最高裁令和3年2月24日判決,孔子廟政教分離訴訟で違憲判断
「儒教の祖、孔子を祭る「久米至聖廟(孔子廟)」のため、那覇市が松山公園内の土地を無償提供していることが憲法の政教分離原則に違反するかが争われた住民訴訟の上告審判決で、最高裁大法廷(裁判長・大谷直人長官)は24日、無償提供を違憲と判断した。
政教分離は、国や自治体に宗教的中立であることを求めるもの。差し戻し後の一、二審判決は、いずれも孔子廟を宗教的な施設と認定し、那覇市による無償提供を違憲と判断していた。
住民側は孔子廟で行われる「釋奠祭禮(せきてんさいれい)」が宗教的意義を持つと主張。「学術的見地からも一般人の感覚からも宗教的施設。特定の宗教に対する援助や助長にあたる」とし、無償提供は政教分離の原則に違反するとしていた。
一方、那覇市側は「沖縄の歴史や文化を伝える教養施設で、宗教的意義はない」と反論した。施設が観光資源としても重要な役割を果たしているとし「使用料免除は公共的な目的があり、宗教への援助や助長にはならない」としていた。」
上記報道の件は私が担当したものではありません.
儒教は宗教ですから,釋奠祭禮には宗教的意義があるのではないかと思います.
孔子廟の土地使用料を市が全額免除したのは違憲となります.
最高裁は,「社会通念に照らして総合的に判断すると,本件免除は,市と宗教との関わり合いが,我が国の社会的,文化的諸条件に照らし,信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものとして,憲法20条3項の禁止する宗教的活動に該当すると解するのが相当である。」と判示しました.
最高裁は以下のとおり判示しました.
「
主文
1参加人の上告を棄却する。
2原判決中第1審原告敗訴部分を破棄する。
3前項の部分につき,第1審被告の控訴を却下し,参加人の控訴を棄却する。
4控訴費用及び上告費用は第1審被告の負担とする。
理由
第1事案の概要
1本件は,那覇市(以下「市」という。)の管理する都市公園内に儒教の祖である孔子等を祀った久米至聖廟(以下「本件施設」という。)を設置することを参加人に許可した上で,その敷地の使用料(以下「公園使用料」という。)の全額を免除した当時の市長の行為は,憲法の定める政教分離原則に違反し,無効であり,第1審被告が参加人に対して平成26年4月1日から同年7月24日までの間の公園使用料181万7063円(以下「本件使用料」という。)を請求しないことが違法に財産の管理を怠るものであるとして,市の住民である第1審原告が,第1審被告を相手に,地方自治法242条の2第1項3号に基づき上記怠る事実の違法確認を求める住民訴訟である。
2原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)那覇市公園条例(1970年那覇市条例第6号。以下,単に「公園条例」という。)及び那覇市公園条例施行規則(1970年那覇市規則第5号。平成28年那覇市規則第21号による改正前のもの。以下,単に「公園条例施行規則」という。)によれば,都市公園法5条1項に基づく公園施設の設置許可(以下「公園施設設置許可」という。)を受けた者は,市に対し,占用面積1㎡につき1か月360円の使用料を納付しなければならず,上記使用料は毎月5日までにその月分を徴収することとされているが(公園条例11条1項,2項ただし書,別表第1),市長は,公共的団体が公益の目的で使用する場合には使用料の全額(公園条例11条の2第4号,公園条例施行規則15条1項2号)を,その他市長が特に必要と認める場合には市長が必要と認める額(公園条例11条の2第8号,公園条例施行規則15条1項3号)をそれぞれ免除することができることとされている。
(2)ア市は,都市公園法2条1項1号所定の都市公園として,市内の久米地域に松山公園(以下「本件公園」という。)を設置し,これを管理している。本件施設は,本件公園内の国公有地上に設置された,儒教の祖である孔子やその4人の門弟である四配等を祀る廟である。
本件施設の建物等の所有者は参加人である。参加人は,本件施設,道教の神等を祀る天尊廟及び航海安全の守護神を祀る天妃宮の公開,久米三十六姓(約600年前から約300年間にわたり,現在の中国福建省又はその周辺地域から琉球に渡来してきた人々)の歴史研究,論語を中心とする東洋文化の普及等を目的とする一般社団法人であり,定款上,上記目的が明記されるとともに,その正会員(社員)の資格が久米三十六姓の末えいに限定されている。
