弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

入院患者への虐待を繰り返していたとして看護師ら6人が逮捕・起訴された病院に対し,精神保健福祉法に定められた事項を守っていなかったとして改善命令(報道)

NHK「患者虐待 ○○病院に改善命令」(2020年8月17日)は次のとおり報じました. 

「看護師による入院患者への虐待事件が起きた○○市の○○科病院で、患者を隔離する際に法律に定められた事項を守っていなかったケースが相次いでいたことが新たにわかり、○○市は17日、病院に対し、法律に基づく改善命令を行いました。

入院患者への虐待を繰り返していたとして看護師ら6人が逮捕・起訴された○○市○区の○○科病院「○○病院」をめぐって、○○市は、立ち入り調査や職員への聞き取りなどを行い、実態解明を進めてきました。
その結果、虐待行為以外にも、患者を保護室などに入れる「隔離」を行う際に、精神保健福祉法に定められた事項を守っていなかったケースが相次いで見つかったということです。
具体的には、医師による診断を行わず、看護師の判断だけで隔離することが常態化していたほか、1つの部屋に複数の患者を入れていたこともあったということです。
このため○○市は17日、病院に対し、法律に基づく改善命令を出し、今月中に「改善計画」を提出するよう求めました。
○○市の○○健康局長は記者会見で、「虐待や不適切な隔離そのものも問題だが、上司に相談しても病院管理者に届けられなかったことが事件を大きくした。早急に再発防止策を策定するよう求めたい」と述べました。

【○○病院コメント】
○○市の改善命令を受けて、○○病院は「多くの患者を預かる病院として、今般の命令を重く受け止めています。今後は違反事項の再発防止はもちろん、医療安全体制をさらに構築し、患者と社会からの信頼回復に向けて全力で取り組んで行く所存です」とするコメントを出しました。」


市は,そのサイトに以下のとおり「精神保健福祉法に基づく精神科病院への改善命令に」を掲載しました.

「令和2年3月に、○○科病院に勤務する看護職員6名が、入院患者に対する準強制わいせつ、暴行行為等処罰に関する法律違反、監禁容疑で逮捕された事件をうけ、○○市では精神保健及び精神障害者の福祉に関する法律(以下「法」)に基づく臨時の実地指導(立ち入り調査)を行い、暴行やその他の不適切行為等について調査を行いました。
本日、それらの調査結果を踏まえ、当該病院の管理者に対し、改善命令を行いました。

1.○○科病院

(1)病院名:○○会・○○病院

(2)所在地:○○市○○区○○町○○-○○

2.改善命令の内容及び具体的対策(概要)

(1)管理者が責任をもって、風通しのよい組織風土を醸成し、患者の人権に配慮した適正な処遇の確保及び処遇の改善のために必要な措置を講ずること。
不適切行為が疑われる事案が発生した場合には、速やかに○○市(保健所保健課)に報告すること。
病院職員や患者が不適切行為を発見した場合、○○市(保健所保健課)に速やかに通報できるよう、その通報先を院内に掲示するとともに、すべての職員に周知すること。(公益通報制度)
不適切行為を発見したり、疑いを持った職員が、上司や同僚に報告・相談し、速やかに管理者へ情報が伝わる制度を設けること。

(2)看護職員による入院患者への暴力など、患者の人権を侵害する著しく不適切な行為が院内で発生したことが明らかになった。二度とこのような事件の発生を許してはならず、早急に具体的かつ抜本的な対策を講ずること。
虐待防止マニュアル等を整備すると共に、虐待発生時における管理者への報告を徹底する等院内での報告相談体制の整備を行うこと。
外部人材を招聘して院外の意見も積極的に取り入れられるようにするなど、実効性のある虐待防止策を講ずること。
管理者は、少なくとも1年に1回以上、全ての従事者を対象として人権擁護及び虐待等不適切行為の防止に係る研修を実施すること。

(3)入院患者の隔離について
隔離等の行動制限を行う場合は、法令に則り所定の手続きを行うなど、法令の遵守を徹底すること。
隔離を行う場合に遵守すべき事項は、法令・通知に明確に定められている。複数の患者を閉鎖的環境の部屋に入室させることは明確な違反であり、厳に行わないこと。
隔離を行う場合は、必ず精神保健指定医の指示に基づくこと。指定医は隔離の相談があった際は速やかに診察し、適否について判断を行うこと。

3.命令年月日

令和2年8月17日(月曜)

4.これまでの経緯

令和2年1月31日:入院患者への暴力行為について○○市が把握。
令和2年2月3日~7月10日(合計6回):精神保健福祉法に基づく臨時の実地指導を実施。職員・患者への聴き取り調査及び書類等の確認を実施。
令和2年6月:職員に対するアンケート調査実施

5.根拠法令

法第36条第3項(処遇)
法第37条第1項

6.本市での精神科病院における再発防止への取り組みについて

(1)精神科病院で不適切行為が発生した場合、法令上、病院や発見者に行政への通報義務が課されていないため、国に対し、法改正等を要望。
(2)実地指導の強化:実地指導の実施時間を拡大し、入院患者や医療従事者からの聴き取り調査にかける時間を大幅に増やす。
(3)行政への確実な報告・通報の徹底:
現行制度の中で速やかに対応すべく、○○市独自の対策として以下の項目の遵守を、市内の精神科病院(14病院)に対して求める。
①病院内で不適切行為が発生した場合、病院として必ず○○市に連絡すること。
②病院職員や患者が不適切行為を発見した場合、○○市に速やかに通報できるよう、その通報先を院内に掲示するとともに、すべての職員に周知すること。(公益通報制度)
③不適切行為を発見したり、疑いをもった職員が、上司や同僚に報告・相談し、速やかに管理者へ情報が伝わる制度を設けること。
(4)有識者会議(○○市市民福祉調査委員会・精神保健福祉専門分科会)の開催:学識経験者等に実地指導の実施状況等を検証していただき、随時改善を図っていく。」


上記報道の件は,私が担当したものではありません.
きわめて重大な事件で,看護師ら6人の責任のみならず,病院の責任も大きいと思います.

谷直樹

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by medical-law | 2020-08-17 22:11 | 医療