東京高裁令和2年7月28日判決,ゼリー食に変更されていた女性にドーナツを配った事案で窒息の予見可能性なしとの理由で逆転無罪判決(報道)
東京高裁判決も,女性の死因は脳梗塞ではなくドーナツによる窒息と認定したようです.
東京高裁判決は,女性には嚥下障害がなかったことから,被告人がドーナツによって窒息することは予見することはできないと認定し。刑法上の注意義務を否定したことが無罪判決の理由のようです.
原審判決は,約1週間前に窒息防止などのため女性の間食をゼリー状のものに変更していたことなどから間食の形態を確認して事故を防止すべき義務があったとしましたが,東京高裁判決はこれを否定したようです.
ゼリーに変えたのが嘔吐を理由とするものであったとの主張もあったようで,高裁判決の事実認定は原判決とは異なるのかもしれません.
もっとも,嚥下障害の多い脳外科・神経内科・呼吸器科病棟ではむしろ窒息事故は少ない,との報告もあります.体調が良くない人は嚥下障害の有無にかかわらずハイリスクです.
ドーナツはパン同様にパサついていて,唾液が付着すると窒息しやすくなるハイリスク食品のように思います.
ドーナツを提供された女性は85歳でした.油っこいドーナツより高齢者が好むおやつは数多くあるように思います.水分のあるゼリーや果物のほうがローリスクで高齢者の嗜好にもあい,喜ばれると思います.また,おやつには飲み物が必須でしょう.
嚥下障害の有無にかかわらず,基本的に高齢者が集まっている介護施設においては窒息リスクの高い食品を提供しないようにするほうが望ましいように思います.
事故は,ドーナツを配った個人の責任というより,もし管理者が嚥下障害が表面化しないかぎりドーナツを提供するという方針をとっていたとすれば,その管理者に問題があるのかもしれません.ゼリーに変更されていたことを知り得ない准看護師におやつを配布させたことも問題かもしれません.
報道されている以上の事実は知りませんし,民事事件より刑事事件の注意義務認定のハードルが高いのもわかりますので,判例雑誌に判決文が掲載されたら読ませていただきたいと思います.
谷直樹
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