イ本件施設は,大成殿,啓聖祠,明倫堂・図書館,至聖門,御路,御庭空間等によって構成され,その占用面積は1335㎡であり,その敷地は,至聖門,明倫堂・図書館,フェンス等により,本件公園の他の部分から仕切られている。本件施設の出入口に当たる至聖門には三つの扉があり,参加人の説明によれば,中央の扉は孔子の霊のための扉とされ,孔子の霊を迎えるために1年に1度,後記ウの釋奠祭禮の日にのみ開かれる。御路は,御庭空間の中央を至聖門から大成殿に向かって直線的に伸びる通路であり,孔子の霊は,至聖門を通過して御路を進み,大成殿の正面階段の中央部分に設けられた石龍陛を越えて大成殿へ上るとされている。
大成殿は,本件施設の本殿と位置付けられており,その内部の中央正面には孔子
の像及び神位(神霊を据える所)が,その左右には四配の神位がそれぞれ配置され,観光客に加え,家族繁栄,学業成就,試験合格等を祈願する多くの人々が参拝に訪れる。また,本件施設においては,大成殿の香炉灰が封入された「学業成就(祈願)カード」が販売されていたことがあった。
ウ本件施設では,平成25年以降,毎年,孔子の生誕の日とされる9月28日に,供物を並べて孔子の霊を迎え,上香,祝文奉読等をした後にこれを送り返すという内容の行事である釋奠祭禮が行われている。参加人においては,釋奠祭禮の挙行がその事業として定款上明記されるとともに,久米三十六姓の末えい以外の者がこれを行うことについては,事業の形骸化,観光ショー化,世俗化のおそれがあり,許容することができないとされている。
(3)ア久米三十六姓は,航海,造船等の技術を有し,通訳や交易を担い,琉球王国の繁栄を支えた職能集団であり,かつて久米地域に居住し,17世紀に同地域に孔子等を祀る至聖廟を建立するとともに,18世紀にその隣接地に琉球における最初の公立学校とされている明倫堂を建立した(以下,この至聖廟と明倫堂とを併せて「当初の至聖廟等」という。)。
当初の至聖廟等及びその敷地は,明治12年に沖縄県が設置された後,社寺に類する施設として国有とされ,その後,請願を受けて同35年に当時の那覇区に返還され,大正4年に参加人の前身である社団法人久米崇聖会(以下,参加人と区別することなく,「参加人」という。)に譲与された。なお,当初の至聖廟等は,沖縄県によって,その敷地上における工作物の建設等につき,社寺に準じた規制を受けていた。
当初の至聖廟等は,第二次世界大戦の戦災により焼失し,その後も区画整理のため久米地域において再建されることはなかったが,昭和49年ないし同50年頃,参加人が所有する那覇市若狭所在の土地上に,天尊廟及び天妃宮と共に,至聖廟及び明倫堂が再建され(以下,この至聖廟と明倫堂とを併せて「旧至聖廟等」という。),参加人はこれらを維持管理するようになった。参加人の会報誌には,旧至聖廟等,天尊廟及び天妃宮について,普段は1日当たり約200人の参拝者がいる旨の記載がある。
イ参加人は,平成11年3月,市が旧久米郵便局の跡地を国から買い取り,本件公園の一部として取り込むとの情報を得て,当初の至聖廟等があった場所ではないものの,同跡地に至聖廟を移転して久米地域に回帰すべく,同12年12月,市に対し,要請活動を開始した。
市においては,平成15年に松山公園周辺土地利用計画(案)策定業務に係る委員会及びその作業部会(以下「本件委員会等」という。)が複数回開かれ,有識者等が出席し,本件公園周辺の土地利用計画に関して議論が行われ,その際に出された意見の中には至聖廟の宗教性を問題視するものがあった。
市は,平成15年9月,本件委員会等における議論等を踏まえ,松山公園周辺土地利用計画案(以下「本件土地利用計画案」という。)を策定した。本件土地利用計画案において,大成殿については,公園のシンボルとして整備することとされる一方,公的施設としての性格について議論を呼ぶ可能性があり,公的補助金を導入することや,国公有地上に建設することは難しいとされ,参加人の所有する土地との換地をするなどして,私有地内に配置することが考えられるとの整理がされていた。
ウ市は,本件公園の用地として,平成18年2月1日付けで,国から,那覇市久米所在の国有地(地積4560.30㎡)を代金7億6600万円で買い受けるとともに,同年6月21日付けで,国との間で,同所在の国有地(地積2280.14㎡)を目的とする国有財産無償貸付契約を締結した。
エ当時の市長は,参加人の申請に基づき,平成23年3月31日付けで本件施設に係る公園施設設置許可(設置の期間は許可の日から同26年3月31日まで)をするとともに,公園条例11条の2第4号,公園条例施行規則15条1項2号に基づき,上記期間における公園使用料の全額を免除する旨の処分をした。参加人は,平成24年3月20日に本件施設の新築工事に着手し,同25年4月30日までに同工事を完了した。
