国立大学病院,カルテに記載した検査結果のフォロー情報に対応せず、 肺癌の診断・治療が5年9か月遅れ、死亡した事例公表
注目すべきは再発防止策です.
再発防止策の提言は次のとおりです.
「再発防止策の提言
(1) 保険適応外診療を行う際の手続きについての教育 保険適応外の検査等を患者に行う場合は、①合目的医学的事由の存在、②安全性・有効性が確認されていないこと、保険適応でないことの患者への事前説明と同意、③通常以上のモニタリング、④これらのカルテへの記載、の 4 条件が必要となる。これらを改めて医師に教育することが求められる。
(2) 外来事前準備と、当日の診療の齟齬の解消について 外来主治医は、患者の受診前に自ら準備した診療予定内容に最大の注意を払い、適切に対応する必要がある。外来に関係するすべての医師に対し、あらためて注意喚起が求められる。
(3) コピー&ペースト機能の制限 カルテ内の情報をコピー&ペースト機能を用いて転記することは、利便性がある一方、記載内容への注意が削がれ、誤った記載や、重大な伝達ミスに繋がるなど、危険性も大きい。コピー&ペースト機能の使用を制限する、コピー&ペーストを許可される場面と許可されない場面を明確にするといった方針の導入が望ましい。名大病院では 2018 年より本件に関する方針を作成して周知を開始しているが、現状を確認し、より実効性のある対策に繋げることが望ましい。
(4) 画像診断レポート内容の患者への説明について 画像診断を行った場合、その結果について、担当医師は説明責任を有する。特に画像診断レポートの内容については、担当医師が熟読し、重要点について、遺漏なく患者に説明する必要がある。限られた診療時間内で、そのことに限界があるのであれば、画像診断レポートをコピーして患者と共有するといった取り組みも、積極的に検討されたい。
(5) 重要検査結果に対するフラグ付け機能と第三者モニターシステムの構築 名大病院では、2015年の画像診断レポート未読による医療事故発生後、レポートの未読既読管理システムを構築し、現在ではレポート作成後、45 日時点での未読率をゼロ化することに成功している。レポートに記載された内容が、確実に患者に実施されたかどうかを確認するシステムについては、2020 年以降、放射線科医の重要記載の表現を「お願いします」「お勧めします」「してください」「推奨」の 4 パターンに限定し、それらの表現が用いられた患者を、第三者である安全管理担当者が定期的にフォローして、適切な診療が行われているかどうかを確認する、という取り組みを試行している。これは、厚生労働科学研究「医療安全に資する病院情報システムの機能を普及させるための施策に関する研究」(松村班)によって提唱された、いわゆる「フラグ機能」に相当する取り組みであり、一定の効果が期待されるものである。しかし、現状はあくまで試行段階であり、完全な対策として確立されたものではない。今後、より安全な防護対策に繋げていくことが望まれる。
(6) 外来終診時における主治医によるカルテの点検と、外来終診時サマリーの記載 患者の外来終診時には、主治医がそれまでの診療を点検しながら振り返り、次に患者が受診した時に、新たな担当医師が状況を的確に確認できるよう、外来終診時サマリー(要約)を記載することが推奨されている。外来に関係するすべての医師に対し、あらためて注意喚起することが望ましい。名大病院としてプロブレムリストの記載や、外来終診時サマリーの記載状況を向上させる監査システムの導入を検討されたい。
(7) 外来診療でのエラーに対する組織防御策の構築と第三者による質的監査の向上 外来診療の質の担保は、専ら外来担当医師個人の努力に委ねられることが多い。中~長期に亘る外来診療での診断エラーやヒューマンエラーは、高い確率で起こりうることであるが、その組織的防御策については、あまり議論されてこなかった。本事例は、日本の医療における外来診療のリスク管理の脆弱性を如実に伝えるものである。名大病院のみならず、医療界全体としての、これらのリスクへの対処が求められる。また、外来診療に対する第三者による質的監査の向上も検討課題である。」
谷直樹
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