

 国立大の総長が国の仕組みに反対する運動に加わった理由については、「だいたいいつも、教員の立場に立っている」として、「現場の教員が『留学生と日本人を、我々は差別したくない』という声を上げることが大事だ。直接留学生と向き合う現場の教員が出すメッセージは強い」と話した。

 山極氏は、野生ゴリラ研究の第一人者として知られる。「私は、アフリカ赤道直下の『ゴリラの学校』に留学した」と自らの経験を紹介。「(ゴリラは)決して排除することなく私に接してくれた。それはゴリラの社会を知る上で大変に役立った。現場に行って、いろんな人と付き合って、様々な知識を学ぶのが留学の良さだから」とも述べ、留学生を排除せず、多くの人を受け入れる姿勢が大事だと訴えた。

 京都市立芸術大も同様の方針を示していることについても触れ、「個性を開花させる芸術家養成の大学であることを考えれば、そういう認識を持ったのはごく当然と思う」とも発言。「京都は文化や芸術に特化する大学が多い。留学生も多く、国際感覚を持った大学や教員も多いのではないか」との考えを示した。

 この問題をめぐり、要件に反対する大学教員らがネット上で賛同署名を呼びかけたところ、10日午前0時の締め切りまでに1701筆が集まった。うち大学教員は1100人を超えた。署名は5月26日から集め、呼びかけ人には京都大の山極氏ら約40人が名を連ねた。15日にも文部科学省に結果を届ける。(小林正典)」


問題の重大性に比べて世論の盛り上がりがまだ足りないように思います.

谷直樹

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by medical-law | 2020-06-15 13:40 | 人権