上記期間が満了するのに伴い,当時の市長は,参加人の申請に基づき,平成26年3月28日付けで本件施設に係る公園施設設置許可(設置の期間は同年4月1日から平成29年3月31日まで。以下「本件設置許可」という。)をするとともに,公園条例11条の2第4号,公園条例施行規則15条1項2号に基づき,上記期間における公園使用料の全額を免除する旨の処分(以下「本件免除」という。)をした。なお,上記期間は,本件公園の管理上支障がない限り,更新が予定されていた
「第2令和元年(行ツ)第222号上告代理人大城浩ほかの上告理由及び同上告補助参加代理人当山尚幸,同大島優樹の上告理由について
1原審は,本件免除が,その直接の効果として,参加人による本件施設を利用した宗教的活動を容易にしているなどとして,憲法20条1項後段,3項,89条に違反すると判断した。所論は,原審のこの判断について,上記各条項の解釈適用の誤り及び理由の不備がある旨をいうものである。
2憲法は,20条1項後段,3項,89条において,いわゆる政教分離の原則に基づく諸規定(以下「政教分離規定」という。)を設けているところ,一般に,政教分離原則とは,国家(地方公共団体を含む。以下同じ。)の非宗教性ないし宗教的中立性を意味するものとされている。そして,我が国においては,各種の宗教が多元的,重層的に発達,併存してきているのであって,このような宗教事情の下で信教の自由を確実に実現するためには,単に信教の自由を無条件に保障するのみでは足りず,国家といかなる宗教との結び付きをも排除するため,政教分離規定を設ける必要性が大であった。しかしながら,国家と宗教との関わり合いには種々の形態があり,およそ国家が宗教との一切の関係を持つことが許されないというものではなく,政教分離規定は,その関わり合いが我が国の社会的,文化的諸条件に照らし,信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものと認められる場合に,これを許さないとするものであると解される。
そして,国又は地方公共団体が,国公有地上にある施設の敷地の使用料の免除をする場合においては,当該施設の性格や当該免除をすることとした経緯等には様々なものがあり得ることが容易に想定されるところであり,例えば,一般的には宗教的施設としての性格を有する施設であっても,同時に歴史的,文化財的な建造物として保護の対象となるものであったり,観光資源,国際親善,地域の親睦の場などといった他の意義を有していたりすることも少なくなく,それらの文化的あるいは社会的な価値や意義に着目して当該免除がされる場合もあり得る。これらの事情のいかんは,当該免除が,一般人の目から見て特定の宗教に対する援助等と評価されるか否かに影響するものと考えられるから,政教分離原則との関係を考えるに当たっても,重要な考慮要素とされるべきものといえる。そうすると,当該免除が,前記諸条件に照らし,信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えて,政教分離規定に違反するか否かを判断するに当たっては,当該施設の性格,当該免除をすることとした経緯,当該免除に伴う当該国公有地の無償提供の態様,これらに対する一般人の評価等,諸般の事情を考慮し,社会通念に照らして総合的に判断すべきものと解するのが相当である。
以上のように解すべきことは,当裁判所の判例(最高裁昭和46年(行ツ)第69号同52年7月13日大法廷判決・民集31巻4号533頁,最高裁平成4年(行ツ)第156号同9年4月2日大法廷判決・民集51巻4号1673頁,最高裁平成19年(行ツ)第260号同22年1月20日大法廷判決・民集64巻1号1頁,最高裁平成19年(行ツ)第334号同22年1月20日大法廷判決・民集64巻1号128頁等)の趣旨とするところからも明らかである。
3(1)前記事実関係等によれば,本件施設は,本件公園の他の部分から仕切られた区域内に一体として設置されているところ,大成殿は,本件施設の本殿と位置付けられており,その内部の正面には孔子の像及び神位が,その左右には四配の神位がそれぞれ配置され,家族繁栄,学業成就,試験合格等を祈願する多くの人々による参拝を受けているほか,大成殿の香炉灰が封入された「学業成就(祈願)カード」が本件施設で販売されていたこともあったというのである。そうすると,本件施設は,その外観等に照らして,神体又は本尊に対する参拝を受け入れる社寺との類似性があるということができる。
