弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

患者の権利オンブズマン東京,感染症法の改正法案に反対する意見書

患者の権利オンブズマン東京は,2021年1月25日,「感染症法の改正法案に反対する意見書」を衆参両院議長と各政党に送付しました.その内容は以下のとおりです.

意見の趣旨

「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の改正により,新型コロナウイルス感染症の患者・感染者が入院措置に反したり,積極的疫学調査・検査を拒否する場合の処罰規定を設けることに強く反対します。

意見の理由

1 はじめに


患者の権利オンブズマン東京は、患者の自立的な行動によって患者の権利の促進を図り医療・福祉システムの改善と質の向上を目指すことを目的として2002年12月に発足した市民団体です。

2 本改正が患者の権利を侵害すること

新型コロナウイルス感染症の患者・感染者が入院措置に反したり、積極的疫学調査・検査を拒否する場合の処罰規定を設けることは、患者の権利を侵害し、患者の人権尊重を謳う「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下、「感染症法」といいます)の趣旨に反すると考えます。
患者の自己決定権(日本国憲法第13条)から入院についての自己決定権等は尊重されるべきです。
感染症法は、前文に「我が国においては、過去にハンセン病、後天性免疫不全症候群等の感染症の患者等に対するいわれのない差別や偏見が存在したという事実を重く受け止め、これを教訓として今後に生かすことが必要である。このような感染症をめぐる状況の変化や感染症の患者等が置かれてきた状況を踏まえ、感染症の患者等の人権を尊重しつつ、これらの者に対する良質かつ適切な医療の提供を確保し、感染症に迅速かつ適確に対応することが求められている。」と明記しております。
感染症法第二条は、「感染症の発生の予防及びそのまん延の防止を目的として国及び地方公共団体が講ずる施策は、これらを目的とする施策に関する国際的動向を踏まえつつ、保健医療を取り巻く環境の変化、国際交流の進展等に即応し、新感染症その他の感染症に迅速かつ適確に対応することができるよう、感染症の患者等が置かれている状況を深く認識し、これらの者の人権を尊重しつつ、総合的かつ計画的に推進されることを基本理念とする。」としています。
刑事罰をもって入院を強制するという、この感染症法改正は、患者の人権を侵害しています。憲法に違反し、感染症法の趣旨と真逆の改正です。さらに、感染者に対する差別を助長しかねません。

3 立法事実がないこと

一般に、法律を制定、改正する場合、その基礎を形成しかつその合理性を支える一般的事実(立法事実)が必要です。
新型コロナウイルス感染症の患者・感染者が入院措置に反したり、積極的疫学調査・検査を拒否する場合に処罰する必要性、合理性が必要です。
新型コロナウイルス感染症は、入院を拒んでいる患者、積極的疫学調査・検査を拒否する人によって蔓延しているのではありません。無症状の感染者が感染を自覚することができず、入国規制緩和とGo Toキャンペーンが無症状の感染者による感染拡大を後押ししてきたと考えられます。
入院が必要な人がただちに入院できない状況で、入院待ちのうちに死亡するケースが報道されています。積極的疫学調査については、保健所の人的限界のため縮小が検討されています。検査は迅速に行われず、検査結果の通知も遅れています。国、地方自治体がその責務を果たすことが求められています。
患者が入院を拒んだり、感染者、感染の疑いのある人が非協力的であることが多くそのため感染が拡大しているという事実は提出されていません。
改正案の根拠となる立法事実がありません。

4 必要最小限の規制ではないこと

本改正は、明らかに必要最小限の規制ではありません。
入院,積極的疫学調査・検査を拒否する人は,それらに伴って発生する経済的社会的不利益のために拒否すると考えられます。差別等を無くし,経済的不利益を補償する政策を実施することによりこれらの拒否は減少するはずです。

5 結論

以上から、患者の権利オンブズマン東京は、感染症法の改正により、新型コロナウイルス感染症の患者・感染者が入院措置に反したり、積極的疫学調査・検査を拒否する場合の処罰規定を設けることに強く反対します。
以 上

谷直樹

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by medical-law | 2021-01-25 16:23 | 人権