弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

大学病院,生後4カ月の男児が病棟から手術室に移動した後心室細動がおき死亡した事故の調査結果を公表(報道)

弘前大学医学部附属病院は,2020年6月0日,下記の医療事故を公表しました.同病院のサイトに詳細な経過が掲載されています.

「1 事故の概要
当院に入院されていた単心室・単心房・共通房室弁・肺動脈狭窄等の重症心疾患及び気管軟化症を有する気管挿管中の患児について、ペースメーカー埋め込み術を実施するため、気管挿管状態でバキング(バックバルブマスクを利用して空気を送る方法)による呼吸補助のもと、病棟から手術室へ移動し、手術室へ入室後、麻酔が開始されました。しかし、間もなく心室細動となり、心臓マッサージを行いながら気管チューブを確認したところ、食道挿管となっていることが判明したため、予定されていた手術を実施せずに気管チューブの入れ替え等の医療措置を行いましたが、心機能が回復しなかったため、補助人工装置を装着し、ICUへ入室の上で厳重に管理を行ったものの、逝去されるに至りました。

2 事故の背景
今回の事故は、気管軟化症に対する気管切開術が行われていない状況であったことから気管トラブルを起こしやすい状態であり、気管軟化症の重症度及び気道トラブルを起こしやすいことについて関連診療科間での情報共有が十分ではなかったことが主たる背景要因の一つとしてあげられました。これに加えて、病棟から手術室への移動距離が長く、廊下とエレベーターの段差があること、移動用ベッドから手術台への移乗を要することから、移動中や移乗の際に気管チューブのトラブルが生ずる可能性があるなか、医療スタッフが気管チューブのトラブルの可能性に関する十分な認識を有していなかったことなども背景要因として考えられました。

3 改善策
本事例については、病院長に報告を行い、外部委員を含む事故調査委員会を開催し、上記のような事故発生要因を調査するとともに、同委員会の検討結果を踏まえ、改善策として、1)重症心疾患患児の手術においては関係診療科間の情報共有を密にするため、手術前に多職種カンファレンスを行うこと、2)気管挿管されている患児の場合、移動中・移乗の際に気管チューブが抜管するなどの気道トラブルが起こりやすいという認識を常に持ち、移動中の気道確保の確認及び万が一気道トラブルが発生した場合への備えを十分に行うこと、3)重症心疾患患児の手術の場合、手術室へ入室してからバイタルサインを確認する専用のスタッフを配置することを決定いたしました。

4 病院長の見解
このたびの事故により、亡くなられたお子様に対して衷心よりご冥福をお祈り申し上げます。また、大切なお子様を亡くされたご家族の皆様に対して心よりお悔やみ申し上げますとともにご心労をおかけしてしまったことを深くお詫び申し上げます。
弘前大学医学部附属病院の医療従事者一同、このたびのことを真摯に受け止め、医療の質の更なる改善を図るため、たゆまず努力して参ります。」


上記医療事故は,私が担当したものではありません.
気管軟化症に対する気管切開術が行われていなかったことから気管トラブルを起こしやすい状態であったこと,病棟から手術室への移動距離が長く、廊下とエレベーターの段差があること、移動用ベッドから手術台への移乗を要することがありながら,医療スタッフが移動中にチューブがずれて食道に入るなどのトラブルの可能性を予見しなかったことが事故原因のようです.
大学病院での医療スタッフ間の情報共有は以前から言われている課題です.

谷直樹

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by medical-law | 2020-06-16 23:38 | 医療事故・医療裁判