本件施設で行われる釋奠祭禮は,その内容が供物を並べて孔子の霊を迎え,上香,祝文奉読等をした後にこれを送り返すというものであることに鑑みると,思想家である孔子を歴史上の偉大な人物として顕彰するにとどまらず,その霊の存在を前提として,これを崇め奉るという宗教的意義を有する儀式というほかない。また,参加人は釋奠祭禮の観光ショー化等を許容しない姿勢を示しており,釋奠祭禮が主に観光振興等の世俗的な目的に基づいて行われているなどの事情もうかがわれない。そして,参加人の説明によれば,至聖門の中央の扉は,孔子の霊を迎えるために1年に1度,釋奠祭禮の日にのみ開かれるものであり,孔子の霊は,御庭空間の中央を大成殿に向かって直線的に伸びる御路を進み,大成殿の正面階段の中央部分に設けられた石龍陛を越えて大成殿へ上るというのであるから,本件施設の建物等は,上記のような宗教的意義を有する儀式である釋奠祭禮を実施するという目的に従って配置されたものということができる。
また,当初の至聖廟等は,少なくとも明治時代以降,社寺と同様の取扱いを受けていたほか,旧至聖廟等は,道教の神等を祀る天尊廟及び航海安全の守護神を祀る天妃宮と同じ敷地内にあり,参加人はこれらを一体として維持管理し,多くの参拝者を受け入れていたことがうかがわれる。旧至聖廟等は当初の至聖廟等を再建したものと位置付けられ,本件施設はその旧至聖廟等を移転したものと位置付けられていること等に照らせば,本件施設は当初の至聖廟等及び旧至聖廟等の宗教性を引き継ぐものということができる。
以上によれば,本件施設については,一体としてその宗教性を肯定することができることはもとより,その程度も軽微とはいえない。
(2)本件免除がされた経緯は,市が,本件施設の観光資源等としての意義に着目し,又はかつて琉球王国の繁栄を支えた久米三十六姓が居住し,当初の至聖廟等があった久米地域に本件施設が所在すること等をもって本件施設の歴史的価値が認められるとして,その敷地の使用料(公園使用料)を免除することとしたというものであったことがうかがわれる。
しかしながら,市は,本件公園の用地として,新たに国から国有地を購入し,又は借り受けたものであるところ,参加人は自己の所有する土地上に旧至聖廟等を有していた上,本件土地利用計画案においては,本件委員会等で至聖廟の宗教性を問題視する意見があったこと等を踏まえて,大成殿を建設する予定の敷地につき参加人の所有する土地との換地をするなどして,大成殿を私有地内に配置することが考えられる旨の整理がされていたというのである。また,本件施設は,当初の至聖廟等とは異なる場所に平成25年に新築されたものであって,当初の至聖廟等を復元したものであることはうかがわれず,法令上の文化財としての取扱いを受けているなどの事情もうかがわれない。
そうすると,本件施設の観光資源等としての意義や歴史的価値をもって,直ちに,参加人に対して本件免除により新たに本件施設の敷地として国公有地を無償で提供することの必要性及び合理性を裏付けるものとはいえない。
(3)本件免除に伴う国公有地の無償提供の態様は,本件設置許可に係る占用面積が1335㎡に及び,免除の対象となる公園使用料相当額が年間で576万7200円(占用面積1335㎡×1か月360円×12か月)に上るというものであって,本件免除によって参加人が享受する利益は,相当に大きいということができる。また,本件設置許可の期間は3年とされているが,公園の管理上支障がない限り更新が予定されているため,本件施設を構成する建物等が存続する限り更新が繰り返され,これに伴い公園使用料が免除されると,参加人は継続的に上記と同様の利益を享受することとなる。
そして,参加人は,久米三十六姓の歴史研究等をもその目的としているものの,宗教性を有する本件施設の公開や宗教的意義を有する釋奠祭禮の挙行を定款上の目的又は事業として掲げており,実際に本件施設において,多くの参拝者を受け入れ,釋奠祭禮を挙行している。このような参加人の本件施設における活動の内容や位置付け等を考慮すると,本件免除は,参加人に上記利益を享受させることにより,参加人が本件施設を利用した宗教的活動を行うことを容易にするものであるということができ,その効果が間接的,付随的なものにとどまるとはいえない。
(4)これまで説示したところによれば,本件施設の観光資源等としての意義や歴史的価値を考慮しても,本件免除は,一般人の目から見て,市が参加人の上記活動に係る特定の宗教に対して特別の便益を提供し,これを援助していると評価されてもやむを得ないものといえる。
