大阪高裁令和2年12月17日判決,減数手術の注意義務違反を認め,注意義務違反と胎児死亡との因果関係を認めず(報道)
「五つ子を妊娠後、胎児の数を減らす「減数手術」のミスで一人も出産できなかったとして、大阪府内の夫婦が、産婦人科医院を運営する医療法人に約2300万円の賠償を求めた訴訟の控訴審判決が17日、大阪高裁であった。西川知一郎裁判長は、請求を棄却した1審・大阪地裁判決を変更し、手術上の注意義務違反があったとして、55万円の賠償を命じた。ただ、流産との因果関係は否定した。
高裁判決は、手術で使われた針が太く、刺した回数も約30回と多数に上った点を重視。母体をできる限り傷つけない配慮を欠き、針の選択に注意を払わなかったとして医師の注意義務違反を認定した。流産の直接の原因となったとは考えにくいが、妻が受けた「肉体的・精神的苦痛の程度は小さくない」として、慰謝料などの賠償義務があると結論付けた。
判決によると、妻は30代で不妊治療を受け、2015年6月に五つ子を妊娠。医師の勧めで減数手術を2度受け、胎児の数を2人に減らしたが、同年9月に流産した。1審・大阪地裁判決(20年1月)は医師の過失を認めず、請求を棄却していた。
判決後、夫婦の代理人の中村智広弁護士は「針を刺した回数などの違法性を認めたのは意義があり、1審よりも評価できる」と述べた。妻は「認められた部分があり、気持ちも少し前に進めた」とのコメントを発表した。【藤河匠】」
報道の件は私が担当したものではありません.
原判決(大阪地裁令和2年1月28日 )は請求棄却でしたので,一歩前進と思います.原判決は,減数手術の医学的知見が確立しておらず医師に過失があったとは言えない,と判断しましたが,全体としては医学的知見の確立がなくてもやっては,明らかに行ってはいけない部分があることもあると思います.
司法修習生のとき,民弁(民事弁護)の教官が「民弁に正解無し」と言いました.その後,修習生の自由すぎる起案を読んで「民弁に正解は無いが,不正解はある」と修正しました.民事弁護の書面はどのように書くのが正解かは判断が難しいのですが,明らかにダメ,不正解な起案はある,と学びました.
全体としては未確立の医療においても,明らかな注意義務違反はあると思います.
【追記】
産経新聞「五つ子妊娠「減数手術」でミス 病院側の賠償確定 最高裁」(2021年10月1日)は次のとおり報じました.
「不妊治療で五つ子を妊娠したのに一人も出産できなかったのは胎児の数を減らす「減胎(減数)手術」を受けた際のミスが原因として、大阪府内の夫婦が産婦人科医院を運営する医療法人に約2300万円の損害賠償を求めた訴訟で、最高裁第1小法廷(山口厚裁判長)は、双方の上告を退ける決定をした。9月30日付。請求を棄却した1審判決を変更し、55万円の賠償を命じた2審判決が確定した。
判決によると、妻は平成27年、五つ子の妊娠が判明。産婦人科医院の医師から勧められ、腹部に薬剤などを注射する減胎手術を受けて胎児を2人に減らしたが、この2人も流産した。
大阪地裁は「医師に過失があったとはいえない」として、夫婦の請求を棄却。だが大阪高裁では、手術と流産の因果関係は否定したが、海外で使われるものより太い針が使用されていた上、通常なら数回で済む注射を約30回行っており、母体の負担に対する配慮を欠く注意義務違反があったと指摘、賠償を命じた。」
谷直樹
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