(5)以上のような事情を考慮し,社会通念に照らして総合的に判断すると,本件免除は,市と宗教との関わり合いが,我が国の社会的,文化的諸条件に照らし,信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものとして,憲法20条3項の禁止する宗教的活動に該当すると解するのが相当である。
4以上によれば,本件免除が憲法20条1項後段,89条に違反するか否かについて判断するまでもなく,本件免除を違憲とした原審の判断は是認することができる。また,原判決について,上告理由としての理由の不備があるということもできない。論旨はいずれも採用することができない。」
第3令和元年(行ヒ)第262号上告代理人德永信一,同岩原義則の上告受理申立て理由について
1原審は,前記第1の2の事実関係等の下において,本件免除は無効であるとした上で,要旨次のとおり判断し,第1審原告の請求について,第1審被告が参加人に対して平成26年4月1日から同年7月24日までの間の公園使用料を請求しないことが違法であることを確認することを求める限度で認容すべきものとし,その余の部分を棄却した。
公園条例及び公園条例施行規則上,第1審被告が特に必要と認める場合には都市公園の使用料の一部を免除することができる旨規定されているから,第1審被告が,参加人から本件設置許可に伴う公園使用料を徴収すべき義務を負うとしても,本件使用料の全額を徴収しないことが,直ちに第1審被告の財産管理上の裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用するものとして,違法であるということはできない。
2しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)公園施設設置許可を受けた者の公園条例に基づく使用料の金額は,公園条例により一義的に決定されること,公園条例及び公園条例施行規則上,上記使用料に係る賦課決定等の行為を想定した規定は見当たらないことに照らせば,上記使用料は,公園施設設置許可がされ,所定の期間が経過することによって当然に発生するものと解するのが相当である。
参加人は,本件設置許可を受け,所定の期間を経過したものであり,かつ,本件免除は違憲無効であるというべきであるから,事実審の口頭弁論終結時において,市の参加人に対する本件使用料に係る債権が全額存在していたということができる。
(2)使用料等の地方公共団体の歳入に係る督促について定める地方自治法231条の3第1項等の規定並びに地方公共団体が有する債権の管理について定める同法240条及び地方自治法施行令171条の2から171条の7までの規定によれば,客観的に存在する使用料に係る債権を理由もなく放置したり免除したりすることは許されず,原則として,地方公共団体の長にその行使又は不行使について裁量はないというべきである(最高裁平成12年(行ヒ)第246号同16年4月23日第二小法廷判決・民集58巻4号892頁参照)。
そして,公園条例11条の2第8号は使用料の一部の免除について定めているものの,事実審の口頭弁論終結時までに,同号に基づく免除の処分はされておらず,公園条例及び公園条例施行規則において,一旦発生した使用料の徴収の猶予等を定めた規定も存在しない。また,本件において,地方自治法施行令171条の5から171条の7までに規定する徴収停止等の要件に該当する事情もうかがわれない。そうすると,第1審被告において,本件使用料に係る債権の行使又は不行使についての裁量があるとはいえず,その全額を請求しないことは違法というほかない。
(3)以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,論旨は以上と同旨をいうものとして理由がある。
第4結論
以上の次第で,参加人の上告を棄却することとし,原判決中第1審原告敗訴部分は破棄を免れず,第1審原告の請求は理由があり,これを認容した第1審判決は正当であるから,上記部分につき,参加人の控訴を棄却し,同控訴の提起後にされた第1審被告の控訴は,二重上訴であって不適法であるから,却下することとする。よって,裁判官林景一の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。」
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/039/090039_hanrei.pdf
谷直樹
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